第05話 ……犯人はヤス!
まったく必要のなかった紆余曲折を経て。
絆創膏と絆創膏のちょうど真ん中、素肌に直接埋め込まれているようにしか見えない『青い宝石』にそっと触れ――
「んっ……」
「えっ? これって感覚まであるの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけどね……」
どうやら爪の上から触られているような、焦れったいようなむず痒いような感じがするらしい。
そしてこれ以上、艶めかしい反応をする野郎の半裸を見続けて新しい扉でも開かれたらたまったもんじゃないのでサクッと鑑定。
「あー……残念。
呪具じゃなくて、普通の魔道具みたいだわ」
「どうしてそこで残念そうになるのさ……。
普通は呪いの道具じゃないって分かったら、安心するところじゃないの?」
「『普通なら』そうなんだろうけどな?」
ほら。もしも呪いの類なら、俺とシズカさん。
それでも駄目ならカズラさんとショウコさんを加えた四人がかりの『儀式魔法』っていう力業で――いや、そもそもこいつの体にくっついてる青い宝石。
鑑定の結果では【転性珠】って名前の魔道具なんだけどさ。
赤と青で一対になっているところは、さっき聞いた話の通り。
赤い宝石を女性が、青い宝石をを男性が握った状態で『男になりたい』『女になりたい』と強く願うと、性別が入れ替わるという仕組みになっている。
ようするに……異世界産の『大人の玩具』だな。
もちろんそのようなプレイに使うだけの代物なので取り外しだって簡単。
専用の『吸着器』――『エッグホルダー(喫茶店とかでモーニングセットで出てくる玉子置き)』みたいな形をした道具を当てるだけで外せるという。
「……つまり、こいつが出した写真はメスガキだった過去の栄光を自慢したかっただけのモノ。
そして本性は公共施設で不特定多数に裸を見せたいだけの露出狂。
いやしかし、それならダンジョンにこだわる理由は一体……」
「……何をどう解釈したらそうなったのさ?
そもそも僕のことを無理やり脱がせたのは君だよね?
僕がダンジョンに入りたいのは間違いなくこれをどうにかして女に戻りたいからだよっ!」
「いや、だったら素直に吸着器を使えばいいだろ……」
これにて一件落着。
『はい終わり終わり』と、手をパンパンと鳴らす俺に久堂が食って掛かってくる
「いやいや、どうして君は全部解決したみたいな顔をしてるのさ?
ほら、見てごらん?
僕の体は胸も小さいままだしおち……その部分も付いたままだよね?
そもそも君が言った『キュウチャクキ』って何なの?」
お前のおっぱいに関してはシズカさんとそれほど変わらな「……夕霧くん?」大丈夫! みんなまだまだ成長期「……夕霧さん?」ハイハイ、この話はここまで!
……ていうか俺、何も言ってないのよね?
「何って言われても、吸着器は吸着器としか」
鑑定結果をそのまま、全員に【転性珠】の仕様を説明する。
「……久堂くん。あなた、そんな小さなころからマンネリ夫婦みたいなプレイを」
「僕だってそんなアイテムだって知ってたら貰わなかったからね!?」
……「完品なら高く買い取るわよ?」などと、一体何に使うつもりなのかわからないカズラさんのことはさておき。
「説明も終わったし、今度こそ本当に解決――」
「僕、そうやって途中で投げ出そうとするの良くないと思うんだ。
確かに、君のお陰で解決の手がかりは見えたけど、まだ僕は男の子のままだからね?
とりあえず今から叔父さんに、その吸着器のことを確認してみるよ。
だからそれが終わるまで、もう少しだけ待ってもらってもいいかな?」
「もちろん、待つのは別に構わないけど……」
バタバタとしながらもスマホを取り出し、その場で電話をかけ始める久堂。
さすがに探索者をしているらしい叔父さんという人は出なかったみたいだが、従弟の方には繋がったみたいだ。
先程俺が説明したことを相手に伝え、家にそれが無いかを問いかけるも……。
「……叔父さんが持ち帰ったのは赤と青の宝石だけだったみたい。
トオルはキュウチャクキなんて見たことも聞いたことも無いって言ってる」
「だろうな」
俺を含め、部屋にいる久堂以外の全員が予想通りの答えに苦笑を浮かべる。
「……なにさみんなして。
どうしてそんな、最初から分かってたみたいな顔をしてるのさ?」
「はぁ。逆に、どうしてあなたは分からないのよ……。
もし宝石と一緒に別の道具を手に入れていたなら、性別が入れ替わった時点で真っ先に気付いているはずでしょう?
それがあなたに伝わっていない時点でそういう答えが返ってくるのは当たり前ではないかしら?」
「そ、それは確かに……そうだけどさ」
せっかくの手がかりが無くなってしまったところにシズカさんに追い打ちを掛けられ、ショボンとした顔になる久堂。
「もっとも、それが本当に最初から無かったのか、それとも隠しているのかまでは分からないところがなんとも」
「えっと、それっていったいどういう……」
ショウコさんの含みのある言葉をカズラさんが引き継ぐ。
「いや、さっきお兄ちゃんが魔道具の発動条件を教えてくれたじゃない。
ナニガシくんちゃんは、その宝石を手に持った時『男になりたい』って願ったの?」
「えっ? 昔のことだからハッキリとは言い切れないけど……。
そんなこと考えてなかった……んじゃないかな」
「でしょ? つまり……犯人はヤス!」
「いや、誰だよヤス」
ていうか身内がやらかしてるんじゃないかと伝えられた久堂がさらに落ち込んじゃったんだけど……。
「まぁお前の叔父さんか従弟が鑑定持ちだって言うならまだしも、その時点で使い方を知ってたかどうかは分からないんだし。
カズラさんみたいに捻くれた考え方をする必要はないと思うけど」
「あれれー? おかしいぞー?
今はカズ以外も全員が同じ答えにたどり着いてたハズなのに、どうしてカズだけ性格の悪い子扱いされてるのかなー?」
「……地味に痛いから、後ろに回ってコメカミをグリグリするのは止めて?」
まぁ、久堂にしろ仁王院にしろ、思ったよりも真面目な理由――
いや、仁王院に関しては、『テレビか雑誌か知らないけど、探索者に一目惚れした』とかいう、良く言えば純愛。
一歩間違えなくとも『パワー系ストーカー』みたいな理由でしかないんだけどさ。
「そうだな、もしも久堂が対価を払えるんだったら……魔力酔いのこと、手を貸すくらいはしてもいいぞ?」
「……えっと、それは今すぐ僕の胸を自由にさせろとかそういう……」
「ふざけるなら帰って?」
「ご、ごめんなさ」
「もし触るとしても、それは今じゃなくてお前が女の子に戻ってからの話だろうが!!」
「ふざけてるのはどっちの方なのかな!?」




