第07話 報・連・相。
劇的変化を遂げた明石さん。
それを目の当たりにした中務さんとカズラさん。
ギラギラとした野獣のような目をした彼女たちに囲まれた俺の身に何も起こらないはずもなく。
「といいますか、美容整形入浴剤はそこそこ『ヤバい成分』を配合してますから、使うなら普通の美容入浴剤で」
「柏木さん、女には負けられない戦いがあるのです。
それに、私の髪が長くなれば……あなたの望まれる全てを叶えてさしあげることも出来るようになるのではありませんか?
ほら、いつもおっしゃっているではありませんか、お顔の上いっぱいに私の髪を広げてスーハーしながら眠りたいと」
「えっ、お兄ちゃんの髪の毛フェチってそこまで……」
「中務さん、ここには他の人もいますのでその話は」
「柏木くん、あなたのその夢は今晩から私が叶えてあげるわ」
マジで!?
「……柏木さんはこうもおっしゃっていましたよね?
洗いたての、少し湿り気のある私の髪をシュシュでまとめてポニーテールにしたあと、そこに指を入れてしっとりひんやりとした冷たさとしめつけを一晩中感じていたいと」
「うわぁ……」
「中務さん、カズラさんが『カンブリア期の生物』の復元図を初めて見た女子みたいな顔になってますのでそのへんで」
「柏木くん、私なら髪を止めるシュシュの数を三つ、いえ、五つに増やして『指以外のモノ』を受け入れることもいとわないわよ?」
……キュン。
「小娘っ、今は私のプレゼン中です!
それに乗っかって彼を惑わせるのは止めなさい!!」
……あぶねぇ。
あまりにも魅力的過ぎる提案に、思わず明石さんにプロポーズするところだったぜぇ。
まぁこのあと押し切られ、カズラさん経由で両方の入浴剤を売り出すことになったんだけど……その話はまた後日。
てことで、ここ半月ほどバタバタと忙しくしていた二人からの報告である。
「まずは迷宮管理局職員の不正とそれにともなう処罰のお話なのですが」
どうやらセンニチダンジョンだけではなく、他でもギルド、それも桜花爛漫関連の団体と繋がっていた職員が大量にいたらしく。
「まぁ職員に個人的な『贈収賄』をして便宜を図ってもらうくらいはよくある話なのですが。
今回は公文書の偽造などあまりにも度が過ぎていましたので、それなりの人数の職員が解雇となりました」
俺だって中務さんと六条さんから便宜を図ってもらってるし?
大きな声で文句を言える立場でもないけどひどい話である。
「ていうかカズラさん、桜花爛漫ってそこまで大きい組織だったんですか?」
「んー、カズは内向きの仕事には興味が無かったから、本部に所属する探索者の人数すら知らなかったんだけど」
「それはそれでどうなんですかね……」
てことで桜花爛漫。
カズラさんを筆頭に、金級探索者が多く所属するダンジョン最前線攻略ギルド。
関東に本部を置いているが、北海道・関西・中国・九州にも支部があり――
「その支部から繋がる二次・三次団体まで含めれば、日本全国の探索者の一割ほどが同組織に所属しているのではないかと言われてますね」
「なにその日本を牛耳れそうな巨大組織……」
「というか桜花爛漫って結成から六年くらいよね?
それなのに、そこまで大きくなってちゃんと管理できていたのかしら?」
「管理できていればこんな騒ぎにはなってないんだけどね」
明石さんの質問に、自虐的に笑いながら答えるカズラさん。
「今回はたまたまカズが見つけたから言い逃れすら出来なかったけど、他の関連ギルドをちょこっと突いて見たら隠蔽してた情報が出るわ出るわ」
それでも一番酷かったのは大阪支部だったみたいで。
「確か、謝罪会見などは大阪支部の……兼城だったかしら?
