ep496 合理的マイペーサー(The touchstone)
「ツクヨミ様、それは無理です。不可能なんです。換装合体を行うには、兵装が必要になります。ウラノさんの元に行って、無機生命体を借り受けるとしても、そんな都合良く貸してくれるとは思えません。それにボクが使える星間移動は「おかみ」さんの権能を借り受けているだけ。ウラノさんの惑星に行けば、居場所がバレてしまう可能性もあります。「魔の酒場亭」の収益の半分以上はボクがランデスとして走ることで上げています。だから長期間は、おかみさんも見過ごしてくれないと思っています」
「私は誰かのモノを借りろなんて言ってません。ここに貴方が一人で来たのは、一人で成し遂げる必要があると考えたからこそ。だから貴方は一人で来たのではありませんか?」
ランデスの脳裏に“?”が浮かんでいく。どうやら「第四の天才」の思考を以ってしても、ツクヨミが紡ぐ言の葉を意味を理解するのは難しいようだった。
だからこそ、ツクヨミは更に紡いでいく――
「カレラは貴方の為に造った魔力製素体をこの地に残していきました」
「――ッ?!」
ピースが揃えばこそ、思考は巡る。要するに、「魔力製素体の身体にグランドデストロイヤーを纏え」……と、ツクヨミは提案してくれていたのだ。
魔力製素体の身体が、換装合体に耐えられるかはさておき、今のユーベンブロイが使っている身体即ち、グランドデストロイヤーの中にはディア用に集めた魔力が潤沢にある。
もしもそんな事が可能なら、「異界の神」に対する切り札になるのは、目に見えて当然の理論に帰結する。
「ボクの魂を魔力製素体に移し、その状態でグランドデストロイヤーと換装合体をする……と?」
「両方共に、貴方の身体であって貴方の身体ではないモノ。だが二つ共、貴方の魂に順応している身体。そしてカレラが造った魔力製素体であれば、「魔法」に耐え得る可能性は十二分にあるでしょう」
斯くしてランデスは、切り札を得る事に成功したと言える。これが本当に実現すれば、神にも届く刃足り得るだろう――
「今回の首謀者の捜索は私が行うとしましょう。貴方は魔力製素体を見付け出し、換装合体を実戦で使えるように調整しておく事を推奨します」
「ツクヨミ様。分かりました。それでは、ボクはもう一つのボクの身体を探しに行きます。ツクヨミ様もご武運を。相手の居場所が分かったら連絡を下さい」
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魔力製素体が残されていると知ればこそ、その位置について、ランデスの「マルチバース的思考」が役に立つというモノだった。
ランデスは、カレラの人となりを詳しく理解しているワケではない。だが、その性格は共に行動した一連の流れである程度は把握出来ていた。
それは即ち――信義に篤く、情に脆い。かと思えば、気分屋のマイペーサーでありながら非常に合理的――となる。
従って簡単に要約すると、「何を考えているか良く分からん」……となるだろう。そして、これはそれはそれ。これはこれ。……で片付けられない。
だがそれでもランデスは、自身の思考回路で一つ一つの可能性を潰し、ツクヨミと別れたその日の夕方には、魔力製素体の身体を発見したのだった――
※その過程は省略する事になるので、くれぐれも脳内補完でお願いしたく
「カレラさん、まったく……。本当によく分からない人ですね。なんでこんな場所にって、正気を疑ってしまいましたよ。でもまぁ、そのお陰でこんなにも早く試す事が出来るんですから、悪くは言えません……ね」
ランデスが自分の身体を発見した場所、それはクロック峡谷だった。それもあの日、二人が別れた場所……即ち、ディアが大暴れしている姿を見ていた崖の上に……である。
クロック峡谷はアーレの城下町から東にあるランスベルク帝国へと向かう要衝であり、峡谷内を通る者はいても、その崖の上を行く者はいない。何故ならばその場所は「空獣」の領域であり、縄張りだからだ。
あの時、周囲の「空獣」達は軒並みディアの元へと駆り出されていたからこそ、二人はその縄張りを踏み締められたのだろうが、あれからもう数年の歳月が流れている。
拠って、ここは再び魔窟と化していた。
そしてそんな「空獣」達が侵入者を許すハズもない。しかしランデスはこれを“良い機会”と判断したようである。
ここはアーレから比較的離れており、異常な魔力が多少流れたところで「おかみ」から発見される可能性も低い。そして多数の「空獣」相手に、初めて行うランデスとの換装合体の効果を試せる……即ち、気兼ねなく大規模な戦闘を繰り広げられるという事に繋がるからだ。
更にもう一つ付け加えるとすると、この場にいる「空獣」を壊滅させ、その魔力と魂を吸収すれば、それは後々起こり得る「異界の神」との戦闘に役立つのは明白と言える。
「魔法に片足を突っ込んだ魔術」を使う事になるのだから、魔力枯渇が最も恐れる事になる。魔力はあればあるだけ良いのだ。
拠ってこれは一石三鳥の試金石だと表現出来る――




