サクラサク 第07話 初めてのダンジョンと恐怖の班分け
てことで本日木曜日は迷宮科の生徒全員でこの学校から一番近い『修練迷宮指定ダンジョン』にお出かけ。
もちろん近いって言っても徒歩では数時間掛かってしまうので学年ごとクラスごとに別れ、振り分けられたバスで移動することになるのだが。
一クラスおおよそ三十人、ツーシートになっているバスに友人同士、新しく知り合った者同士で続々と腰を下ろしてゆく。
そんな中、俺はと言えば知り合いどころか話したことのある人間すら居らず……。
あっ、久堂が明石さんの隣に座りに行った……明石さんが立った……空いていた俺の隣に座った。
えっ? 何事!? もしかして俺が妄想していたようにツンデレに一目惚れされていたと
「……勘違いしないで欲しいのだけれど。
あくまでも消去法でマイナス100よりマイナス50の方がまだ耐えられると思っただけだから」
言うようなことがあろうはずもなく。
それならそれで空いてる女子の隣とか座れや!
「……私、女子って苦手なのよ」
何かもう色々と拗らせてそうな明石さんである。
そんな警戒感バリバリの彼女と異世界生活十年で異世界呆けしている俺の会話が弾むことなど無く。
女子高生、それも超絶美少女と会話するとか無茶ぶりが過ぎるだろ……。
タイミングを計ってはみたが、一言も口を開くこともなく気づけば現地、サクラギダンジョン前広場……の近くにある公衆トイレである。
「……エロエロエロエロ……ぎぼじわどぅい……」
バスってこんな酔うものだったっけか? とりあえずトイレに駆け込むのが間に合ってよかったよ……。
入学早々クラスメイトの面前でリバースした日には間違いなくあだ名がゲ○になっちゃうからな。
トイレで存分にあれやこれやの大騒ぎをしてバスが停まっていた場所に戻る俺。
いつの間にかクラス全員四人~五人で集まりグループが出来上がっていた。
「真紅璃くん! バスの扉が開くなり真っ青な顔をしていきなり飛び降りて物凄いスピードで走っていったけど大丈夫だった!?」
「はい、ちょっと乗り物酔いしたみたいで……ご心配をおかけしました。
それでえっと……すいません担任、これは一体どういう状況ですかね?」
「何その新鮮な呼ばれ方……普通は先生とかじゃないかな?
これはダンジョンに入る時の組を作ってもらっただけなんだけど。
戻ってきたならあなたも友達の班に入ってもらえるかな?」
「ふふっ、俺ってこれでも至高で孤高なので」
「何言ってるのこの子……至高……孤高……
えっと、カッコいい空気出そうとしてるけど、それってボッチってことで合ってるかな?」
「くっ……察しのいい担任は大好きです!」
「えっ? もしかしていきなりの告白!? でも年の差が……
えっと、そうね……どうしましょうか……
あっ! 久堂くん! あなたの班に彼も入れてもらっていいかな!」
「はい!もちろん構いませんよ」
せやかて久堂! 誰だよ久堂!
いや、バスの中でも明石さんに嫌がられてた光景を目にしてるから知ってるんだけどさ。
そんなことよりこの担任、ボッチをさり気なくすでに組まれた班に押し込みやがったんだけど?
中々の遣り手婆っぷりに少し評価を上げて……いや、ちょっと待て!
何だよあいつの班! 男一人女三人のハーレムパーティじゃねぇかよ!
そんなところに途中参加させられるとかどんな罰ゲームなんだよ!
「はぁ……
これだから担任二十四歳独身は……」
「えっと、先生はどうしていきなり罵倒されてるのかな?」
「チッ、そのそこそこ大きくて柔らかそうな胸に聞いてみればいいんじゃないですかね?」
「舌打ちされた上にセクハラ!?
あとその担任って呼び方止めてもらえるかな?」
「えっと、それは名前で呼べとかそういうことですか?
ちょっとそこまで仲良くないので無理です」
「先生って呼んで欲しいだけなんだけどね!?
いきなり告白してきたと思ったらどうして距離感を出してきたのかな!?」
告白なんてした覚えねぇよ……。
まぁ他に入る隙のありそうなグループもないし、仕方なしではあるけど久堂の班に参加させてもらうことに。
「えっと、初めまして、真紅璃といいます。
担任の空気を読む力が足りないばかりに久堂くん? の手を煩わせる事になったみたいで申し訳ない」
「ぶふっ、担任って何なのさ。
真紅璃夕霧くんだよね? 僕は久堂透、よろしくね?」
爽やかな笑顔をこちらに向けて八重歯を輝かせながら右手を差し出してくる久堂。
何なのこいつ? 歯に発光ダイオードでも仕込んでるの?
「うわぁ……笑顔の胡散臭いヤツ……
じゃなくて、迷惑かけるかもしれないけど今日はよろしく!」
「君、初対面の相手に随分と辛辣だね?
でもそういうの、新鮮で嫌いじゃないよ?」
背筋がゾワゾワしそうなのでそういう発言は控えてもらえますかね?
向こうから手を差し出されたので、嫌そうな顔になりそうになるのをグッと我慢して久堂と握手。
何が琴線に触ったのか、同じグループの三人の女子の一人が思わずといった感じで吹き出す。
「クッ……フフッ、貴方、ただの変態じゃなくて面白い変態だったのね? 少しだけ見直したわ。
ええと、私のストーカーなのだから当然名前は知っているわよね?」
「初対面からちょっとしたボタンの掛け違いがあったけど、俺は変態でもストーカーでも無いんだ……
明石静さんだよね? 痴話喧嘩中の久堂くんの彼女さんって認識で合ってるかな?」
「久堂くんとは中学の頃からの知り合いと言うだけよ。
そもそも私が彼と付き合うなんてポールシフトが起ころうともあり得ないわ。
そもそも彼、女性に興味のない人だし」
「久堂くん、短い間ですけどお世話になりました。俺は一人で旅立とうと思います」
「明石さん!? 本人の目の前で風評被害を広げるの止めて貰っていいかな!?」
果たしてそれは……本当に風評被害なのだろうか?
無意識に握手した手をズボンで拭いてしまう俺と、それを見てまたまた楽しそうな顔をする久堂。
何なのこいつ? 嫌がられると快楽を感じるの? 迷惑なタイプのマゾヒストだな……。
続いて話しかけてきたのは明石さんと比べれば少し地味目ではあるものの十二分に美少女……と言えなくもないショートカットの女の子。
「隣の席だから私の事も知ってると思うけど」
「いえ、知らないです」
「そこは知っておきなさいよ!?」
だってクラスが変わるまで会話する予定すら無かったんだもん……。
ちなみに彼女の名前は『秋吉英里子』と言うらしい。
「ん、ティアラ」
最後の一人は金髪ロングで派手な化粧……いや、よくみたらすっぴんだなこの子!? えっ? そのクリクリお目々とか桃色リップとかどうなってんの!?
「いや、見た目狼ヤンキーなのに聞こえるかどうかギリギリ試してくるモスキート音みたいな声どうにかしようよ? 担任とか年齢的にギリギリ聞こえてないと思うよ?」
「先生桜凛学園では一番の若手だからちゃんと聞こえてるわよ!?
いえ、そもそもモスキート音じゃないからね!?」
「ヤンキー……違う」
あとエリスとかヒエスとか混乱しそうになる名前の女子を同じグループで混ぜるの止めて?