第07話 変わったけれど変わらない明石さん。
さんざんぐずる(?)明石さんをどうにかこうにか――
「試してはいるけど、もし何かあったら大変だから今日だけは勘弁してね?」
「あら、私はこのまま毎日あなたが一緒に、お風呂に入ってくれる方が嬉しいのだけれど?」
更衣室まで誘導することに成功。
外に出る時はガッチリとガードしているからか、家の中では薄着でいることも珍しくない彼女の素肌。
こうしてマジマジと明るい場所で見ると、肩口から頭の先まで続く傷跡……盛り上がった肉腫が痛々しい。
そんな彼女の姿に思わず、
「……どうしていきなり後ろから抱きついてきたのかしら?」
「この姿の明石さんを見るのも最後だから記念に?」
「……バカ」
抱きついてしまった俺の腕に、クスッと笑いながら彼女が手を添える。
スライムローションはまとめて何本か入れたけど……俺が試した時はお湯が汚れたし。
今回は一本ずつ、お湯を張り替えながらにしたほうがいいかな?
美容整形入浴剤を混ぜた湯船の中で足を抱えて小さくなる明石さんの近くに座り、お湯をすくっては彼女の頭から掛け、すくっては彼女の頭から掛け。
なんというか、女子高生を水責めしてるようでちょっといたたまれない気持ちになってきたんだけど……これはちゃんとした医療行為だからね?
「あら、あっという間にお湯の色が腐りかけのお肉のパックに溜まったドリップみたいな色になったわね」
「わかりやすいけど、生々しすぎる表現は控えて?」
彼女の言葉に、思わずバスタブの中で腐ちていく人魚の映画を思い出し、ちょっとした猟奇殺人現場じみた今の光景に顔を引き攣らせてしまうが……これは治療途中の光景だから!
お湯を流してもう一度ため直し。
入浴剤をまぜて再び明石さんの頭から掛けること……四回。
肩口、首筋のケロイドもいつの間にか綺麗さっぱりと消えさり。
ゴツゴツデコボコとしていた頭はツルリとした、健康的な坊主頭に。
「柏木くん、ずっと感じていた瞼の重さがなくなったのだけど。
呼吸するのも辛かった鼻が、大きく開けづらかった口が、形すらわからなくなっていた耳が……」
「ずいぶんとスッキリしたね」
劇的に変わっていく彼女の姿。
「ここからは頭と顔のハンドマッサージも加えますねー」
「あら、それは今から全身を愛撫するという宣言」
「頭と顔って言ったよね?
明石さんも頭の中で本来の自分の姿――そこから美しく成長した自分の姿を想像、髪の毛の長さとか陰……他の部分の毛量なんかを詳しく念じながらお湯に浸かっててね?」
「わかったわ」
変化していく自分の姿に戸惑いながらも、歓喜がにじむ彼女の声。
「痒いところがあったら教えて下さいねー」
お湯を掛けながらマッサージ。
「んっ……あっ……なっ、なんなの……」
お湯を掛けながらマッサージ。
「あああっ!! あっ、いっ……」
「いや、どうして頭皮マッサージでそんな声を――」
……そういえば(性的な)マッサージスキル持ってたわ。
みるみるうちに伸びていく明石さんの髪の毛。
「髪が……今までは抜けるだけだった私の髪が……」
「ははっ、体にへばりついてわかめに絡まったラッコみたいだね?」
湯船に広がる長くてしなやかな、絹のような彼女の黒髪は。
「もうっ! そこはちゃんと褒めるところでしょう!
……それに、そんなに穴があくほど見つめられると……えっと、柏木くん?」
それをすくい上げ……頬ずりする。
「ハァハァ……あ、あ、あ、後で俺がタオルドライまで、ぜ、ぜ、ぜ、全部してあげるからね? あっ、今から少しだけ味わっても」
「味わうとはどういうことなのかしら!?」
……思わず取り乱してしまうほどの破壊力だった。
* * *
「……いきなりお風呂場から柏木さんの大泣きする声が聞こえてきて何事かと思いました」
「いやぁ、ちょっとこれまでの事を思い出したら感極まっちゃいまして」
『輝夜姫』の名に恥じない、輝くような、それでいて儚げな彼女の顔。
美しいその姿を見て、これまで彼女にあったあれやこれやを想像してしまい……。
いろんなモノが溢れ出して、またまた明石さんに抱きついてわんわんと泣き出してしまった俺。
「なんというか、泣きたいのは明石さんの方なのに……ごめんね?」
「クスッ、かまわないわ。
というよりあなたが私のために、あんなに泣いてくれる情の深い男性なんだと知って惚れ直したわ」
いつものパジャマに着替え、上機嫌で俺の膝に座る明石さん。
「それにしてもナニガシちゃん。
昔、関東でも話に上がったことはあるけど」
「『傾国』と呼ばれていたのを納得するしか無い美貌ですね……」
「確かに、もしも中務さんと出会って無ければ俺も金髪から黒髪に揺らいでいたかもしれませんね」
「……もう、柏木さんはまたそんなことを」
険しい顔から一変、頬を手で挟んでクネクネとしだす中務さん。
「……柏木くん、ちょっと金髪にしてって願ってくるからもう一度さっきの入浴剤を出してもらえるかしら?」
「そんな泉の女神みたいな機能は無いと思うよ?
それに、明石さんには黒髪のほうが似合ってるし」
俺の顔に、グリグリと頭を押し付けてくる明石さん。
「といいますか小娘。
あなたの治療も終わったのだから彼の膝の上に乗るのは止めなさい」
「嫌よ。だって柏木くんは私の治療が終わってもこれまで通りだって約束してくれたもの。
お目覚めのキスから始まり、お昼はずっと彼のお膝の上。
夜は薄衣一枚で添い寝をするということで間違いないわよね?」
「まず俺と明石さんはキスをしたことがないしお昼はダンジョン。
夜はまぁ、今まで通りでいいけど……某かを握るのは禁止だからね?」
「えっ? 握ってはダメなの!?!?!?」
何をそんなに驚くことがあるんだよ……。
「逆に聞くけど、もしも寝てる時に俺が明石さんのおっぱいをつかんだら」
「柏木さん、過剰な表現はよろしくないと思いますよ?」
「……おっぱいをつまんだら」
「どうしてあなたは言い直したのかしらっ!?
柏木くん、舌切り雀のお話でも言っていたでしょう?
大きな胸は大味で重力に逆らえない。
小さな胸は敏感でいつまでも美しいままだと」
「その昔ばなしは幼児にどういう教訓を教えようとしてるんだよ……」
「クッ、口惜しいですが彼女のいうとおりです。
さるかに合戦でもありました。
大きな胸に反応するようなモノは鋏でちょん切ると」
「そんな阿○定みたいな蟹はいやだ」
「そうね。
でも、もしも大きいのがいいならあなたの打ち出の小槌でペチンペチンと」
「何言ってんだこいつ……」
美少女に戻っても、相変わらずちょっと残念な明石さんだった。




