ep51 イチゴ(Ugly fight)
「やるとは思ってたけど、これでワタシと飼い犬達とを分断したつもり……なの?」
「アンタらがバラバラになってくれた方が、こちらとしては「乱戦」になるより戦いやすいからねぇ。――それにしても久方振りだねぇ、エンリ・ルールブレイカー。出来る事ならその顔、二度と見たくはなかったよ……」
「ティア……仲間を気遣うなんて、そんな事……大昔のキミからじゃ考えられなかったよ。キミはだいぶ丸くなってしまったんだね。いや、今の見た目は随分とトガっているが……。まさか、そんな姿で人間の世界に溶け込んでいるとはね。驚きだよ、ティア・マトリクス。――それじゃあご希望通り、殺り合おうか」
「そうさね、アンタと話す事も話したい事もあんまりないし、アンタはとっととおっ死んでくれた方が全ての生物の為になるからねぇ……。――ご期待通り、とっとと殺り合うとするさね」
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「あ……れ?エン様はいずこに?妾達はどうやらこの世界に分断されて招かれたという事でありんしょうか?」
「アンタ……ニゴウだったよな?あの時の借りは返させてもらう」
「あ……ら?あぁ、そうそう。妾もアンタさんに用がありんした。アンタさんに押し倒されたあの日から、妾のカラダは疼いて疼いてどうしようもないのでありんす。今度はアンタさんを妾が押し倒す番……イチゴウセンパイで磨きに磨いた手技口技を以って、妾の疼きを止めさせて頂くとしんしょうかぇ」
「やっぱり大概なド変態だな。今日はエンリが側にいないのに、その変態振り……反吐が出るッ!」
「それじゃ、その反吐を丸呑みにするくらい、気持ち良くなって……。――大層な哭き声を妾に献上しておくんなまし」
「犬っころの遠吠え如きじゃ、アタシはどうってコトにもならない。――その口にアンタのだらしない、ふしだらなワタを詰め込んで永遠に塞いでやんよッ」
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「…………」
「貴女が敵さんですか?貴女のお相手を務めさせて頂きます、ディアと申します。本日は宜しくお願い致しますッ!それにしても……何処かでお会いしました?」
「イ……イイイ……チゴ……ゥ」
「イチゴ?イチゴ好きなんですか?気が合いますねッ!わたしもイチゴとかフルーツをよく食べます!――ところで、やっぱり何処かでお会いしましたよね?わたしの頭がズキズキするんです。教えて下さい!貴女のお名前は何ですか?」
「イイイ……チゴ……ゴゥ」
「イチゴが好きなのは分かりました。お名前を教えて頂けないんですね……それなら貴女の事は「イチゴ」さんとお呼びしますッ!」
「イ……イイイ……ク……」
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こうして人外の者達の壮絶な戦いが繰り広げられていった……。
――「おかみ」こと、ティア・マトリクス vs エンリ・ルールブレイカー――
――エレキシュ・ガリバリウム vs 「ニゴウ」こと、アマテラ・スカイウォーカー――
――ディア vs 「イチゴウ」改め「イチゴ」こと、イシュ・タリバリウム――
特にティアvsエンリの戦いは壮絶であり、文字通り筆舌に尽くし難い。次にエレキシュvsアマテラの戦いだが、この内容は特に一人の発言や行動に於いて過激が過度に「過ぎる」為に、筆舌に尽くすと絆されてしまう事になるだろう。
従って、違う意味で筆舌に尽くし難いと言える……。
最後にディアvsイシュの戦いだがその前に……。
ディアが前に客として乗せた「イシュ」であれば、その姿から直ぐに名前が分かった筈だ。しかし今の「イシュ」はエンの首輪に因って「イチゴウ」となっている。その際に全ての権能は失われ、今の姿は依り代である「ソフィア」の外見だ。
故にディアは「イシュ」だと判別出来ておらず、しかもその姿から、何かを思い出そうとしていた――
どの戦いも早々に決着が付いたモノは何一つとして無い。「おかみ」は「地」の権能を持ち、エンの「風」とは対になる。エレの「冥」とニゴウの「陽」も同じ事。早々に決着が付く可能性などあり得ない。
しかし、ディアとイシュの戦いは権能同士のぶつかり合いではなく、完全なる肉弾戦だった。戦闘訓練をほとんど受けていないディアに対して、元戦闘狂でありながら首輪に因ってその経験と「金」の権能の全て失ったイシュ。
それは見ようによっては……他の二つの戦場から見れば子供のケンカ程度の戦いとも言える。
それでも人外の戦いに違いはないので、実際の「子供のケンカ」程度の小競り合いなどでは決してない。
そこに飛竜種大隊の時に見せた力の一端でもあれば、ディアは有利に立ち回れただろうが、その陰は未だ見えなかったのである――




