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サクラサク 第09話 装備品で一悶着からの初めてのダンジョン

「えっと、君と僕は一緒におでかけしたよね?

 『ちょっと着替えてくるね』って伝えておいたよね? 普通は更衣室の前で待ってるよね?

 カーテンを開けて『どうかな?』って聞いたら知らない女の子しかいなくて「に、似合うと思います!」って言われたんだけどこの件に関して君はどう責任取ってくれるのかな?」


「たまたま目的地が同じだっただけのことを一緒におでかけとは言わないと思うんだけど?

 逆に聞くけどお前はその質問をして俺になんて答えてほしかったんだよ?」


 頬を膨らませてお怒りモードの久堂。何なのこいつ、付き合いたての彼女なの?

 てか久堂……だけじゃなく戻ってきた全員えらい重装備だな。

 ダンジョンでスライム退治って聞いてたんだけど、もしかして騙された?

 密集陣形ファランクスでの戦闘訓練とか始まっちゃう感じ?


 班員が全員戻ったのを視認したのか、離れたところで知り合いらしき冒険者……じゃなくて探索者と談笑していた担当の某氏が笑顔でこちらに歩いてきた。


「おっ、ちゃんと時間内に全員戻って……

 えっと、約一名ものすごーく軽装の子がいるんだけど?」


 某氏の一言で視線が俺に集まる。

 確かに全員の装備品、色や形は多少異なるけど


・右手に重そうな鈍器メイス

・左手に透明のポリカーボネートシールド

・体には革製の防具上下一式


 それに比べて俺は腰に『刺突剣エストック』が一本だけ。


「えっと、きみの装備は本当にそれだけで大丈夫なのかな?

 もしかしてだけど対象が『スライム』って聞いて舐めてかかってない?

 ジェリースライムの攻撃でも当たるとそこそこ痛いよ?

 もちろん私がサポートしてる間は死なせたりはしないけど……」


 心配そうな顔をする某氏と


「貴方、本当に試験勉強をしたのかしら? というより本当に試験を受けて合格したの?

 ジェリースライム退治の装備品なんて基礎の基礎だと思うのだけれど?

 盾も持たずに飛びかかってくるスライムをどうやって受け止めるつもりなのかしら?」


 完全に呆れ顔の明石さんと


「そうだね、鎧まではいらないかもしれないけど少なくとも盾は必要じゃ……

 あっ! もしかしてパーティメンバーが女の子ばっかりだから『男の子の発作』が出ちゃったのかな?」


 何やら思い至ったらしい久堂。

 俺氏、全方位からボッコボコである。

 残りの二人? 何かイチャイチャしてる……というか隣の人が狼ヤンキーにウザ絡みしてる。


「いや、確かに他の班の人を見ても似たりよったりな重装備で自分だけ圧倒的に悪目立ちしてるけれども!

 そう、これはあくまでも対スライム戦に特化した決戦装備!

 切磋琢磨した結果、突き詰めると最適解はこうなるんだよ!」


「貴方の言い回しが完全に勘違いした人のそれなのだけれど……

 切磋琢磨も何も、迷宮に入ること自体が初めてよね?」


「それはその……ど、動画で予習復習? みたいな」


 言いたい、「異世界では常識なんだよ!」って声を大にして言いたい……。


「動画……確かに私も『金属バットでスライムを打ち返してみた』を真似した事があったわ」


「えー……ダンジョンでバット振り回すとかはた迷惑すぎでしょ? 何やってるんですか某氏」


「協調性をかなぐり捨てた格好をしてるきみにだけは言われたくないんだけど!?

 まぁ通常の学校なら「指定の装備に着替えてきなさい」って矯正するところだけど、きみが通っているのは『たとえ死んでも自己責任』が原則の迷宮科……私はちゃんと注意したからね?」


 翻訳すると『言うことを聞かない人間は早めに痛い目に遭っておけ』ってことですね? わかります。



 こちらでのスライム退治の一般常識など知る由もない俺。

 試験に出たとか言われてもその試験を受けた覚えが無いんだから仕方ない。

 いきなり悪目立ちしてしまったわけだが……そこは多感な時期の高校生の皮を被った異世界帰りの二十五歳のオッサン。

 いちいち細かいことを気にしてたら異世界じゃ三日でノイローゼになるからな?

