ep505 凶悪相(Complete self-supremacy)
「う……うぅん……あ……れ?あたしは……」
「目が覚めたようだね。じゃあ、アンタが飲み食いした分、耳を揃えてキッチリと払ってもらえるかい?」
監視を任されたエレだが、気持ち良さそうに高イビキを掻いている姿が真横にある状況は、如何がなモノだっただろう。
その答えは、自分の仕事を終わらせた「おかみ」が戻った時に、エレの形相がかなりヤバい事になっていた点から察して欲しい。拠って、エレが本格的に爆発する前に「おかみ」は、「後は自分が対応するさね」と、エレを部屋に戻したのだった。
戦力差が圧倒的だからこそ「おかみ」は腹を括ったのかもしれない。そしてそのまま待つ事、数時間。
もう東の空が白んでくるそんな時合いである――
「ふぁッ?!誰?あたしはなんでこんなところで寝て……そうだった。エレシュキガルがここにいるのではなくて?」
「あのねぇ、アンタは客としてこの店で飲み食いしたのさね。だから先に金を払う必要があるのは分かってもらえるかい?それとも金も持たずに飲み食いしたってのかい?」
ギロリと「おかみ」の釣り上がった目が睨め付けている。その迫力たるや不機嫌度MAXのエレよりも凶悪であり、ディアも裸足で逃げ出す程……と言えるかもしれない。
そんな「おかみ」の睨みに対するは、ある意味で「無敵の人」たる「異界の神」だ。拠って「おかみ」としては、気圧されるワケにはいかないし甘い態度を取るワケにもいかない。
……と、いったところなのだろう。
「おか……ね?それならコレで宜しくて?」
――コトッ
「なんだいなんだい!こんなガラクタじゃあ、足りないに決まってるじゃないさね!アンタが飲み食いした分量を見れば、まだまだ足りないねぇ。 ――払えないなら、どうなるか分かってるんだろう?」
完全にヤクザな「おかみ」がそこにいた。「おかみ」の前に差し出されて置かれたバングルは、意匠に凝った作風で宝石も付いている。少なくとも“ガラクタ”ではない。
しかし……だ。「おかみ」はなんとしても支払いを済ませたくなかったと思われる。
要するに「払えないなら、どうなるか分かっている」の部分が「おかみ」にとって重要なコトであり、ソレを実現出来るか否かが、運命の別れ道と言っても過言ではない。
遣り口が完全にヤクザであり、マフィアであり、極道である。
「クッ……あたしにどうしろと?このイシュタルに、身体を売れとでも?下品極まりない下卑た男達に視姦された挙句に、その凌辱を受け入れろとでも?そんなの認められなくってよ!」
コレがどこぞの聖十字騎士で、どこぞの名門貴族のご令嬢なら、イヤと言いながらもドM気質全開で擦り寄っていくのが容易に想像出来る。
……が、当然のコトながらコレはイシュタルであって、ララティーナではない。
しかし、「おかみ」としても引くワケにはいかない。引けるワケがない。引いたら全てがご破算になる可能性が目に見えるばかりか、目に見えて余り過ぎてるからだ。
だからこそ「海千山千の化け物」と名高い「おかみ」の口八丁手で、イシュタルを完膚無きまでにヤり込まなくては生き残れる術はゼロとなる。
その覚悟を持って「おかみ」は、舌戦を繰り広げていた――
「この店は、野郎共に身体を売って稼いでる店ではないんでね。最初から認めてもらう必要はないさね。ただしアンタが金を払えないなら、アンタは店と契約を結んでもらう事になるさね。ツケ払いなんてのはやってないんでねぇ」
「はぁ?あたしに働けと言ってるという事で宜しくて?この、あ た し に? この「神族」であり、「天上の女主人」のイシュタルに働けと申していると解釈して宜しくて?」
「神族」だから働かなくていいは暴論だと思うが、「女主人」だから働かなくていいと言う論理がまかり通ってしまうと、その国はワガママ放題の暴君が支配している国という事になる。
少なくとも国の為政者とはどんな形であれ働いているモノだ。それは偏に国の発展や国民の平穏の為に……である。
※中には自分の私利私欲の為だけに働いているモノもいるだろうが、それはそれ。これはこれ
まぁ国の為政者が居酒屋で働いているなどという事は、どこぞの八代将軍でもない限り有り得ないと思われるが、イシュタルの発言から鑑みるとするならば「そもそも労働をしたくない」……と言ってるようにしか聞こえないのがミソというモノである。
チヤホヤされる事を快楽とし、持て囃される事を愉悦とし、言い寄って来たモノを手駒にする事を享楽とする、「完全自分至上主義」の超絶ワガママ娘だと自分から言っているようにしか聞こえない。(そこまでは言っていない)
……と、そんな風評被害を植え付けられそうになっているイシュタルだが、なにせ相手は「おかみ」だ。
「おかみ」からすれば、「神族」だろうが「人間」だろうが、その経験則からすればただの小娘に等しい。拠って、完全に武力で訴えられなければ勝機を見出すのは容易と考えていた――




