ep511 雇用契約書(Plan collapsed)
――所謂「一片」の解説の為だけに、イチ“ep”を使ってしまうのであれば、「万遍」の解説にどれほどの“ep”が犠牲になるのかは想像だに出来ない。
しかしその一方で時間は有限であり、ネタが無尽蔵に湧いて出てくるコトもない。従って、何があろうとも「万遍」の解説も早々に終わらせなければならないだろう――
「おかみ」の頭を悩ませるばかりか頭痛のタネとも言えるモノは、「イシュタル問題」以外にもあった。まぁ、それも全てイシュタル関連の事象に違いはなく、「イシュタル問題」と言われればその通りなので、そのツッコミに限っては、それはそれ。これはこれ。
だが「一方のイシュタル問題」は、当の本人がいる場所では露見せず、「おかみ」が一人になると途端にその姿を現す。いくらその問題を後でイシュタルに問い詰めようとしても、イシュタル本人の前では口に出す事は疎か、その記憶に霞が掛かったように思い出せなくなる。
だから手立てが見当たらず、解決の糸口すら見付けられず、暗中模索を繰り返す挙句に「おかみ」は、夜しか寝られない……じゃなかった、夜も寝られない程にまで疲弊させられていたのである。
※「おかみ」もまた「高位高次元生命体」であるため本人の休息と言うよりは、依り代を多少なりとも休めなくては保たなくなる。拠って、その休息すらままならなくなっていた
その「一方のイシュタル問題」だが内容としては、“矛盾”を超えた“破綻”である――
「息を吐くように嘘をつく」という言葉があるが、まさしくその言葉が体を成している。しかしコレは、そんな生易しいモノではなかった。
何故ならば本人を前にすると、その時はソレが正しいと思わざる得なくなってしまうからだ。それは偏に、どこぞの青狸が腹から取り出す「ひみつ道具」の一つにある「ソノウソホント」の如くと言える。
いやむしろ、「アトカラホント」かもしれないが、それもそれ。これもこれ。
従って追求する事は疎か責める事も叶わず、業を煮やした「おかみ」は、「魔の酒場亭」とイシュタルの間で結んだ「雇用契約書」を持ち出してまで問い詰めようと試みた。
……が、「雇用契約書」がイシュタルを肯定した結果、追訴する事も出来ずに「おかみ」は手も足も出せない状況に陥ったのである。
かといって、イシュタルとの契約を解除しようにも、借金返済の目処が立つばかりか、やらかしを超えたしくじりに起因して店への損害は日に日に増えていく。
「損切り」とばかりにクビにしようにも「雇用契約書」に守られている以上、それも叶わない。
にっちもさっちもいかない状況に、「経験則の天才」と雖も、その爪を折られ牙を捥がれ何の歯も立てられない状態になってしまったのだった。
これは偏に、「おかみ」からすれば、海千山千の化け物の更に上をいくと言わざるを得ない「強敵」だった。しかしイシュタルは「人を騙している」と、そんな素振りを見せる事なく「真実となる嘘」を口から吐き続けている。
よって「おかみ」はその不可思議現象に参ってしまったとしか言いようがない――
「おかみ」の様子が可怪しいというのは、直ぐに「魔の酒場亭」の従業員の話題に上った。特にエレは「おかみ」との付き合いが長い。だからこそ「おかみ」を心配するその気持ちは誰よりも強い。
しかし「おかみ」は、エレがイシュタルと接触するのを“善し”とせず、エレに対してソレを禁止していた。
だからこそ、エレからイシュタルに対しては何もアクションが起こせずにいたのもまた事実である。
エレが普段から給仕として夜営業に参加していたなら話しは変わっていたのだろうが、もう既にエレの入り込む隙間はなくなっていたのである。
因って、こうなっては後の祭りと言わざるを得ないだろう。
イシュタルの被害が大きいのは、アマテラを始め、イシュとウルスラグである。だからこそ、彼女らのフラストレーションは最高潮に達していたが、「雇用契約書」は従業員同士の争いを禁じている。
従って、ガス抜きする事も叶わず、永遠に膨らみ続ける風船のように巨大なフラストレーションの塊になっていったのも事実である。
最後にユーベントロイヤーに負けた後、暫くは店に入り浸っていたエンリだが、イシュタルが現れた頃からぱったりと店に寄り付かなくなった。
エンリはそもそも、厄介事担当の用心棒として強制的に契約を結ばされている。従って「魔の酒場亭」及び「おかみ」には逆らえないが、店からの所用がなければ、その自由度は高い。
※自由度は高いがその反面、働かなければ給料は無い。よって、根無し草といえばその通りの生活を送っている
そんなエンリも何かを忌避するように、寄り付かなくなったのだった。
さて、お気付きだろうか?エンリで最後なのだ。しかし「魔の酒場亭」にはもう一人従業員がいたハズである。
そう、養殖系天然娘の存在だ。しかし、もう既にディアの名前は「魔の酒場亭」から失われていたのである――




