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第01話 「あんたのせいで! あんたのせいで私までぇぇぇぇ!!!」

 夕暮れ時、中務さんが運転する車の中。

 久しぶりに被っていた鉄仮面を脱ぎ、顔に巻いていた包帯を巻き取っていく明石さん。


「思った以上に頭の悪い……。

 コホン、知能面で苦労をされてそうな方で助かりましたね」


 仄暗い微笑みで口元を緩める彼女。

 お昼から俺と明石さん、そして見届人である中務さんの三人で『明石准男爵家』にお邪魔してて、今はその帰り道なんだけどさ。


「ていうか、中務さんが司法書士の資格を持ってたことに驚きなんですけど」


「ふふっ、こんなこともあろうかと!

 大学時代、探索者を休業してからいろいろと勉強をいたしました!」


 まぁ、あれだ。

 明石准男爵家――というか、明石さんの父親っていう人間がね?

 ビックリするほど感じの悪いオッサン……いや、うちの父方の親戚連中も全員似たりよったり……むしろ、アレより酷いのがいっぱい居るから偉そうに言えたこっちゃないんだけどさ


「それにしても……自分の娘のことを拾ってきた犬猫みたいなあの扱い。

 話の途中で何度座卓をひっくり返してやろうと思ったか」


「私が小さい頃はあそこまででは無かったのよ?

 それが、私の婚約話が上がり、まわりの人間にチヤホヤともてはやされた結果……自分が上位貴族とも対等に渡り合える存在だと勘違いしてしまったのよ」


 当然のように、そんな思い上がったオッサンにド平民、それも職業探索者な俺が「娘さんをください」なんて頭を下げても納得されるはずもなく。

 上から目線の罵詈雑言から始まり、挙句の果てには湯呑まで投げつけてくる始末。

 もちろんその程度のものが当たろうと痛くも無いんだけどな?


 もっとも、一番驚いたのは明石さんのお姉さんが、


「あんたのせいで! あんたのせいで私までぇぇぇぇ!!!」


 と口から泡を飛ばして叫びながら、襖を突き破って部屋に飛び込んできた時なんだけどさ。


「あの時はさすがに私もお尻が座布団から浮きました……」


 まぁその原因も全部自業自得。

 呪い返しの結果だと知っているこっちからすると『何言ってんだこいつ?』としか思えなかったんだけどさ。


「もし母が手早くあの女を止めなければ、全力で殴りつけていたところね」


 いや、今の明石さんの力で一般人を殴ったりしたら相手が死んじゃうどころか部屋中に赤黒い血と肉を飛び散らせた『衝撃スプラッタ映像』になっちゃうからね?


 明石さんの姉と並んで散々にこちらを罵倒してくるオッサン。

 でも、中務さんが持ち込んでいた黒いアタッシュケースの存在に気づいた途端、その声のトーンがどんどん下がっていき。


 俺と明石さんの偶然の出会い。

 (中務さんの歯ぎしりの音)


 そして彼女の心に触れ、お互いに惹かれ合っていく二人。

 (中務さんは真顔)


 見つめ合い、手に手を取りあう俺と明石さん。

 (中務さんの瞳から光が消える)


 ……予定通りの流れなのにどうして中務さんはそんな反応になってるのかな?


 そんな折、『追い出されたとは言え』明石さんの実家が困っていると耳にした俺。

 彼女の『最後の親孝行になれば』と、結納金てぎれきん片手に、こうして屋敷を訪れたことを滾々と説いていく。


「ほう、探索者などという底辺の人間にしてはなかなかに見上げた態度だな」


 ……侯爵令嬢カズラさんも探索者をしてるってのに何を言ってんだこいつは?


「だが! 腐ってもうちの娘は男爵令嬢だ!」


 いや、『准』男爵令嬢だよね?


「お前は当然男爵家相当の結納金を出せるのだろうな?」


「さて……自分は平民ですので。

 男爵家相当というのがどの程度の金額になるのか見当もつきませんで。

 ちなみに、お姉さんのお相手はおいくらくらい積まれたんです?」


「ふんっ! 翠のときは5千万……いや、1億だ!!」


「なるほど。中務さん、申し訳ありませんがカバンをもう一つ持ってきていただけますかね?」


「わかりました」


 ……ということで双方無言のまま待つこと五分。

 座卓の上に乗せられた二つのアタッシュケース。


「どうぞ、ご確認を」


 ダイアルのナンバーを合わせ、そっとオッサンの方にそれを押しやる。


「これは……」


「カバン一つに一億。二つで二億。……問題ありませんね?」


 綺麗に詰め込まれた現金を目の前にして、とたんに目の色を変えるオッサン。

 ……ここからずっと中務さんのターン。

 結納金を受け取ったと一筆入れさせ、もしも明石家の都合で今回の婚約を破棄するようなことがあれば『今後一切の親戚付き合いはしない』という念書を書かせる。


「……一億ですら倍の金額をふっかけてきていたというのに、あなたはどうしてその倍も出したのかしら?」


「んー、話の中でも言ったけど、明石さんの最後の親孝行だから?

 これまで明石さんを育ててくれた恩ってことで」


 そんな俺の言葉に、運転席と後部座席からため息二つ。


「……なんにしても、これでこちらの仕込みは完了です。

 あとはあちらが『分別のある』行動を心がけてさえくれれば何の問題も起こりませんので」


 そもそも、分別のある親は病気で苦しむ娘を家から追い出したりとかしないんだよなぁ……。


* * *


 明石さん、中務さん、カズラさん、そして俺。

 色々なことに振り回されることになってしまい、10層の階層主を討伐できたのは四月も終盤。


 探索者クラスを上げるためにはちゃんと本人たちがボスを討伐したという証拠が必要なので、付き添いのカズラさんにハンディカメラで戦闘を撮影してもらい、管理局に報告――したのはいいんだけど。


「柏木さん、『渋み成分タンニン』を名乗る女性から伝えたいことがあると連絡が入ったのですがいかが致しましょう?」


「発音がおかしいですからね? とりあえず面倒なんで無視して」


『スマホ越しにこっちまで聞こえてるからね!?

 ていうかマジでお願い!

 あなたたちの出席に先生の夏のボーナス査定が掛かってるのっ!!』


 一体何の話だよ……と思ったら、どうやら10層の階層主討伐の話が学校まで連絡が入ったらしく――


『校長があっちこっちにそれを自慢しまくっちゃって……』


 学校関係者を集めて全校集会で表彰したいらしい。


「何その大げさな話」


「柏木さんまったく大げさではないです。

 入学すぐの一年生パーティが単独で『10層を制覇』したというのは、迷宮科始まって以来類のない快挙なのですよ?」


 俺の中では入学すぐというか、四ヶ月も掛かってのボスクリアだからまったく自慢できるものでも無いんだけどなぁ……。

 まぁこっちにとっても都合の良い話だから乗っかるんだけどさ。

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