 全員の準備が整い、向かうはもちろん初めての地球産ダンジョン!


 一度は諦めた冒険者としての夢を掴むため、そしてみなが安全な生活をおくれるように!

 などという崇高な目的があるわけでもなく、ただただ自分の日々の生活の粮のため小銭稼ぎのため。

 最低一日に三千円くらい稼げないと少ない貯蓄が()月で尽きてしまうのだ……。

 そんなお先真っ暗な俺の人生設計はどうでもいいとして、ダンジョンである!

 某氏に先導され、向かうのはドーム球場かアウトレットモールかと言うような丸っこい(正確には正八角形)建物。


「きみ、ちゃんと『学生カード』は持ってきてるよね?

 それを入場ゲートにかざして――」


 ピンポイントに問題児扱いされている俺。『そこは俺だけじゃなくみんなに確認しろや!』と思わなくもないが自分でも多少の自覚があるので反論はしない。


「中に入ればすぐにダンジョンの入口がドーン! みたいな感じなのかと思ってたんだけど」


「スタンピードの際には防衛ラインになる建物だからね? 強固な防壁と天井でぐるりとダンジョンを囲んでいるのよ。

 ……まぁ、二十階層、三十階層にいるような魔物相手にどれほどの役に立つかは甚だ疑問だけど」


 ドーム内で営業(?)している休憩室、食堂、トイレにシャワールーム、ドロップアイテムの買い取り所などなど細かく説明してもらいながら通路を奥へと進み、再度改札ゲート――自動小銃を持った警備兵付き――をくぐった先、緩やかなスロープの先に進めばそこは


「フフッ、ようこそ、初めてのダンジョンへ!」


 ……うん、何の変哲もないただの洞窟である。

 いや、そうでもないかな? 気になるほどではないが身体に微妙な違和感が……。


「何だろう? 外とは気圧が違うのかな?」


「およ? きみ、問題児のくせになかなか敏感だね?

 おそらくきみが感じているのは気圧ではなく迷宮内に充満している『魔力』。

 ここがただの洞窟ではなくダンジョンたらしめている要素の一つだよ」


 なるほど、これが魔力……異世界では普通に魔力マナがあふれてたしこれといって何の感動も無い俺である。

 いや、そんなことよりもさ。

 スロープの下、それなりに広い空間のはずなのに……ここ、人口密度高くね?

 やたらと顔色の悪いやつ、むしろ死にそうになってる奴が多くね?


 なんか酸いい臭いもするし……うん、間違いなくゲ○臭い。ソースはバスからトイレに駆け込んだ小一時間前の俺。

 あちらこちらで俺達よりも先にダンジョンに入ったと思われる学生さんがあちらこちらでグッタリしちゃってるんだけど。

 もしかしてあれか? 初めて生き物を殺したから的なトラウマ?

 いや、たかだがスライム退治で精神的に参ってしまうような奴は冒険者にはなれないだろ……。


「なんか臭いのでとっとと先に進みたいんですけどいいですかね?」


「えっ? ……えっと、きみはなんともないのかな?」


「もちろんなんともなくはないですよ? 普通にもらいゲ○しちゃいそうですし。

 俺、某氏とは違って他人の体内から分泌されるモノって好きじゃないんですよ」


「どうして私はそれが好きだと思っちゃったのかな!?

 いえ、そうじゃなくてさ!

 もしかしてだけど、きみはダンジョン経験者なの?

 既にそれなりの時間を迷宮の中で過ごしたことがある?」


 『異世界で入ったことならあるよ!』って言いたいところだけど、残念ながらスライムが出てくるような甘っちょろい迷宮は異世界には無かったからなぁ。

 無能な俺が、強そうな魔物が跳梁跋扈する危険地帯に入れるはずもなく。

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異世界のスライムと地球のスライムが同じ保証はないんじゃないかな?
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