ep16 種族(All unknown)
「それで……あれから何か思い出したのかい?」
「わたしはディア■■で、何かをする為にここに来た……ってコトですかね?」
「それは何も思い出せてないって言うんじゃないかい?」
「えへへッ。照れちゃいますよぉ」
数日間店を閉め、その間、強制休みとなり復活して帰って来たディアはいつも通りだった。
ちなみにその数日間で「おかみ」に対して緊急の案件や、相談される依頼が何も無かった事は、「おかみ」の精神衛生面上を何も宜しくしなかったと付け加えておく。
「それで、今日は先日あんな事があったワケだから、少しアンタの事を聞かせてもらえるかい?」
「せんじ……つ?」
――ぶわぁッ
「おがみざあぁぁぁん、人間ざんの……人間ざんの……」
「(あちゃあ……マズったねぇ。この手のワードはタブーか……)大変だったねぇ……よしよし」
※この後、ディアが落ち着くまで一時間掛かった。
「それで、アンタの種族名はなんなんだい?」
「種族名?ディア■■ですけど?」
「それはアンタの名前だろう?」
大前提として「おかみ」は、ディアが人間だとは思っていない。少なくとも人間ならば、「人間」に対して「人間さん」とは言わないものだ。そして、膨大な魔力を持つ者はごく一部の限られた種族だけだ……というのが根拠だった。
そもそも「人間」とは、ヒト種、亜人種の相対的な名称であり、このヒト種と亜人種も多種多様な系譜がある為、一概に見た目で正確な種族名を判断するのが一番難しい分類とも言える。
だがディアがこの「人間」ではないとするならば、これまた不可解な点がある。
「人間」以外の“動物”は、知性がほぼないとされる家畜や野生種を除けば残りは、獣種となる。陸海空のそれぞれの獣達だ。それらは基本的には人語を解す事がない。それ故に人語を介さない。コミュニケーションなどの為に介すのは鳴き声などである。これが独自の言語といえばその通りだ。
しかし陸海空の中でトップクラスの長命種である龍種などは希に人語を解す事があるようだが、それこそ伝説級と言われ、人間達の前に姿を現す事は皆無と言われている。
それは偏に人前に現れないのは、言わずもがな……だろう。
「ディアが「人間」ではないにも拘わらず、人語を解し話す」この不可解な点を、「おかみ」は解きたいと言える。
「名前?名前はディアです。おかみさんに付けて頂きました」
「はあぁぁぁぁぁぁ。そういう事か……あの時アンタが名乗った「名前」は種族名だったってコトだね?」
「はい、種族名がディア■■で、個体名がディアになりました」
これで一つ謎が解けた。しかし「おかみ」が知るこの世界の種族の中に「ディア〜」と言う種族名は存在しない。しかしそうなると……ヒト種、亜人種ではなく、陸海空の如何なる獣達でもなく、人語を解し話す、第三の「人間様生命体」、「人間近似生命体」と言う事になるだろう。
いや、それ以外にもう一つだけ種族があるには……ある。しかしそれはあくまでも例外的な種族の為、ディアに対しては第四の〜と言うのが正解と言えば正解なのだが、便宜上第三の〜と言う事にする。
「ディア、アンタの身体を調べていいかい?」
「それじゃ、服を脱ぎますねッ!」
「待てッ!待て待て待てぃッ!なんでそうなる?」
「服を脱いだ方が調べやすくないですか?」
「おかみ」から言われた直後に服に手を掛けたディアを、「おかみ」は必死に止めた。ここは店の中とはいえ、扉には鍵が掛かっておらず、誰かが入って来ようモンならすっぽんぽんのディアとご対面になるだろう。
出くわした客はそれこそラッキースケベ的な強運を持っているだろうが、それはそれ。これはこれ。
しかし流石にそれは客商売をしている以上、立つ瀬がなくなる。そもそもその手の営業はこのアーレの城下町に於いて、一部の区画以外では許可が出ず認められる事は絶対にないのだ。
その区画以外の店の中で、「何やらいかがわしい事が行われていた」と噂が立てば、それだけで店としての営業は出来なくなる。最悪、アーレの城下町から追い出される事になるだろう。
まぁ、追い出されるだけで済めばそれこそ「最悪」ではなく儲けモンだろうが……。
「服の上から触らせてくれるだけでいいんだよ」
「はい、それならいくらでも、気が済むまでどうぞッ!」
こうして「おかみ」の触診が始まった。「おかみ」はディアの言い様に不穏な気配を感じたワケで……。だからこそ「変な声を上げないでおくれよ……」と真っ先に思っていただろう。




