ep292 下馬評(U turn)
九割方のマントデアが駆逐されても尚、戦場にはまだ万単位のマントデア達が蠢いていた。しかも……だ。竜巻という標的を失った今、マントデア達は次の新たな獲物を求めていた。
そう、次なるターゲットはアルテ大隊である。万を超える有象無象の群れが、一つのうねりとなって、空を濃緑色に埋め尽くし向かって来ていた――
しかしこれはヘスティの想像の範囲内であり、その為にマイアが指揮官代理として予め任命され、アルテ大隊をこうして率いている。
そしてこうなった以上、魔力枯渇に因って一時的に意識喪失に至った二人を「ラッピング秩序」内に置いておく事は危険である事は明白だ。
それが砦の中だとしても同じ事。
現状、砦は「アルテクトラ」が放った「神の杖」の影響を受けないように一旦、氷漬けとなっている。拠って外に敷設していた天幕などは撤収されており、アルテ大隊は爆風の余波をアネサの魔術と各々が持つ冷却装置で回避した事になる。
※無機生命体よりも熱に弱いヘスティ達「有機生命体」は、ランデス内に一時避難しアネサの結界とACガンガンで難を逃れる事に成功した
斯くしてスリープモードの二人は今、大隊から離れ東端の砦「ヴィクトリス」へと向かっている。
「ヴィクトリス」へと到達する前に二人共に目覚めるだろうが、その時二人は恐らく「ヴィクトリス」に留まる事を「善し」とせず、戻ってくるだろう。
アルテと違いエレクトラの方が回復は遅い。それは魔力枯渇でも同義だ。
だからこそアルテが先に目覚め、そのままUターン。エレクトラもその後回復し、アルテを追い掛けるように護送部隊と共にUターンしてくるだろうと、ヘスティは下馬評を立てていた――
ヘスティはあの日、マイアの自室を見てしまっている。そう、祭壇の事だ。アレは明らかに異質な空間だった。
本来のヘスティはアルテと同じように高位高次元生命体であることから、本当ならば恋だの愛だの結婚だのに興味を持ち得ない。
※今でこそランデスに入れ込んでいるが、最初は珍しモノ好き蒐集家の性とも言い換えられる、ただのないものねだりであって、恋愛感情といった特別な感情移入ではなかった。本人は出会ったその日に「恋は盲目」とか宣っていた気もするが、それはそれ。これはこれ
しかしヘスティは、ランデスと逢瀬(?)を重ねる事でキャッキャウフフの初恋から、完全に熟年夫婦の極地へと至っている。それはどんな高位高次元生命体よりも、それこそディアよりも「恋愛マスター」になったと言っても過言ではない。(キッパリ)
※「逢瀬」から始まり「熟年夫婦の極地」やら、「ディア以上の恋愛マスター」やら、何かと誤解を招きそうなパワーワードが多い気もするが、それもまたそれ。これもまたこれ
そんなヘスティだからこそ、マイアを「干物女」という評価から「おひとりさま」へと変更していた。そして、マイアを「おひとりさま」と思えばこそ、“プレイア姉妹”を見る目も変わってくる。
ヘスティはマイア達行き遅れが戦場を婚活パーティーだと考えている事を知らない。しかし、戦場に婚活グッズを持ち込むという、常軌を逸したマイアの行動から“プレイア姉妹”の本質に気付いた稀有な例と言えるかもしれない。
まぁ、気付いたとしても特に行うアクションはなく、行ったとしても作戦立案時の「備考」程度であり、作戦実行時の行動原理の補整に使う程度と言える。
それ故の「エレクトラがUターンしてくる」だろうなのだ。エレクトラが戻って来るか否かで、戦線維持は変わる。アステロペが抜けた穴は相手が九割方減ったとは言っても、ヘイトが全てこちらに向かっている以上、大きいと言わざるを得ない。
無機兵種は優秀な兵士であるが、それを指揮する指揮官が優秀であればこそ活きてくる。だからこそ、ノーブス・アリディフォリアとマントデアという二種類の「蟲族」を今回の戦いで確実に仕留める為には、エレクトラの戦線復帰は必要不可欠と言える。
だからこそ、「だろう」であったとしてもその期待値は大きい。
また、オリゴチャエタも全滅していないと考えられるが、そちらはアルテ大隊が相手をすると言うよりは鳥人族の二人に丸投げしてる感が強い。最大火力となった神の杖の威力を鑑みれば生き残っていても数匹という判断である――
『指揮権移譲確認。指揮官代理、マイア・プレイア・デスサイズ……これより指揮権を行使します。――陣形策定。テイジエット中隊を左翼先頭、アルキュオネ中隊を右翼先頭、左翼中段にケラエノ中隊、右翼中段にマイア中隊、中央下段にメロペ中隊で各100機ずつ。計500機で立体型鶴翼陣を敷きます。残りの無機兵種は地上部隊とし各中隊の人員/物資の補充及び、地上を侵攻して来る「蟲族」の撃破。 鶴翼陣両翼先頭は向かってくる「蟲族」を牽制しつつ陣を形成。陣形内部に誘引し、全部隊一斉掃射後、全軍突撃とします』
斯くして恐らくこれが最終決戦の幕開けとなる――




