ep18 命(The fool)
「助けてくれッ!……ひぃッ」
「助けてくれと言いながら、人様の顔を見て悲鳴を上げるなんざ、なんて失礼なヤツだい!」
「おかみ」の言い分には一理ある……が、鬱々とした表情の「おかみ」を見れば、それこそ死神すらも裸足で逃げようというもの。そんな顔で接客をする方が悪いと言えばその通りだが、そんな事は口が裂けても言えない。
「すまねぇ!それよりも、仲間達を助けてくれッ!」
「どっかで見た顔だと思ったら、冒険者やってるアホウじゃないか。確かパーティはアンタがリーダーだったハズ。リーダーが救援頼みに来るなんて、末期だねぇ」
「俺はアホウじゃない!アコウだッ!ここにエラい強い姐さんいただろ?助けてくれ!早く行かないと仲間達が、仲間達がッ!」
突如現れたのは冒険者であり、一見さんではない。過去に何回か救援でこの「魔の酒場亭」を使っている。まぁ、毎回毎回、命の危険のあるような依頼をギルドから貰う方が「どうにかしてる」と「おかみ」は思っている。だからこそ、アホウと名前を覚えていた。
「それで、今回はどこだい?ところで、アンタはどうやってここまで来た?それ次第じゃ、仲間達はもう生きてないんじゃないかい?」
「場所はクルサ平原だ。ここには仲間の神官が転移魔術を使ってくれたんだ」
「意外と近いね。そしてアンタのパーティにいる神官がねぇ……。へぇ……あの娘そんな芸当も出来たんだねぇ。だが、アンタが所望するエレは今、所用に出てるから、暫く帰って来ない。残念だったね」
「そんな……それじゃあ、仲間達は救えないってのかよッ!」
アホ……もとい、アコウは激昂した。仲間を救えない苛立ちと、リーダーでありながら自分だけがおめおめと逃げ戻ったような不甲斐無さに……である。しかし毎回の事ながら、そのような依頼を受けた自分達の未熟さについては一切合切不問にしているのだろう。
「まぁ、手が無いワケじゃない。銀貨七枚で請け負うけど、どうするね?」
「ぐッ……足元見やがって……それじゃ依頼料がほとんど残らないじゃねぇかッ!」
「それなら他をあたりな!銀貨二〜三枚出せば受けてくれる命知らずはいるかもしんないよ?」
「無理だ……今、仲間達は数百の群れに襲われてる。銀貨二〜三枚じゃ……」
「はぁ……アンタねぇ……そんな依頼、本来なら銀貨七枚でも少ないじゃないのさッ!アンタ達はやっぱりアホウだよッ!命をもっと大切にしなッ!」
この世界は命が軽い。そして売れていない冒険者達の命は安い。だからこそこんなアンバランスな依頼が発生する……と思いがちだが、今回は実は違う。
数百の群れ自体がイレギュラーなのだ。これは何者かによって仕組まれ、集められた獣達による疑似大暴走とも言えるハプニングに、「かち合ってしまった哀れなパーティ」というのが本質だった。
持っているとしか表現出来ない程の凶運とも言える。日頃の行いが悪いから……と言われれば本人達は、ぐうの音も出ないかも知れない。
しかし……だ。不運極まった上に「おかみ」からお説教されるのだから、可哀想に尽きると言えばそれもまた、その通りだろう。
そんな可哀想な男、アコウはパーティの救出と引き換えに銀貨七枚の条件を飲んだ。その結果、初めて見る“ランデス”の姿に打ち震えていた。
だが、この話しはそれだけで終わらない。その話とは、今回は「おかみ」が久方振りにディアに仕事の内容を伝えるべく倉庫区画に降りたワケだが、その区画の状態が以前よりも随分と様変わりしていた事で、打ち震えていた人間がもう一人いたという事だ。
……要は「おかみ」も打ち震えていたという事になる。それはもう、全身をガクガクとブルブルと……である。
それが何を意味するかは、ご想像にお任せする。




