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メタバースマルチバース 〜ユニバースディ〜  作者: 硝酸塩硫化水素
はじまり

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ep17 正体(Weak point)

「お……かみさぁん……そこッ……そこは……ダメですぅ」


――べしッ


「痛いですよぉ!なんでブツんですかッ!暴力反対ですッ!ぷんぷんぷいッ!」


 艶っぽい声で甘ったるく()()()ような声に、真っ先に手が出た「おかみ」だった。

 流石にこの状況で、客が入って来たら言い訳のしようもないし、客が扉の前で聞き耳を立てていたらと思うと気が気じゃないのが本心だろう。

 しかしディアの抗議があったとしても、「おかみ」の手は止まらない。


「アンタ、ワザとやってるのかい?気が済むまで触っていいと言ったじゃないかい。ほらほら、もっと触るからね」


「はぁ……はぁ……はぁ……言いましたよぉ。でも、そんな、敏感な所を触られたら……わたし……わたし……おかしくなっちゃいますよぉ……」


――べしッ


 二度目の愛のムチ。いや、「おかみ」がディアに対して愛があるかはこの際どうでもいいが、愛があるとするならば「魔の酒場亭」に対してであって、他意はない……だろう。

 要するに「聞き耳」に対しての最大限の警戒だろうが、扉の前で聞き耳を立てている者がいたとしたら、勘違いしても当然と言える……かもしれない。

 むしろその者はハァハァしてそうな……げふんげふん。何でもない。それはそれ、これはこれ。


 ただ……名誉の為に申し伝えるが、「おかみ」はディアの許可を得て、触診していただけだ。ディアの背後に回り込み、服の上から背中、腰、太ももの順に調べ、頭を撫で、耳に触れた時に()()()()()()()という次第である。

 従って、()()()()()()()など、何一つとして行ってはいない。断言しよう。


「はぁ……はぁ……はぁ……わ……たし……耳が弱い……んですぅ……。で……も、この耳の……せい……で、よくエルフさ……んとか、ダーク……エルフ……さんに……はぁ……はぁ……」


「まぁ、確かに一理あるだろうね。エルフやダークエルフってのは、耳の先っちょがこんな風に尖ってるので有名だからねぇ」


――ちょんッ

ひゃうッ――


 「聞き耳」への警戒を行っている筈の行動とは思えない……が、どこかしらにある「おかみ」の嗜虐心が(くすぐ)られたのかもしれない。口角を()()()と上げた「おかみ」の姿がここにあるのだから……。


「(しかし……だ。ディアの耳はエルフ達のように尖ってはいるが、先端から根元に向かう方が違う。だから“ハーフ”とも違う。……結局、その線はシロ……だね)ところでアンタ、いつも耳を髪の毛で隠してるじゃないか。それなのに見られたコトがあるのかい?」


「は……い。風が強い……時に髪の毛が、ぶわぁってなって……」


 ディアは脚に力が入らないのか、先程から床に()()()()()尻もちをついていた。中心が紅く、周囲に様々な色が散りばめられた宝石のような瞳は、涙目になっており上目遣いに「おかみ」を見詰めている。まぁ、これで嗜虐心が擽られないのであれば、それこそ……だろう。


「さてと、そろそろお立ち。もう耳は触らないから。それにしても翼や尻尾の類は服の上から触ってみて無いように思えたが、本当に無いんだね?」


「翼?あればお空を飛べますか?(どきどき)尻尾があれば、手が塞がっている時に便利そうですねッ!」


「はいはい、無いってコトだねー(棒読み)」


 こうして「おかみ」による触診は終わった。最終的に何か発見出来たかと言うと、「ディアは耳が弱い」という事だけだ。当のディアは「おかみ」の()()()から解放され、クルマ弄りの為に地下に降りていった。その足取りは非常に軽かったと言えるだろう。


「精神生命体や霊的存在が肉体に取り憑いている線もシロ……か。取り憑いたモンが、元の肉体を変質させる類の話しは聞いたコトがないからねぇ……。いい線だとは思ったんだが……いや、待てよ。確か前に……」


――バンッ


 「魔の酒場亭」の一階に一人で残り、考えて事をしていた「おかみ」だったが、何かを閃いた直後にその静寂は破られたのである。

 突然の来客に本来ならば、多少大袈裟でも礼賛と祝福を以って招き入れたいところなのだろうが、今は状況が悪かった。よって「おかみ」は他人から見れば憂鬱とも陰鬱とも取れる表情のまま、接客に臨むのである。

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