ep26 渇望(Guiltlessness heart)
――これは、一人の女が願った些細な幸せの物語――
その女は決して裕福ではない貧村に産まれ、その日の食事もままならない生活を送っていた。
兄弟達に自分の僅かな食事を与え、なけなしの体力を削り井戸から汲んだ水で飢えを凌ぐ事もしばしばあった――
両親は健在だが、日々、一家総出で働いても働いても収穫出来るのは僅かな食料のみ。それで家族全員が飢えを凌ぐのは不可能と言える。家にも村にも蓄えは無く、この先の人生に希望など微塵もない生活。だが、そんな家や村を出て行く事も叶わない絶望。そんな悲観的な状況に置かれながらも悲哀と共に必死に生きた、惨めで不幸な女――
そんな世界に据え置かれた一人の女は、一人の男に出会う――
――一目で恋に落ちる。そんな事はあり得ない――
女は今まで家族の為に村の為に誠心誠意を尽くして働いており、恋に現を抜かし、絶望の余り「快楽」に「愉悦」にその身を溺れさせる事など決して無かった――
村の男共が女の隠された美貌に気付き、その魅惑的な肢体に欲情しなかった事など無い。それ故の危険は常にその身に置かれていた。しかし、15歳になるその歳まで純潔を保ち、物心付いた時から生きる事に必死になって生きていた。
「キミはこの村の住人かい?」
――そして……
一人の男が、畑仕事に精を出していた女に声を掛けた事から全ての悲劇は始まる――
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「なんだこりゃああああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」
「あっ、エレさん。えっと……おはようございますぅ?」
「おかみ」から言われたままに倉庫区画に降りたエレが見たのは、想定外の光景だった――
エレは「おかみ」が「色々と盛ってアタシを焚き付けたかったんだろう」程度の思惑があり、それでも「あれだけの魂を喰ったんだから……」との期待も多少あった。
そして、それら全てを粉砕してお釣りが来る程の変化がここにあり、それは大絶叫という形で倉庫区画への呼び鈴として機能したと言えるだろう。
その「呼び鈴」が呼び出すのは勿論、ディアである。
「エレさん、おかみさんからお仕事の申し伝えですか?わたしもランデス君も、いつでも出れます!ランデス君もピカピカですからッ!!」
「いや、そうじゃない。なんかここ……広くなってないか?」
「それは……この前行ったお仕事で、ランデス君がギトギトのグチャグチャの血みどろフィーバーになってしまったので、洗ってあげようと思って……洗車場を作りましたッ!てへッ」
ぶりっ子しながらも言っている事との温度差にエレは風邪を引きそう……なワケではないが、以前見た時よりも遥かに大きくなっている倉庫区画を作ってしまったディアの潜在能力の高さに驚きを隠せないでいた。
「(魂の使い方……か。ただ観賞用として檻に閉じ込めておくよりは……いや、そうじゃない!!)これは、アンタが一人でやったのか?」
「はいッ!ランデス君をキレイでピカピカにしたかったので、そう願ったらこうなってました。えへへッ」
「(願っただけ?そんな方法があるのか?願っただけでこれ程に広大な場所を思い通りの形に作り変えるだなんて……そんなバカげた力の使い方が?コイツ……本当に高位高次元生命体……なのか?)……はぁ……。アンタは本当に色んな意味で規格外……だな」
「褒められると照れちゃいますッ!てへへ」
「褒めたワケじゃない」そうエレはツッコミたかったが、その言葉は口から出る事がなかった。それを言ってしまえば何故か何かに負ける気がして、敗北感に打ちひしがれる気がしたからだが、それはそれ。これはこれ。
本来は話しを先に進めたかったからだと想像して欲しい。




