第02話 「それは支部長さんではダメなんですか?」
明石さんのことも俺のことも、散々っぱらコケにしてくれた明石のオッサン。
六条家と鷹司家の両方から『100代かかっても返しきれないレベルの迷惑料』を請求された結果、オッサンが選んだのは『逃げる』コマンドだった。
「最終的には富山県のビジネスホテルに潜伏しているところを、六条の手の者に確保されたとのことです。
そのような状況ですら懲りずに『娘を呼べ! 婿と話をさせろ! そもそも六条との話を進めたのは嫁だ!!』などと喚き散らしながら暴れたみたいですよ?」
「本当に救いようがないな……」
分かってはいたけど。
最後の最後まで、反省の態度も謝罪の言葉も一切出てこなかったわけだ。
「捕まったオッサンは……自業自得として。
明石さんのお母さんはどうしてるの?」
「母は兵庫の実家に戻ったみたいね。
もっとも、母が明石家に嫁いでから実家とは年末年始の挨拶ですら疎遠になっていたから……。
姉の件もあって、完全に腫れ物扱いされているでしょうね」
あー……それはねぇ。
旦那があんな性格じゃ、積極的に付き合いたいとは思わないよな。
下手に関わったら再現無く金の無心、一言返せと言うだけで大喧嘩になりそうだもん。
「……お姉さんのことも含めて、もし明石さんが気になるなら何でも言ってね?」
「あら、それって母娘姉妹まとめてとかそういう――」
「無いから。そんな業の深い性癖は持ち合わせてねぇから!」
……ホントだよ?
と、義理も人情も常識も、欠片ほども持ち合わせていなかったオッサンの話はどうでもいいとして。
何かと便利使いしている形になっている鷹司家のカズラさん。
挨拶程度しかしたことがないのに、妙に気を遣ってくれる六条家の支部長さん。
何より! 今の俺の生活があるのはこの人のおかげと言っても過言じゃないほど世話になりっぱなしの中務さん。
「というわけで!
ナニガシちゃんを実家から解放するための『婚約大作戦』が一段落つきましたので!
ここからは、ちょっと大人のドロドロしたお話になります!
簡単に言えば『お兄ちゃんを、どうやってうちに取り込むか』って話だね!」
「内容はその通りでしょうがもう少しだけ穏便な言い方に直して?」
ろくでもないことを言ってるはずなのに、やたらといい笑顔のカズラさん。
まぁいろいろと見せちゃってるし? 言いたいことは分かるんだけどね?
正直なところ、この状況で後ろ盾がなくなったら……それこそ半日も持たずにどこかの誰かに拉致監禁されても不思議じゃないからなぁ。
大きな傘の下に入ること自体は何の異論もないんだけどさ。
「といいますかその話って、六条家に明石准男爵家の件をお願いする前に、すでにまとまってましたよね?
鷹司家からは中務さんをお嫁さんに、明石さんは六条の養女として輿入れ、それで両家と繋がりを作るって。
あっ、もちろん中務さんをお嫁さんにっていうのは政略結婚的な意味じゃなくて俺が中務さんを大好きだから! 他の誰にも渡したくないからですからね?」
「ふふっ、わかっております」
微笑み、見つめ合う俺と中務さん。
「何このバカップル……まぁそれはそうなんだけど、状況は刻一刻と変わっていくものだからね?
ほら、お兄ちゃんにもらった美容整形入浴剤。
アレをうちのお祖母ちゃんとか、六条家の藤香さんとかが使ったじゃない?」
「使ったかどうかは知りませんけど、今回の騒ぎに巻き込んでしまうお詫びの一つとしてお渡しはしましたね」
「カズとかショウコ、ギリギリお姉様」
「誰がギリギリですか!?」
「……まではほら、まだまだ若いし?
だからアレを使っても、劇的な変化はなかったんだけど。
お祖母様が……もうね、笑っちゃうくらい若返っちゃったのよ」
「確かにポーションも配合されてますし。
明石さんみたいに、大きな傷跡があったとかなら?
劇的な変化が見られるのも分かりますけど……さすがに『若返り』はないでしょう?」
思わず『何言ってんだこいつ?』という目を向けると、逆に呆れ顔のカズラさんがこちらにスマホを突き出してきた。
「えらい綺麗な和服姿のお姉さんの写真ですね……」
「この人って何歳に見える?」
「写真とかいくらでも加工できますし、それでなくとも女の人の歳とかわかりにくいですし……そうですね。
落ち着いた雰囲気で着物も着慣れた雰囲気ですし……20代ではないですよね? てことは35歳くらい?」
「68歳だよ」
「……マジで?」
「マジで。
ていうか、お祖母様が美容整形入浴剤を五本ぜんぶ一人で使っちゃって。
湯上がりの姿を見たお母様と叔母様が大騒ぎになったんだからね?」
いや、そりゃ68歳のお祖母さんがこの姿になったらビックリするわ!
「柏木さん、うちも似た感じの結果でした。
白髪混じりだった祖母の髪は艶のある黒髪に。
くすみの隠せなくなっていた肌も、目に見えて張りを取り戻して……お湯を替えるたび、目に見えて小じわが消えていったそうです」
「何それ怖い」
「というわけで!
お祖母様の命令により、カズがお兄ちゃんにハニートラップを仕掛けることになりました!」
「チェンジで」
「どうしてかな!? かな!?」
いやだって、返り血まみれじゃないカズラさんとかこれっぽっちも性的興奮を覚えないし。
もちろん嫌いじゃないんだよ?
友人枠と言うか、そこそこ親しい親戚のお姉さん枠になっちゃってるだけで。
「……あの、とても言いにくいのですが、私も同じような状況でして。
養女の静さん一人ではさすがに繋がりが弱すぎるだろう……と。
近々パーティを開きますのでそちらにご参加いただきたいのですが」
何そのお見合いパーティ……。
「といいますか、それは支部長さんではダメなんですか?」
「えっ? 私ですか!?」
「お兄ちゃん!?
どうしてカズはダメで、いけず後家はアリなのかな!?」
「葛、私は嫁に行けなかったのではありません。
寄り添いたいと思える相手がいなかっただけです。
……柏木さん、今のお話、実家の方に、通してもよろしいですね?」
言葉を細かく区切りながら確認してくる六条さんの圧が凄かった……。




