第05話 入学式といえば『殺死愛夢』!……いや、なんだそれ!?
廊下にところどころ設置された矢印に導かれながら到着したのは『1-A』の教室。
「迷宮科っていうから、ドア開けた瞬間にトラップ作動するとか、待ち構えていた中堅上級生に絡まれるくらいは覚悟してたんだけど」
「柏木くん、ドアトラップは少し前の私のトラウマと殺意を刺激するのだけれど?
あと、中堅上級生って何なのよ……」
「なんかごめんね?」
小中学校時代、その手の嫌がらせを受けていたらしい明石さんのことはさておき。
極々普通の教室に極々普通の生徒が集まった――
「いや、生徒の方は全然普通じゃねぇな!?」
まず、最初に目に入ったのはキツネ顔で平安貴族のような真っ白な束帯――烏帽子を被った男。
続いて昭和の劇画レベルで顔の濃い、悪魔に変身しそうな太眉の男。
そして最後は
「ふふっ。お前、背中から薔薇を生やしてそうなイケメンのくせに他の男にキャラで負けてるぞ?」
「えっと、僕はどうして初対面の君に罵倒されてるのかな?」
当然男子だけではなく、女子にも目立つ生徒はいて。
おっとり美人な大和撫子、袴姿のハイカラさん(推定スイカップ)。
地獄○女のような無表情な人形に抱きつきメス顔を晒しているヤベェ女。
もちろん
「……なにか言いたいことでも?」
「ふふっ。明石さんが一番だと思ってね?」
「……そうかしら?」
我らが鉄仮面、明石さんだってその存在感では負けてはいない。
「クッ、学校になんて何の興味もないはずなのに……目立つメンツのビジュアルが強すぎる……っ!
さすがに毎日通おうとは思わないけど、週一くらいなら登校するのも面白いかもと思い始めているのがちょっと悔しい!」
「あなたはいったい何と戦っているのかしら」
そんな、ある意味輝きを放っている面々に思わず目が釘付けに――
「柏木くん、よその女の脂肪を凝視するのはやめなさい」
万乳引力には逆らえなかったよ……。
まるで競走馬の遮眼帯のように、両頬を明石さんの手で挟まれながら待つことしばし。
これだけ個性のある生徒が揃ってるんだから、きっと教師も『ぬー○ー』や『GT○』のような破天荒な人間が来るんだろうとワクワクして待っていた俺の目の前に現れたのは。
「これから1年間、あなたたちの担任を務める『三好梓』です!
まだまだ新人! あなたたちと同年代!
……と言っても過言ではない若手の美人教師ですが、これからよろしくね!」
「言ってることは図々しいのに、見た目が普通すぎて記憶に残らないからチェンジで」
「クラス担任にそういうシステムは無いからね!?
ていうかあなた、新学期早々女生徒とゼロ距離でくっついてるってどういう――えっと、そこの仮面の子は女の子でいいのよね?」
「どう見ても可愛い女の子ですけど何か?」
「うん、まぁあなたたちがそう思ってるならそうなんでしょうけれども!
うう……そもそも何なのよこの見渡しただけでおかしな生徒しかいないクラス……。
いつもなら率先して上位クラスの担当をしたがる『学年主任』が「これもあなたの経験になると思いますから頑張りなさい」とか言いながら押し付けてきたからおかしいとは思ってたけど!」
そのままブツブツと学年主任の愚痴をつぶやき続ける担任。
「……ていうか、今はそんなことしてる時間じゃないんだった!!
えっと、みなさん知っていると思いますが、このあと桜凛学園迷宮科名物『殺死愛夢』が開催されます」
なんだその男○でしか聞いたことのないようなイベントは!?
「Aクラスの代表は仁王院くんと明石さんに任せようと思ってるんだけど問題は無いかしら?」
誰だよ仁王院……ああ、デビ○マンのことか。
てかサラッと明石さんも選ばれてるんだけど、もしかして学年上位どころか学年首席レベルの成績――
「むしろ問題しか無いわね。
強さ、優しさ、もちろんカッコ良さ。
私のパートナーが務まるのは柏木くんだけだもの」
「ほう……隣に座るその生っ白い男が俺よりも強者だと?」
「あっ、柏木はあいつです」
「僕の名前は久堂だけどね!?
どうして君はそんな三秒で分かる嘘をついたのかな!?」
だってあいつ、暑苦しすぎて関わりたくないし。
「……かっ」
かっ?
「かっかっかっかっ!!!
明石と言ったか? その女もお前もなかなか面白れぇ人間だな!」
なんだよそのアシュ○マンみたいな笑い方は!?
あと、面白い人間なのはお前の方だよ!
「……だが、この仁王院鳳凰より強いなどという戯言はとても笑えねぇ」
いまさっき爆笑してたじゃねぇか……。
「しかし、その強がりたい気持ちも漢としてわからんではない。
よかろう、お前にも一度くらいはチャンスをくれてやろう。
三好! すぐに椅子と机を後ろに下げさせろ!」
「まさかの呼び捨て!?
先生、バタ臭い老け顔はちょっとタイプじゃないんだけど……」




