ep498 陰陽頭(Heretic Wizard)
――マジックアワーは疾うに過ぎ去り、彼方にあるランスベルク帝国の方から徐々に帳は降りた――
――中天に至る全てを光り輝く星が満たしても尚、ユーベントロイヤーはたった一人で戦い続けている――
――夜間戦闘ともなれば「獣」は総じて活性が上がり、凶暴性は跳ね上がる。理性は微塵もなく加えて連携や協調性も無いモノ達とは言えど、その本能は研ぎ澄まされ、全ての殺意と視線は一点に集中していた――
「流石に数が多過ぎましたね。「望月の月人」は良い武器ですが、一対多数には向かないようです。 ――ッ?!へぇそんな事も出来るんですか?なら、試してみましょう!」
「試してみる」とは即ち、更なる武器の変化である。拠って再び、ユーベントロイヤーの手の内にある武器は、音も無くその形状を変えていく――
「新月の月夜見、逝けッ!」
和弓の如き両剣は既にユーベントロイヤーの手には握られていない。従って何が起きているのか解説が必要になるだろう。
「夜の調べ」は「黄泉の標」の示す道筋を奏で、「夜半の倭文部」が持つ宿儺の姓が転じて屍を成す。こうして各武器が編んだ“固有結界”に於いて「新月の月夜見」がその骸を操り、「尖兵」として使役する事が可能になる……という事だ。
要するに“陽”に対する“陰”はそれ即ち、“生”に対する“死”である。拠って、ツクヨミの加護を具現化した通常兵装であるこれらの武器は、その“死の概念”を扱えるという事に他ならない……となる。
そしてこれは、ユーベンブロイの生前の人物である「カデノコウジ タカミヤ」の得意分野でもあり、それ故に非常に相性が良いのだった――
「なるほど、“新月”まで変化させてしまうと多数の敵を相手に出来ますが、ボクが使える武器が失くなってしまうんですね。まぁ“新月”ですから、見えなくなるのは当然なんですが……。仕方ありません。武器がないなら、ここから先の戦いはボク自前の魔術回路を使うとしましょう!」
「魔術回路を使う」その言葉が指し示すのは、魔術の行使である。だが、そもそも本来の「カデノコウジ家」は、純然たる魔術師の家系ではない。
魔術師の家系は特殊である。「地球」が内包する魔力は少なく、特殊な環境下にある家系を除くと、代を経ても魔術回路は育たない。
故に純粋且つ優秀な魔術師を輩出するのは世界的に見ても非常に困難なのであるという側面もある。
……が、「カデノコウジ家」はそれ以前の問題なのだ――
そもそも「カデノコウジ家」は平安の頃より続く陰陽師の家系であり、西欧の教会と関わりを持った事を契機にして魔術回路を取り込み、力の増強を図った謂わば「異端」。
しかし有史に於ける歴史の内では、土御門家との争いに破れ、表舞台から姿を消す事になった「異端」。
それは偏に急造の魔術回路では隆盛を誇っていた土御門家には通用しなかったという事を暗に示している――
表舞台から去り歴史の陰で細々と生き長らえた「カデノコウジ家」だが、由緒ある陰陽師の血脈を絶やす事は無かった。従って、この「タカミヤ」こそが最後の頭首――陰陽頭となる。
しかしこの事実もまた、多元宇宙の枝葉が齎す仮想現実第三世界である事に変わりはない――
「オン、タカシハヤ、マカレヤマカレヨ、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前・“刃”!」
魔術回路を活性化させたユーベントロイヤーは印を結び「刃」を結った。そうして一振りの霊剣を産み出し、その手に宿していく。
それは中天にあるどの星よりも蒼白く、空で大地を照らす月よりも幽玄な雰囲気を醸し出していた――
「本当に久し振りでしたが、なるようになりましたね。流石に“符”はありませんので“式”は喚び出せませんが、“式”の代わりが“尖兵”という事でいいでしょう!」
ランデスの頃とは違い、ユーベントロイヤーとなった今、ユーベンブロイは見た目も然ることながら中身も最早“子供”ではない。
精神は肉体に寄せられてしまうからこそ、幼子のままのユーベンブロイであれば言葉遣いも幼くなってしまう。
因って今の状態を見ればアメリアでさえ、気付かない恐れがあるだろう。
何故ならば、アメリアの記憶の中にあるユーベンブロイは六歳で成長が止まっているからだ。
しかしその一方でグランドデストロイヤーと換装合体し、外見が成長すればそれは、全盛期の頃のタカミヤと変わらないスペックとなる。
いや、むしろスペックをステータスと捉えるならば、グランドデストロイヤーの外装により耐久力は飛躍的に上昇し、グランドデストロイヤーを外骨格として纏った事で攻撃力もまた爆発的に高まっている。
更にはその内燃機関類似機関が効率良く魔力を編んでくれる事で、魔力を無駄にする事なく運用出来ている。これは偏に魔力欠乏を気にせず、「異界の神」と渡り合える存在になったと言う事だ。
そんなユーベントロイヤーが産み出した霊剣の一薙ぎを以って、周囲は凪いだ海原のように静けさを取り戻していった――




