ep33 没落(Death cause)
――セシルラウザー公爵家に於ける後継者に纏わる現状――
――長男、リチャード・クレス・セシルラウザー……変死。死因不明。その息子……病死。身重の妻、クリステラ……薬物による中毒死。死産――
――次男、クレアロンソ・バラン・セシルラウザー……衰弱死。その娘、発狂死。妻、サリーナ受胎確認出来ず……健在。その後、財産の使い込みが発覚し追放――
――三男、エドワード・ライン・セシルラウザー……何者かによって殺害。子供は確認出来ず――
――長女、クリスティーナ・エリザ・バウエンハイム……長男、長女と共に事故死――
――次女、シルフィーナ・エリス・サーブルグ……転落死。尚、お腹の赤子も死亡を確認――
――三女、エリザベート・クリエ・テレジア……他の側室によって毒物を盛られた末の暗殺と推定――
――四女、セレスティーナ・ライラ・セシルラウザー……溺死――
セシルラウザー公爵家現当主、アルデバラン・ウルム・セシルラウザー公爵は窮地に立たされていた――
このままでは公爵家として長年王家を支え、王家から直系の跡継ぎが産まれなければ次代の王を輩出する宿命を背負った、セシルラウザー公爵家が途絶する事になるからだった――
長男・次男と相次いで急死し、焦った当主は家を出ていった穀潰しの三男を探した。三男は犯罪に手を染め、名前こそ明らかにされていないものの、各町や村に手配書が出回っている事を知らされていたので、容易に発見出来るかと思いきや……見付かったのは首と胴が泣き別れ、何者かによって打ち捨てられた遺骸だった。
こうしてセシルラウザー公爵家男系の血筋は絶えた――
次にアルデバランが考えたのは、他家へと嫁に出した子女の子供=孫を養子として迎え入れる事だった……が、最適な時を数え交渉に移る前に娘共々、孫の訃報が相次いで届いた――
唯一残された未成年の末娘に一途の期待を添え、他家との政略結婚を模索してる内に、その末娘まで風呂で溺れて死んだ――
アルデバランは御歳72歳。当時、息子がもう一人欲しく、無理を言って伯爵家に嫁がせた歳が四十以上も離れた幼い側室が身籠もるまで、その寝室へと何度足を運んだか分からない。それ程までに苦労して得た子供は娘であり、産まれて来てから嘆いたのが今となっては懐かしい。
だが、もう子供を成せる年齢ではない。一番若い側室と張り切ったところで、子供を成す前に自分が腹上死し兼ねない……。
もうアルデバランに打つ手は残されていなかった――
後継者達の相次ぐ死によって「セシルラウザー公爵家は神に呪われた」……そんな風評が広がり、家に使えていた使用人達は一人、また一人と姿を消し、数百の使用人を抱え、隆盛を極めていたセシルラウザー公爵家は没落の一途を辿っていた。
そんなある日、三男エドワードの忘れ形見がいるかもしれないとの報を受け、アルデバランは配下を至急向かわせたのである。
配下が連れ帰って来た赤ん坊は泣きじゃくっており、髪や時折見せる瞳の色こそエドワードには似ていないものの、顔立ちはよく似ていた。だからこそアルデバランは、その赤ん坊を孫だと信じ、「ユートリア」と名付けたのだった……。
それから二年の月日が流れた――
セシルラウザー公爵家の没落は、相次ぐ側室の変死、病死、事故死により止まる事を知らず、「神の呪い」を恐れた使用人達は次々に去っていった――
気付けば、代々のセシルラウザー公爵家に使えた老執事だけが残ったが、その老執事ですら寄る歳には勝てず、アルデバランが泣きながら見送る事になった――
使用人達は全ていなくなり、娶った側室は全て死に絶え、広大な屋敷に年老いた当主と長年連れ添った正室だけが残る……。そんな状況では家事も掃除も、養子としたユートリアの育児すらも追い付かないだろう。
そんな過酷な状況としか言えない、セシルラウザー公爵家の門戸を叩いた一人の女性がいたのである――
「わたしを雇って頂けませんか?家事全般に育児、必要であれば畑仕事もしてみせます。住み込みで働かせて頂けるのでしたら、お給金も要りません」
アルデバランは、風評によって使用人がいなくなったこの屋敷に面接に来た、奇特な女を見て悟った……「あぁ、この娘がユートリアの母親なのだ……」と。
こうして村と家族を捨て、長い旅路の果てに終着点へと到達するに至る。この時、アメリアは18歳になっていた――




