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メタバースマルチバース 〜ユニバースディ〜  作者: 硝酸塩硫化水素
はじまり

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ep27 螺旋(Red-light district)

――その男は恵まれた環境に産まれた――


 大貴族、セシルラウザー公爵家の三男として生を受ける。母親に似た美貌を持ち、父親に似た聡明さを受け継いでいた。二人の兄よりも遥かに優秀過ぎる弟は、自らの爪と牙を隠し凡庸な男を演じ、爵位を継ぐ重責から逃れる為だけに奔走した――



――聡明な男は自らが置かれた環境に満足していた――


 成人し女の味を識ってからは尚の事。祖先が築いた莫大な財を喰い荒し、怠惰な生活と淫蕩に明け暮れ、色欲の赴くままに旅をした。

 自らの出生と家柄を隠し、言葉巧みに肉体関係を持ち、穢し孕ませた女は後々の禍根を絶つ為に僻地へと追いやり幽閉し、産まれた赤子共々無残な躯へと変貌させた。


 そんな裏の顔を知らない女達は、男が持つその美貌と聡明な頭から紡ぎ出される甘美な言葉に、身も心も蕩けさせられ数多の見目麗しい女性が色欲の虜になっていった。

 男は女の心も身体も、その淫靡な言の葉で徹底的に穢し、女は自ら進んで穢されるようになり堕ちていく。こうして性の奴隷とも言える姿に変貌した女達は自分から股を開き、涎を垂らしながら媚び求め……結果として幽閉されるスパイラルへと放り込まれる。

 それは「この世の全ての幸福がここにある」と快楽に溺れた果てに至った(溺死した)女の末路と言えるだろう。


 しかし男は殺人狂というワケではない。女との禍根を絶つ為の手段として「殺める」という手段しか見出せないだけだった。それは……貴族社会に於いて、爵位を継げる当主となる為に、後継者候補達が演じた他家の殺し合いを散々見て来たからである――


 時には親友が後継者争いに巻き込まれ亡くなった。自身も暗殺の手口に巻き込まれそうになり、危うく命を落としかけた時もあった。だからこそ、自分は凡庸な男のフリをして、血みどろの後継者争いから遠ざかったとも言える。



――そんな男は一人の女と出会う――


_____



 これはアーレの城下町の「魔の酒場亭」でエレが呼び鈴を鳴らしていた頃の話し……。


「へぇ……ここがソンブレラ評議国ですわね。長い旅路でしたが、決して悪いものではありませんでしたわ」


「ぷっ。何を良い子ぶりっ子してんの?キミ(飼い犬)のキャラじゃないんだから、いい加減にやめた方がいいよ?飼い主のワタシを笑わせて窒息死させたいワケ?それにキミは野を駆け星を巡り、人助けと称して善良な人々から金銭を散々強奪してきたじゃんか!野蛮で獰猛な飼い犬らしくしてた方が()()()が出てウケるってば。ぷっぷっぷくすくすぷッ」


――プルプル

「今すぐにその首を締めて窒息死させて欲しい?それにキャラ付けも大切なの、アンタはそんな事も知らないで飼い主気取ってるの?はッ、バカなの?あぁ、そう言えば前に作戦立案した計画は(ことごと)く失敗してたわね。だから今回はおバカな飼い主サマ自らここに来たんでしょ?また失敗しても飼い主サマが権能を()()()()()()()無かったコトに出来るモンねぇ?」


 クーラ大陸北西部にあるソンブレラ評議国。空には(とばり)が降りており、住民は寝静まり静寂に包み込まれていたそんな真夜中(ミッドナイト)。その上空から突如として現れた闖入者達は、国の中央広場に(そび)え建つ塔の天辺に降り立つと同時に大騒ぎを開始した。

 安眠妨害のテロ行為と言われればその通りの言動であるが、バカによる化かし合いのような馬鹿げた行為の被害によって住民が起きた様子はなかった。そもそも「バカと何とかは高い所が好き」とも言われるが、それをそのままに体現しているとも言えるだろう。


「この飼い犬は、本当にどうしようもないくらい飼い主に噛み付かないとイケないタチらしいね。まったく、どんな風に育てばこうなるのやら……。はっ、まさか?!依り代に引っ張られてる?」


依り代(ソフィア)の精神なんかとっくにあるワケないじゃない。肉体も改造してるから、本人に出会ったとしても、もう本人すら気付けない別人よ」


「それはそれは、依り代になったソフィアちゃんが知れば、さぞかし悲しむだろうねぇ。こんなバカの依り代になった()()りに……ぷっぷぷぷ」


 最後の締めに下らないオヤジギャグを言ったエンに対して、イシュは呆れた様相でこれ以上の無駄話しを止めた。

 イシュは視線を落として眼下に広がる暗闇に支配された街の様子を眺めていく。街の端には一際明るいエリアがあるが、イシュはそこまで視線を動かすと口角を上げて睨み付け、不気味な笑みを苦々しく浮かべていた。


「チッ。欲望に溺れたサル共が……」


「その表情と口調の方が、よっぽど飼い犬には丁度いいよ」


「言ってろ。バカ飼い主……」


 こうして、二人の「悪役」達は暗闇に支配された領域に足を踏み込んでいったのだった。

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