ep22 告白(Something frightening)
「まったくあのアホウ共ときたら……あんなどんちゃん騒ぎをしてたら、入って来ようとしても他の客が敬遠するじゃないさね」
「まぁまぁ、おかみさん。あの人間さん達は悪い人達じゃないですから。大目に見てあげたらどうですか?」
「アンタねぇ……そんな事を言ってるとあのアホウに口説かれるよ?」
「口説かれる?わたしがですか?まっさかぁ〜。嫌だなおかみさ〜ん。ところで、「口説かれる」って何ですか?」
カウンターの中で派手に転ぶ音が響いたが、ホールで盛り上がっている者達の元へは届いてなどいない。
ディアはこの世界についての事はある程度の知識がある。だが、人の感情の機微だとか、心情の移り変わりだとか……対人間に於いて、「察する」という事が苦手なようだと「おかみ」は分析していた。そして……色恋沙汰や、そういった関連の事にはめっぽう興味が無いようだとも感じている。
その興味の無さが知識に偏りを生じさせているのかもしれない。
「なぁ、アコウ……。俺じゃ駄目なのか?」
「「な゛ッ?!」」
話しは戻るが、アコウに対して熱視線を送っていたのは、ギンだった。少なくともエリスとセルンの二人は、わちゃわちゃやってた過激発言の暴露大会もそっちのけで、今はギンを凝視している。その目は、何というか……汚物を見るような、悍ましいモノを見るような目だったとしておこう。
それは「恋敵に向けるモノ」と言うよりは、明らかに次元の違う殺意を持っていたと思われるが、それはそれ。これはこれ。そこまで深堀りする必要はないだろう。
そして当事者であるアコウは、ギンの突然の告白に動揺を浮かべているのかすら読み取れない……要するに言葉の内容をさっぱり理解していない様子だと言い換えられる。
「俺は、ギンで良いと思ってるぜ?」
「「な゛ッ!?」」
女性二人からすれば、全くの想定外の発言であり、鳶が狙ってた“お揚げ”をカラスに横から掻っ攫われるくらいの衝撃だった。
まぁ、この世界に「鳶」や「カラス」といった鳥はいない。だからこそ比喩表現として使わせてもらっただけなので、深いツッコミは必要としない。それもそれ、これもこれ。
「ア……アコウ……アンタ……まさか、そっちのケが?!ってか、やっぱり胸なの?確かにギンの胸板は厚いけど……それは胸であって胸ではないわッ!惑わされてはダメぇッ!!」
「アコウさん……不潔ですッ!私という者がありながら……不潔ですッ‼私の方こそ、脱いだら凄いんですよッ‼つるぺったんにも男にも負けませんッ!!」
「アコウ!俺は嬉しいぞッ!やっぱり俺がいいんだなッ!」
こんな感じの遣り取りを見ている店の二人。先程からアルコールの注文すら入らなくなったので、ディアまで完全な手持ち無沙汰になっていた。だがディアはこれから先、この四人が痴情の縺れで刃傷沙汰になったとしても多分、興味を持たないのだろう。今でこそ興味津々とはまったく正反対の表情で、注文が入るのをただ待っているだけなのだから。
「(やっぱりこの娘は“人間”じゃないね。これで確定した。でも解せないコトがいくつもある……。だからディアがアコウと共に行った後で文献を漁ってみたんだけども……まぁ、目当てのモンは見付けられなかった……。今度、エレにでも言って探させてみようかねぇ……)まったく、アイツらと来たら……。色恋刃傷沙汰もパーティの華とは昔からよく言ったモンだが、ここで血を流すなんてコトはしないどくれよ……」
こうして、アーレの城下町の外れにある「魔の酒場亭」の夜は更けていく。恐らくアコウパーティが店から出る時間が今日の閉店時間になるだろう。「おかみ」としてはもう少しお金を落としていって欲しい所だが、貧乏客相手じゃそれも詮無き事。高望みしても意味は無い。
夜の営業前に本来の店の看板は閉まったが、その際、外は冷たい風が吹いている様子だった。逆に今、店の中の熱気はムンムンだ。もっと外が冷え込めば温度差で風邪を引くかもしれない。ただでさえ、フロアとカウンターで温度差があるというのに……。
「これ以上加熱が過ぎるようならば、一度外に追い出してでも頭を冷やさせる必要があるかもしれないねぇ……」そんな事を「おかみ」は考え、溜め息と共に徐ろにゆっくりと天井を見上げていった……。




