ep493 下着(Laughing material)
「――ッ!ハッ……夢……か?ん?」
――ぐしゃッ
エレは自室で目を覚まし飛び起きた。どうやら今回は夢の中での邂逅だったらしい。
しかしソレがただの夢ではなかった事は、エレが握り締めたモノが証明していた。
「こうしちゃいらんねぇな。とっととおかみさんに伝えねぇと」
エレはガサゴソと急ぎ身支度を整えると、握り潰されたモノを持ち、「おかみ」の元へと急ぎ向かった――
――バんッ
「おかみさん、いるかッ!」
「なんだいなんだい、騒々しいねぇ。まったく、一体全体どうしたっていうんだい、今日って日は」
エレは勢い良く扉を開けたワケだが、「おかみ」が発したセリフに反応はしなかった。そしてズカズカと「おかみ」の元へと詰め寄ったエレは、再びバンッと音を立て、握り締めていたモノを「おかみ」の目の前に叩き付けたのである。
「おかみさん、アルカディアと暗殺者は攫われたみてぇだ」
「へぇ。そのリソースはどこからだい?アンタが叩き付けたソレかい?」
「おかみ」はエレの言葉に動揺しなかった。しかしその一方でエレが何故、ソレを持っていたのかが気になるところだったと言えるだろう。
そう“ソレ”とは、アルカディアの下着だった。
アルカディアの下着は「専用装備」である。この世界線に於いては、アルカディアは一着しか下着を保有していない。だがここで聡明な諸兄であれば直ぐに矛盾点に気付くだろう。「何故、「専用装備」を、本人以外が持てるのか?」……という事だ。
起きた時にエレの手に纏わり付くようにあったその下着は、紛う事なく「専用装備」である。そしてその下着を「おかみ」からすれば見覚えがあったと言わざるを得ない。
実際に好き好んでアルカディアの下着を「おかみ」が見たがったワケではないので、そこは「おかみ」の名誉の為にも否定させて頂くのだが……。
「アンタ、それは「専用装備」だったハズだよ。それなのに、なんでアンタが持てるのさ?」
「アタシにも分からねぇ。だがアルカディア達を連れ去ったヤツから直接渡されたんだ。夢の中で……な」
夢と現実は違う。だからこそ、いくら夢の世界で美味しいモノを食べようと、現実に腹が満たされるコトはない。
夢と現実がリンクするのは、思春期男子の性的嗜好の結果やら、加齢や病気などによる……いや、この話しはやめておこう。
話しを戻すと、エレは夢の中で渡されたアルカディアの下着を持参している。要するに、夢と思っていた体験は夢ではなく、現実だったと考えるのが正当な考えだという事になるだろうが、エレが自分のモノではない女性用下着を握り締めているその光景は些かシュールであるとしか言えない。
「エレさん、その犯人は何と言っていたのですか?」
「あ゛あ゛ん? ――ッて、ランデスか。いたのか?」
「ずっといましたよ」とでもランデスは言いたそうな雰囲気を醸し出していたが、これ以上、エレの目尻を釣り上げたくはなかった。だからこそ、エレの質問には答えず言葉を紡いでいった。
「昨夜、妙な魔力の流れを感じ取ったんです。だから、おかみさんにその話しをしに来たんですよ。まぁ、その流れは断ち切ったので、悪さは出来てないと思うんですが……」
「妙な魔力だぁ?まさか、アタシも……」
「連れ去らわれそうになっていた」……と考えたエレである。しかしそれを認めるエレではない。だが、夢の途中からのシーンは何一つ思い出せないのが現実だからこそ、それが事実だとしても否定は出来ない。
「それで、ソイツは何と言って、ソレをアンタに持たせたって言うのさ?」
「あぁ、そうだった。ソイツは「転生者は預かった。あたしを売ったヤツを呼び出して、痛い目を見せる」的な話しをしていたぜ。それでその後に……えっと、うーんと……あぁ、何があったのかを思い出せねぇ」
「おかみ」としては不可解な会話だと思ったコトだろう。それは話しの内容も然るコトながら、何故にエレに「下着を渡す必要があったのか?」が全く以って理解不能だからである。
しかし、当事者が思い出せないのであれば、それはどうしようもない。
その一方で「おかみ」が不可解と思った以上に、ランデスもまた奇妙な点を見出していた――
「エレさん、犯人は「転生者」と言ったんですよね?でも、ミレイアは「転生者」ではありません。ミレイアの事も攫ったと話していたんですか?」
「ミレイア?そりゃあ誰だ?」
「おかみ」とランデスは同時に転びそうになっていた。まぁ、分からなくもない。しかしここは、「魔の酒場亭」であって新喜劇の劇場でもなければ、お笑い芸人の養成所でもない。従って、お約束的なズッコケシーンなど求められてはいない。
しかし、もしも仮にココがそういった場所だったとしたら、それは余りにも面白くない“笑いのネタ”と言える。従って、転びそうになったのは、所謂、「お約束」というヤツであり、話しの展開に一切関係無いので、それはそれ。これはこれ。で締め括るコトになる――