その人が一番早かったと思ったのだけれど」
「あれは謝罪ではなく保身と言い訳でしたね。
質問は全部のらりくらりと『本部からの命令』で押し通していましたし」
「あー。あいつ、うちにも即座にわびを入れてきてたみたいね。
下には出てるけど、慇懃無礼でまったく反省はしてなかったようだけど」
「なかなか質の悪い小悪党ですね……。
というか、そこまで手を広げてたならギルドの中に監察部門? みたいなのはあったんですよね?」
「いや、それがさぁ……」
どうやら所属している地方ギルドの管理をしていたはずの『総括部』がまったく機能していなかったらしく。
「むしろそこの部長が賄賂を受け取って向こうの都合の良いように書面を発行してたみたいでね?」
「いくらなんでも組織運営が杜撰すぎるでしょう」
今回の騒ぎはギルドの総長に連絡が入る前に、これまでの不正資料を全部デリートされたうえで部長が消えてたとか。
「それ、よくこれまで問題が起きてなかったですね!?」
「起きてなかったんじゃなくて、見えてなかったっていうか、上まで報告があがってなかっただけなんだけどね?」
これまでは大きな介入はしてこなかったが、さすがにこれ以上付き合うメリットは無いと、鷹司家も呆れたらしく。
「うちから桜花爛漫に名誉毀損その他で訴訟を起こしてるみたいよ?
カズもすでにギルドは抜けてきたし。
ふふっ、やったねお兄ちゃん! これからはずっとカズと一緒にいられるよ!」
「あっ、大丈夫です」
「それは一体どういう意味なのかな!?」
もちろん適切な距離感でお付き合いしましょうという意味だけど?
ギルドの話に続いては明石さんの色々。
まぁ勝手に引っ越したりとかしてるし心配もされてるか……と思ったら蠱毒関係の話だった。
「最初に、おそらくは蠱毒騒動の犯人ではないかという男の情報ですね。
柏木さんが彼女の呪いを解いた日と重なる時期に、発狂した拝み屋が一人見つかりました」
「それはまた……でも、呪いなんて刑事罰にも問えなさそうですし、証拠も残して無いですよね?」
「はい、確かに蠱毒を使用したという決定的な何かは残ってはいませんでしたが。
その男の家の蔵の中から呪術に使う道具が大量に見つかっておりますので……もしかしたらと」
何にしても狂ってたらどうしようもなさそうだしなぁ。
「あと……明石家の娘――彼女の姉にあたる人間と、神戸家の母娘が全身から膿の出る皮膚病にかかったとのことです」
「それってその三人が依頼主とかそういう……」
美しすぎる妹。上位貴族に嫁ぐ分家の娘。
妬み嫉み、逆恨みするとかありがちな話だけどさ。
「なんというか……大丈夫?」
「何がかしら?」
だって、実姉が自分を五年間も苦しめていた呪いに関わっていた……おそらくは依頼主、下手をすれば薬を盛った実行犯って事だよな?
いきなりそんなことを聞かされ――てるはずなのに、キョトンとした顔をしてるだけの明石さん。
「……あれ? もしかしてもう知ってた?」
「そうね、姉に関しては母からそのような連絡が入っていたわね」
ああ、そう言えばお母さんだけは生活の援助をしてたんだったか。
いや、それにしてもさ。
「えっと、明石さんはその件で何か思うところとか無いの?」
「そうね、自分の手を汚す必要もなく仕返しが出来て清々したような少し残念なような。
……あなたはこんな私のことを薄情な女だと思うかしら?」
本当に終わったこと、どうでも良いことのように話す明石さんを、
「いや、むしろそんなあっさりと許しちゃうんだって拍子抜けしてるだけ。
もしも今、同じ事を明石さんや中務さんにする人間がいたら……俺だったらとことんまで追い詰めると思うし」
後ろからぎゅっと抱きしめる。
「ふふっ、そんなあなたが側に居てくれるから昔のことなんてどうでもいいと思えるのよ?」
「そうですね。
これまでの悔しい思いもやり切れない思いも……全部あなたに出会うためだったと思えばなんてことは無いです。
あと、その娘だけではなく私のことも抱きしめてください」
そう言いながら寄り掛かってきた中務さんの肩を抱き寄せる。
「あれ? ここには女の子が三人いるよね?
どうしてナチュラルにカズだけ省いてるのかな? かな?」
いや、カズラさんは何かあっても『実家と自分の力(物理)』で解決できるじゃないですか。




