ep491 内偵(Victim's association)
「おかみさん、調べて来たぜ」
「おかえりエレ。それでどうだったんだい?」
「おかみ」はランデスから話しを聞いた直後に、エレをギルドに送り込む事を決めた。所謂「内偵調査」というヤツだ。
しかしエレの姿も顔も広く知られている。拠って出番となるのが権能である。その能力に依って、エレの依り代は、“エム”の姿から全くの別人に作り替えられていった。
従って、エレの事を魔力で判断出来ない者達からすれば、同一人物と判断するのは非常に困難と言わざるを得ない――
「アルカディアを張ってたが、その“ドローン”ってヤツを使ってる素振りは見られなかったってのが、調査報告になっちまうんだが」
「アルカディアがホシなら、そう簡単に尻尾は見せないだろうからねぇ。追加で暫く見張っててくれるかい?ただ、相手はあのアルカディアだ、無茶はするんでないよッ!」
「アタシだって、絡みたくないから極力目立たないようにしてるさ。そんでもって、ちゃんと報酬は頼むぜ、おかみさん」
仕事を極力、サボれるならサボりたいエレにしては張り切っていると「おかみ」は感じていた。まぁ、エレも今までの鬱憤が溜まっているのだろう。
エレもギルドの案件を受けるに中って、少なからずアルカディアの被害を受けた事がある一人に違いないからだ。要するに今回の「所用」はエレにとって、憂さ晴らしと報酬の両方が手に入る一石二鳥案件と考えているのかもしれない。
その反面「おかみ」としては「所用」である以上、エレに払う出費が釣り上げられるのは勘弁願いたかった。
……が、エンリを送り込むよりはエレの方が内偵調査は確実と考えている事も相俟って、出費に関しては目を瞑るコトにした様子で、ぶっきらぼうに応じていた。
「あぁそうだ!おかみさん。一つ気になったコトがあんだけど、いいか?」
「なんだい?今回の内偵のコトでないなら、報酬から差っ引くからそのつもりで話すんだよ?」
「まったく……おかみさんはがめついなぁ。 ――関係があるかないかは分かんねぇけど、まぁいいや。あのさ、以前アタシが捕まえた暗殺者のガキを覚えているか?」
暗殺者のガキ……と、エレは発言したワケだが、それはミレイアのコトである。まぁ、人の名前を覚える事を面倒臭がるエレらしい表現としておこう。そして、そんなミレイアのコトを「おかみ」はちゃんと覚えていた。
「それはイシュの権能でヒト種の見た目になった屍徒種の娘かねぇ?」
「あぁそれそれ。確かソイツは、アルカディアの所に居候してるって聞いた気がすんだけど?」
「あの娘はアルカディアにぞっこんだったからねぇ。それがどうしたっていうんだい?」
この世界線に於けるアルカディアとミレイアの関係性だが、それは偏にメルボランチア探訪を行っていない事も相俟って、ミレイアに対して食指が動き辛いといった感じである。
※「動かない」ではない
メルボランチアでは基本的に地下迷宮探索がメインであり、当時の三人は他の「人間」達と基本的には絡みがなかった。要するにアルカディア的には極度の「飢餓状態」だったと言える。
結果、新たな性癖が目覚めたと言っても過言ではないのだが、アーレに於いては至る所に女性がいる。
これは即ち、無理してミレイアに対して食指を動かす必要がないという事に繋がる。アルカディアに対してミレイアから迫るコトがあったとしても、アルカディアの食指が動かなければ、新たな扉は開かれない。
だからこそ、その他大勢の一般女性と魅力で負けるミレイアが勝てる道理はないのである。
※アルカディアの食指があちらこちらに動くからこそ、「全女の敵」なのだが、アルカディアが小心者の“おっさん”である事に変わりはない。依って、強引な犯罪行為を行う事は出来ない。その度胸がない。従って、メルボランチア探訪の時の方が刺激はよっぽど強く、それ故に扉は開かれたと言っても過言では無さ過ぎる。要するにこちらの世界線では、“行為”は疎か、触るコトすら躊躇う、まるで思春期男子のような“おっさん”と言えるだろう
「その暗殺者のガキが、どこにもいなかったんだよな。アルカディアの執務室にも、隣の悪趣味な部屋にも……さ」
「悪趣味な部屋」とは、「イシュの部屋」の事を指しているモノと推測するが、その部屋の内情を「おかみ」は知らない。
拠って、どんな「悪趣味」を想像したのかが気になるところだが、それはそれ。これはこれ。
「あの娘がアルカディアから離れるなんて想像出来ないねぇ……だが、ギルドから出れない以上、事件に巻き込まれるとも思えないのは確かだねぇ」
アーレに於いて、ヒト種以外の種族が生きていくのは非常に困難である。ミレイアは見た目こそヒト種だが、中身は違う。それなりの技を持つ者からすれば、見分けるのは容易だろう。
故に、ギルドを出て行けば死活問題になる。それなのにギルドから姿を消していたと聞いた「おかみ」は、何やら不穏な気配を感じ取っていた――




