第06話 アテナの日記。 その1
小学校六年生の夏休み。
ダンジョンで見つかったアイテムのせいで、いきなり女の子から男の子へと『TS』してしまった僕――原西亜帝奈。
ダンジョン由来の異変なら、ダンジョンで手に入るアイテムでどうにか出来るかもしれない。
今から思えばかなり短絡的な発想から、桜凛学園迷宮科への入学を決めた僕。
どうせ入るなら優秀な人材が集まるクラスがいい。
そう考えて受験勉強をかなり頑張った結果、振り分けられたのはAクラス。
……あれ? このクラスって上位の貴族から推薦を受けるほどに優良な人間や成績上位の生徒が集まってるはずだよね?
僕だって『男子』という立場の人間だから偉そうなことを言えないのは分かってるんだけど……。
クラスメイトの中で、真っ先に目に付いたのは仁王院鳳凰くん。
今期の迷宮科入学生の中でも、おそらく随一の身体能力を誇るフィジカルモンスター。
しかも子爵家の次男という、文句なしにやんごとなき立場の男の子。
どこからどう見ても王子様枠。
普通に考えれば女子人気を一身に集める存在になる逸材!
……のハズなんだけど、いかんせん外見も内面も個性的すぎて。
『目鼻立ちのクッキリした』を通り越して、濃すぎて迫力すらあるその顔立ちは高校生にして三十代の貫禄。
普段の言動も一歩間違えれば他人を見下しているように聞こえるものばかり。
正直、友達になりたいタイプではないな……と、その時の僕は思っていた。
インパクトの強すぎる彼の次に目立っていたのが、葛葉綺羅くん。
制服ではなく、なぜか白い狩衣姿で教室の椅子に座っているその光景に、思わず二度見してしまった。
貴族的な立ち振る舞いではあるんだけど、雅というよりはお公家様特有の、仁王院くんとは別ベクトルで癖の強い上から目線。
彼もまた、積極的に友人になりたいとは思えない男の子かな?
続いても『制服ではない格好』という繋がりで目を引いた女の子。
こちらも和服の一種ではあるのだが、西洋文化流入期の女学生を思わせる振り袖に袴、ブーツ姿の豪俵夢子さん。
おっとりとした、和やかな雰囲気の、少し儚げで優しそうな女の子――なんだけど、体の一部がとてつもない自己主張をしている。
というか彼女、仁王院くんの婚約者だったみたいで、彼の近くに寄る女性へ向ける視線は――思い出すだけで身震いするほど鋭い。
……いや、そんなに警戒しなくても彼のことは誰も盗らないと思うよ?
他にも、ビスクドールのように無表情で、呼吸しているかどうかすら分からないほど微動だにしない『稗州茶阿良』さん。
そんな彼女のすぐ後ろに、いつも抱きつくように張り付いている『秋吉英莉子』さん。
「何この個性が年末年始の帰省ラッシュ並みに渋滞してるクラス……」
もっともそんな彼ら、彼女ら以上に異彩を放つ存在がもう一人。
クラスの人間の半数がその姿を見つめながら顔をしかめる、『鉄仮面』姿の人物――明石静さん。
上半身が焼け爛れたような症状を抱えた、悪い意味での有名人。
僕が聞いたことのある彼女は誰にも近寄らず、そして誰も寄せ付けない、そんな女性のはずなんだけど……。
なのに、彼女がまるで親猫に甘える子猫のようになつきしなだれかかってる、おそらくクラスの人間全員が忌避している彼女を優しい顔で見つめている男の子。
彼は一体何者なんだろう?
そんな疑問を抱きながらそちらを見つめている僕と彼の視線が重なる。
……何故か、ものすごい嫌な顔されて地味にショックを受けたんだけど!?
ちょっと凹みながらも前を向いて時間をつぶす僕。
担任の先生が教室に入ってきて、迷宮科名物『殺死愛夢』の開催と、このクラスの代表の名前を告げた。
男子の代表は仁王院くん。
……まぁ、順当なところだろうね。
続いて女子の代表は――明石さん?
……その瞬間、豪俵さんの目が完全に人殺しのそれに変わる。
ていうか指名された明石さんが『自分のパートナーは柏木くんだけ』だと仁王院くんとペアを組むことをキッパリと否定。
いや、そんな言い方をしたら豪俵さんが般若の形相に!! ……なるかと思いきや、
「……どうやら、わきまえた方のようですね?」
と、慈母のような微笑みに戻った。
まぁその代わりに、今度は仁王院の顔が変わったんだけどさ。
「ほう……隣に座るその生っ白い男が俺よりも強者だと?」
「あっ、柏木はあいつです」
……どうして彼は僕を指さしているのかな?
「僕の名前は久堂だけどね!?
どうして君はそんな三秒で分かる嘘をついたのかな!?」
当然その後は、『怒った』というより『面白がっている』仁王院くんが柏木くんと力比べをすることに。
……何故か上着からシャツまで脱ぎ捨てて上半身ハダカの状態で筋肉を誇示し始めた仁王院くん。
もしかして彼はただのおバカなんじゃ――ああ、明石さんが仁王院くんのお腹を殴るんだ? ちょっと何を言ってるのかわからな『ドゴォォォォォッ!!』えっ? 何今の音!?
ただ軽く、『トン』と拳を当てただけに見えたのに、教室のガラスを突き破って廊下まで吹っ飛んでいった仁王院くん。
血まみれになりながら気を失っている彼に、やれやれ顔の柏木くんがポーションのようなものを振りかける。
……仁王院くんの体が光ったように見えたんだけど?
そのまま保健室へと運ばれるていく彼の代役として指名された柏木くん……えっ? 同級生が白目剥いて気絶するほど吹き飛ばしておいて出ないんだ!?
……なぜか、その役目が僕に回ってきた。
こうして『入学早々クラスメイトを半殺しにする』という、鮮烈すぎる迷宮科デビューを果たした明石さんと柏木くん。
「……久堂っ!
どうしてあいつは、柏木は学校に来ないのだ!?」
「その話だったらもう、仁王院くんが三好先生から『あの二人はダンジョン実習に行っています』って説明されてたじゃないか」
もちろん僕だって彼のことは気になるけど、連絡先の交換すらしてないんだからどうしようもないし……。
そんな僕が、次に彼らの噂を耳にしたのは四月の終わり。
どうやら二人で『センニチダンジョンの10層・階層主』を攻略、表彰されるってことなんだけど ……いやいやいや!
入学したばっかりの学生が10層攻略ってどういうことなのさ!?
迷宮科設立以来、最速記録となるその噂話に学校中がざわつく中、登校してきた柏木くんと明石さ……って、誰!?
鉄仮面を脱いだ明石さんの人間離れした、幻想的とも言えるその美貌に教室の中から一切の音が消え――
「柏木っ!! 何故だ!?
どうしてお前は我という漢が居るのに学校に来ない!?」
……うん。
仁王院くんは仁王院くんだったよ。
その後、表彰式の時間まで授業を受けることになった彼らなんだけど……入学以来初めて受ける授業ということで、タブレットすら持たずにまさかの手ぶら登校だったみたいで。
仕方なく僕のタブレットを貸したまでは良かったんだけど、授業中に歌い出すわ騒ぎ出すわ……。
どうしてなのか、僕まで一緒になって先生に怒られたのは……うん、やっぱりどう考えても納得いかないんだけど!?




