ep40 遊び(The diorama)
――昔々の話し――
昔々と言っても、「十年一昔」を二回で「二十年」……のような昔ではなく、それこそ気が遠くなるような……人類史なんてモノが存在する以前の……それ以上に遥か彼方にある程の昔々。ざっと数えて100億年ほど前くらいであろうか……。
――たった一人の神が存在していた――
神は存在しているだけで何もしておらず、ただそこにいるだけの存在。故に、色も音も何も無い無味無臭無色無音の世界に意味もなく漂うだけの存在である。
そんな神が気まぐれに一つの惑星と言う名の「箱庭」を創造した。しかしその産まれたての惑星には命は宿っておらず、大気も不安定且つ、灼熱の業火が支配する惑星だった。
「こんなモノか……」
神は自分が創造した惑星に興味を失くし、創造された惑星は人間にとっては永遠にも等しい長い年月の末に、生命溢れる豊かな惑星へと変貌を遂げていった。
――神は再び興味を持った――
長い年月の果てに、創造した本人ですら忘れていた惑星を見付けた神は、暇潰しを思い付いた。
意味もなく漂うだけの存在だった神は、暇潰しによって、存在意義を見出したのである。
「捨て置いたガラクタが、いつしか宝石に化けていた」……それだったら嬉しい誤算と言えなくもないが、「捨て置いたガラクタが、磨けば光るかもしれない石だった」くらいの、ごくごく些細な発見だった。
だが、漂うだけの存在の興味を唆った事は称賛されるべきかもしれない。
――神は干渉した――
人間が大地に木を植えるように、神は生命溢れる惑星に人間を植えた。
人間が大地に目標物を置くように、神は人間を植えた惑星に獣を置いた。
人間が大地から離れられないように、神は人間に文明を持たせた。
獣が大地から離れられるように、神は獣に力を与えた。
神は人間と獣が争うように、高位高次元生命体を添えた。
神は高位高次元生命体が学べるように、権能を与えた。
神は全ての生物が等しくなるように、惑星を複製した。複製した。複製した。複製した。…………。
地道な作業の末に「箱庭」のガワは完成した――
植えられたモノ、置かれたモノ、添えられたモノ。
神はそれら全てが等しく惑星の糧になるように、魂を授けた。
こうして神が干渉し、一つのモデルケースとなる最初の惑星は息吹を持って芽生え、次々に複製され分岐させられ、新たな世界線が作られていったのである。
人間には、惑星を手中に収めさせるべく、文明を発展させた。
獣には、ただ強さを追い求めさせ、力を磨かせた。
高位高次元生命体には、深淵を覗かせるべく、権能を研ぎ澄まさせた。
こうして全てを整えるだけの「暇潰し」を神は始め、「箱庭」は完成の陽の目を見る――
――神は飽きた――
暇潰しは飽くまでも暇潰し。神にとっては創造する過程にこそ、意味がある暇潰しだった。拠って神は干渉しなくなり、数多の惑星は、神の干渉を終えた事で多様性が増していった。結果、似て非なる惑星……即ち、複雑化した惑星群が「箱庭」の中で成長を遂げていったのである。
そして多様性の結果、高位高次元生命体は自分達こそが、惑星を創生したと考えるようになり、高位高次元生命体が人間も獣も支配する惑星を作ろうと考えるに至る。
だが、高位高次元生命体は、数多の惑星が自分達の惑星の外側にある事に気付いてしまった。故に、その惑星を渡る術を「新たな権能」として確立させ、神が捨てた惑星で神が成し得なかった新たな「遊び」を確立したのである。
「箱庭」の中で「多様性」が産み出された事で高位高次元生命体は、似て非なる自分に対する理解を曲解するようになり、似て非なる文明は、信仰によって新たな高位高次元生命体を生み出していく。
故に、全ての高位高次元生命体が「遊び」を許容するとはいい難い状況へと変化していったのである。
要するに「神々の遊び」とは、慢心した高位高次元生命体が、「自分達の欲望のままに行動するべく、依り代を見付ける所からスタートし、他の高位高次元生命体より先んじて、その惑星で自分がしたい事をする」という解釈になる。
大陸から外に出る事は出来ず、閉じられた狭い世界の中で必死に生きる人間達にとっては、この上ない迷惑な話しである。……が、複雑化した世界で人間達の文明の「信仰」によって新たに生み出された高位高次元生命体は、人間達を護る抑止力として働こうとするなど、「遊び」自体も「多様性」に囚われているといっても過言ではないかもしれない。
拠って、それら全ての可能性が人間、獣、高位高次元生命体に等しく与えられた事になる。だがその中でも優位性に長けている高位高次元生命体が跋扈した結果、「神々の遊び」と呼ばれる所以になった――
根も葉もない簡単な話しをすると、「魔の酒場亭」の面々も、イシュエンですらも「やりたい事をするだけ」という事になる。そして、それぞれの思惑がぶつかる時には争いが起こるが、それはそれ。これはこれ。……と、いう事なのだ。
これでこの章は終了します。
次回ep41からは新章へと突入します。
ここまでお読み頂いた方、ありがとうございました。
新章でまた、お会いしましょう。
硝酸塩硫化水素




