ep514 ディア(The wedge)
「――其は汝、極大火力魔力式レールガン。その雷鳴は神の裁き、その稲光は全知の標。其はここに懺悔懺悔六根清浄。さては轟け急急如律令――」
強大且つ暴力の権化とも言える、魔力の塊が雷鳴を想起させる轟音と共に疾走っていく。その標的が地上にあれば、生きとし生ける全ての者に等しく滅びを与える絶対なる死の気配がある。
だが此度の標的は地上にはない。故に稲妻とは違い、ソレとは真逆の方向へと疾走り抜けていった。
――パシんッ
「消えッ?! そんなまさかッ」
「タカミヤ!どうやらアレはこちらからではどうにも出来ないようです。別の方法を探りましょう」
魔力を練り上げている最中にユーベントロイヤーに対して、何者からも横槍は入らなかった。それは詠唱中の無防備になる際、ツクヨミに対して護衛を依頼したが無駄に終わったという事でもある。
しかしその一撃も無駄に終わったのだから、奇襲は失敗という事もまた同義だと言える。
……が、アーレの城下町の中から不意に雷鳴が鳴り響こうと空が赤黒く変色していようと、住人達は誰一人として顔すら覗かせない。異常に不気味なまでの沈黙を湛え、あれほど賑わっていたアーレの城下町とは思えない光景に、気味の悪さを覚えたのも事実だった。
「ユーベン……ブロイ?」
「――ッ?! ディ……ア」
思いがけない邂逅。アメリアが「魔の酒場亭」にいると思えばこそ、この異常事態を終息させねばと意気込んでいた。だが、その保護対象が突如として目の前に現れたコトでユーベンブロイは揺れた。
更にアメリアが自身の名を呼んだコトで困惑はより一層広がっていく。
今はユーベントロイヤーの姿であり、ランデスの姿とは見た目が大いに違う。間違ってもユーベンブロイと一致させるのは難しいだろう。「それなのに何故?」と、心が掻き乱されていくユーベンブロイがそこにいた。
しかし、どんなに動揺が奔ろうとユーベンブロイがディアを見間違えるハズもない。その上でこの異常事態に出来るコトが何かと問われれば、答えは一つしかないだろう。
「ツクヨミ様ッ!」
ツクヨミは知っている。ユーベンブロイの最も尊き存在を――
ツクヨミは理解している。ユーベンブロイの内にある最優先事項を――
ツクヨミは分かっている。ユーベンブロイのこれからの行動を――
だからツクヨミは頷くしかなかった。それ以外の選択肢を選び、想定する中で最も最悪なシナリオに枝葉が伸びた時に、ユーベントロイヤーを止める術が無いからだ。
「えっ?! ちょッ!ブロイ?ななな、何を⁉」
ユーベンブロイはディアを抱きかかえるとそのまま空へと舞い上がり、ヒビ割れた赤黒い母胎を背にしてアーレから最高速度で離れていった。
一方のディアは、訳も分からぬままに連れ攫われる結果となったのだが、抵抗の一つもなく少しばかり顔を赤らめながらユーベントロイヤーの腕の中に収まっている。
これが見知らぬ他人であれば大人しく収まるコトは無いと思われるので、本当にユーベントロイヤーをユーベンブロイだと思っているのだろう。そして空を飛んでいる事に対する恐怖などを微塵も感じなかったのか、そのままスヤスヤと寝息まで立てている始末だった。
――すちゃッ
「ここまでくれば大丈夫でしょう。ツクヨミ様ありがとうございました」
「それでタカミヤ、貴方はこれからどうするのですか?」
ディアを抱えたままユーベンブロイは、クロック峡谷へとやって来ていた。この地はディアにとっても良くない記憶が残る場所に違いはないが、アーレ近郊では危険な可能性が残る。それであれば、「獣」の巣になっていてもクロック峡谷の方が安全と言うモノだ。
だが幸いな事に「空獣」はいない。ユーベントロイヤーの性能試験からまだそこまで日数は経っていないので、営巣されていないのかもしれない。
「アメリアが何故、ユーベンブロイの名前を呼んだのか分かりませんが、「魔の酒場亭」に何かあったのならこのままアメリアをアーレに帰すワケにはいきませんッ」
それはツクヨミが想定していた通りの解答だった。そして、それと同時に酷くがっかりしたのは言うまでもない。
だが、こうなってしまった以上、ユーベンブロイに無理強いをさせられるツクヨミでもなかった。
かつてのタカミヤであれば、ツクヨミと共に異変を止める為に動いてくれた可能性があるが、アメリアという存在を得たユーベンブロイが、その存在を危険に晒してまで協力してくれるとは思っていない。
だがこの状況は見過ごせない。ロプトに協力してしまった咎があり、それが楔として身の内深くに突き刺さっている現状に於いて、この「箱庭」に生きる全ての生命を投げ出してしまえば、自分の「概念」はそれに堪えきれないかもしれない。
アーレに起きている異変が安全なモノと確証が得られるのであれば、構わないだろうが少なくとも今はその可能性を見出す事は出来ない。
それならば自分一人でも止める方法を見付けなければならない――




