ep499 ペット(Complete spell)
「これで性能試験は終わりですね。流石に地形崩壊させるような魔術は使うのは無理でしたが……。それにしても、収入と損失のバランスは中々です。もっとも、この状態を維持するだけで、魔力は消費されますが……。あ……れ?お客さん……ですか?」
「はぁぁぁぁぁぁ。せっかく、ワタシが用意した起死回生の策をッ!コレが上手く行けば、契約を破棄出来るハズだったのに。 ――チッ!どこの誰かは知らないけど、覚悟は出来てるってコトでいいワケぇ?」
時刻は宵の刻からは、もう大分時間が経った現在真夜中。性能試験を無事に終えたユーベントロイヤーは満足のいく結果で気分は上々だった。
しかしそこに、突然の来訪者が現れたワケだが、その表情にはいつもの余裕は無い様子だった――
「ここにいた群れはエンリ・ルールブレイカーの仕業でしたか。「魔の酒場亭」と契約破棄を行う為の「空獣」だったんですね。それは失礼をば。ただ、悪さはしない方が身の為です……と、進言だけはしておきます」
「――なッ?!なんで、ワタシのコトを知ってるってのさ?それに契約のコトまで……さてはティアの昔の仲間か?それなら、見られちまった以上、口を封じなきゃならないね」
エンリは基本的には「魔の酒場亭」にいない。だからこそ、ランデスが人型になれるようになった事実を知らない。
しかし、それを知っていたとしても尚、ユーベントロイヤーとランデスのかけ離れた姿では別人としか思えない……と言うのが関の山というヤツだろう。
そしてその一方で、直ぐに「口封じ」となるのだから、物騒なコトこの上なく極まれり……というヤツでもある。
「口封じ……ですか。死人に口無しとはよく言いますからね。ですが、エンリ。貴方の力ではボクには勝てませんよ?」
「そりゃそうだろうねぇ。あれだけの「空獣」を相手にして、無傷のようだからねぇ。 ――かなり癪だけど、ワタシが見付けたとっておきの飼い犬を使わせてもらうさ」
「かなり癪」と言いながらも、それに見合っていない表情でエンリは指をパチンと鳴らした。最初は焦りから余裕を失くしていた様子だが、開き直った結果、嗜虐心を呼び起こし奮い立たせたのかもしれない。
「へぇ。古龍種ですか。いい相手ですね。それじゃあ性能試験の続きと参りましょうか」
それはかつての世界線で見た「獣」だった。ウラノが脅威深度“12”と話していた巨龍である。
この世界線ではエンリルによる大暴走は起きていない。依って、伝説級と呼ばれるこの「獣」は、まだ健在だったという事になる。
「本来ならもっと時間を掛けて入念に破壊する予定だったんだ。そうでもしないと、ワタシの契約は破棄するのが面倒なんだから。それなのに、それなのに……あぁもうッ!準備をイチからやり直しの罪は、キミの悶え苦しむ姿だけじゃ全ッ然足りない!だから、そのままコイツに乗り込んでもらって、全部を終わりにしてやるッ! ――さぁ、暴れ回りな!ワタシの溜飲を下げる為に、目に見える全てを灰燼に帰してやんな」
「オン、タカシハヤ、マカレヤマカレヨ。 ――青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・南斗・北斗・三台・玉女!其は汝、我が主砲となり成りていざ行かん。 ――元柱固具、八隅八気、陽動二衝厳神!其は汝、我が照準機となり成りていざ生かん。 ――四柱神、五神開衢、五陽五神!其は汝、加速機となり成りていざ逝かん」
エンリのご高説を無視してユーベントロイヤーは魔力を練る。それは言を紡ぎ、葉を編むが如しの詠唱である――
「な……んだ……ソレ……は?なんだなんだなんだ、その濃密な魔力は?!おいおいおい、そんな魔力濃度、ワタシは知らない。なんだよソレ?本当になんだよソレ。ソレ!ソレぇッ‼」
エンリは明らかに狼狽していた。この時、ユーベントロイヤーは少なくとも無防備ではあったので、エンリが自身の権能を使えば、詠唱を妨げる事は出来ただろう。
だが、エンリは自身の前で膨れ上がる強大な魔力の奔流に、心を奪われてしまっていたとも言い換えられる。そこには既に“勝ち負け”やら、“契約破棄”やらがどうだっていいと思わせる程の“美しさ”があり、エンリは完全に見惚れてしまっていたのだから、もうどうしようもない。
「天清浄地清浄、内外清浄六根清浄。其は汝、極大火力魔力式レールガン。その雷鳴は神の裁き、その稲光は全知の標。其はここに懺悔懺悔六根清浄。さては轟け急急如律令――」
其の一撃は「魔法」に匹敵するほどの威力を持った濃密な魔力の塊。そこに魔術の基礎となる「属性」は一切無く、ただただ純然且つ暴力的な無慈悲の理。
その理が過ぎ去った後には、先の世界線と同様の姿になった古龍種の亡き骸が残され、その先にあったハズの景観は見事に失われていた。
今が昼間であったなら、その変貌振りに大騒動になった事だろう。
何故ならば「短期決戦用単純破壊兵器」という不名誉なアダ名を与えられたモノ以上の破壊力だったのだから――




