ep21 狂乱(Truth prejudice)
「ディアちゃん、おかわりッ!」
「はーい、よろこんでーッ」
ここはアーレの城下町の外れにある「魔の酒場亭」。本日は「おかみ」が久方振りに夜の「酒場」営業をすることにした。しかし、給仕兼用心棒兼雑用係のエレはまだ所用から帰って来てはいないので、仕方なく「給仕役」という名誉ある白羽の矢はディアに立てられる事になった。
「魔の酒場亭」が夜営業する時は、昼間と装いが少しだけ変わる。普段「おかみ」がいるカウンターには椅子が付け加えられて「カウンターバー」の様相となり、「おかみ」がマスター兼調理担当となる。エレは男装なので給仕として、テーブルと椅子が設置された狭いホール内の客からの注文取りと、「おかみ」が調理した食事を客の元に運んでいく。だが今回はエレが所用でいない為、ディアがそれを行っているという事だ。
とは言っても元々そこまで広い店ではないので、カウンターに三席。テーブルが二つといったところ。知る人ぞ知る穴場中の穴場的な店として、ひっそりと気まぐれで営業するスタイルである。
しかし不思議な事に普段の「気まぐれ営業」を開始すると決まって誰かしらがやって来るので、閑古鳥が鳴いてる事はない。
そもそも本日の「魔の酒場亭」の夜営業は半ば押し切られた形で始まった。それもこれもアコウがクルサ平原から戻って来るなり「おかみ」に持ち掛けたからである。
当初「おかみ」は給仕担当のエレがいない為、難色を示したのだが、「ディアちゃんを給仕にすればいいッ!」と全力でアコウに説得され、ディアはディアでその提案を軽く二つ返事でOKした為、急遽営業する運びとなった次第だった。
ただセルンだけは、「あの戦闘の後なので少し休んでからがいい」と駄々をこねたので、戻って来てから直ぐに宴会が始まったワケではない。
ちなみに店内にいる客は貧乏客のみなので、「おかみ」は最初に出した肴以外に料理の注文が入らず、手持ち無沙汰である。専ら出るのはアルコールだけだ。
アルコールをジョッキに注ぐだけだから「おかみ」は腕を振るう機会に恵まれず、詰まらないが全力疾走していた……。
「それにしても、ディアちゃん。カッコよくて可愛いよなぁ……略して、カッコかわよ。うへへ」
「「「な゛っ?!」」」
それは「全員無事に帰還したぞ宴会」が宴もたけなわになった辺りで、アコウがボソッと呟いた一言を発端にした。
それまでは今後のパーティの活動方針やら、今回の戦闘でお亡くなりになった装備を新調する件などの建設的な話し。建設的ではない話しだと、エリスの色仕掛けアタックにセルンのデレツンアタックなど、ギンを除け者にしたアコウに対する色恋PRなどが花を咲かせていた。
そんな中で、アコウが呟いた一言をきっかけにして、「魔の酒場亭」の中に……店内にも拘わらず暗雲が一気に立ち込めていくのである。
「ちょっと、アコウ!酷いんじゃない?ウチみたいないい女がいるのに、他の女に見惚れちゃってさ」
「そうですよ、アコウさん。私だって胸の大きさなら、あんな小娘には負けてませんッ!神の御名に誓って負けませんッ!脱いだら凄いんですからッ!」
「エリスぅ、アンタのは寄せ集めの偽ちちでしょ?大事な大事な神様の名前を傷付けちゃうわよ?」
「な゛ッ?!なんですってぇ‼アンタなんて、寄せるモノがないつるぺったんじゃないッ!それに、昼間服の上から「お花詰み」してたクセにッ‼」
お酒の勢いもあってか二人のヒートアップは止まる気配を知らないようだ。加熱が過熱気味で暴露大会となり過激な発言が飛び交う中、二人の事に興味がなさそうなアコウは、ディアの行動を目で追い掛けている。
そんな目がハートになってるアコウに熱視線を送っている存在がいるとは、アコウを始めエリスもセルンも分かっていなかったのである……。




