ep500 変態脳(Anniversary's Episode)
――へなッ
「あ……あ……あ……」
エンリは完全に呆けていた。それこそ理性ばかりか知性まで失った、生ける屍のようでもあった。そう、「高位高次元生命体」という存在では到底届かない頂きにある、「魔法(に片足を突っ込んだ魔術)」をその目で見て、肌で感じてしまったからだ。
※「魔法」は「神族」であれど、使うコトは容易くない。そして、「片足を突っ込んだ魔術」であれば、今回のユーベントロイヤーで三人目といった具合だが、その中に「神族」は含まれていない。現状でタカミヤが使ったとされる「歪な魔法」は認知されていないが、世界に認知されている限りであれば、「魔法使い」は二人存在している。拠ってタカミヤが再度「歪な魔法」を使うか、正式な「魔法」として昇華されればタカミヤも晴れて「魔法使い」と称する事が可能になるが、タカミヤはそれを望んでいない
「今回の件は、おかみさんには黙っておいてあげます。ただ、次にもまた同じようなコトをして、今度こそ被害が出るようであれば、ボクが今の力を以って全力で止めます。いいですね?エンリ」
斯くしてユーベントロイヤーはクロック峡谷から去った。ただ、星間移動を使うでもなく、自力で飛び去っていった。これはカレラの履いていた「ブーツ」から着想を得た、オリジナルの魔術のようである。
※「箱庭」内の惑星に於いて、「飛翔航行」という魔術は発明されていない。それは偏に「空獣」の存在が大きく、「空を飛ぶ=自殺願望」と見做された過去があるからだ。また、「海に出る=自殺願望」という等式も同時に存在している
「アイツは……ワタシは……あ゛ぁぁッ。あ゛ぁぁぁぁぁぁん、あ゛んあ゛んッ」
――びくっビクッ
「んあぁぁ、サイッコーーー」
悠々と空を翔けるユーベントロイヤーが残した光の残滓をその目で追い掛けながら、エンリは完全に自我を失った様子で、身体だけは身動き一つさせずに盛大に喘ぎ声を上げていた。
※エンリが何を感じ、ナニをしていたのかは言及しないので、ご想像にお任せする事とするが、肌での感じ取り方が大いに違うとツッコミを入れるのは大賛成である。
※むしろ、“サイコー”と言うよりは“サイコ”野郎かよ?みたいなツッコミもアリアリのアリ
――少しだけ、後日談――
「はあぁぁぁぁぁぁぁ……」
「まったくなんだい!そんな不景気そうなツラして。店に疫病神が寄り付いちまうじゃないさね!勘弁しとくれよ! ――そもそもアンタはいっつも店に寄り付かなかったじゃないのさ!それなのに、最近はアンタの方から店にやって来るだなんて、頼むから雨以外のモンを降らさないでおくれよ?」
酷い言われようだが、ユーベントロイヤーが去った翌朝から、エンリは「魔の酒場亭」に入り浸るようになった。
……とは言うものの、仕事がしたくて店に入り浸っているワケではない。
実際に昼間の仕事は、現状では閑古鳥が鳴いている。ランデスが家出してからは、昼間の稼ぎは雀の涙ほどしか上がっていない。
ほとほと困り果てた「おかみ」はエレをギルドに向かわせて適当な依頼を行わせて穴埋めをしようとしているが、「蚤の小便、蚊の涙」とはまさにその通りだった。
そして、「おかみ」が話した雨以外のモノが“蚤の小便”や“蚊の涙”という意味ではもっとない――
「おかみさん、ワタシは……とある男のコトを考えると、心が押しつぶされそうになって、苦しくなって堪らずに、気持ち良くなろうと指先が動いちゃう。この気持ちがなんだか分かる?」
どこかでか聞いたようなセリフである。どこかの誰かのセリフとは比べ物にならないくらい、変態度合いがマシマシで、下手をすると絆されそうな気配すらあるが、それはそれ。これはこれ。
「アンタの頭がイっちまってるのは昔からで、今に始まったモンじゃないだろうさね。それで、アンタみたいなド変態に惚れられたら、相手が可哀想ってなモンなんだから、その気持ちは表に出しちゃダメって教えといてあげるさね」
どうやらエンリは、元の世界線の時のエレと同様の結果になったようだ。以前から何回も言っている気がするが、「高位高次元生命体」は繁殖能力を持たない。そこは「神族」とは決定的に違う点として挙げられる。
故に依り代から伝わってくる快楽や快感を感じ取り愉しむ事は出来ても、それは恋愛の果てにある行為ではない。
更に、その行為の果てに依り代が身籠ったとしても、それは「高位高次元生命体の子」ではなく、依り代の血を継ぐ子供である。
しかし、前回のエレと今回のエンリの様子は、明らかに“恋愛脳”になっている予感がある。エンリの場合はアルカディアと同様の“変態脳”のため分かりにくいが、「高位高次元生命体」とは惚れ込みやすい性質を持つのかもしれない。
……が、そんなコトはどうでもいいことであり、それはそれ。これはこれ。だからこそ「少しだけ、後日談」のハズだったのだが、「少しだけ」で終わらないのが困り処である――




