第02話 初めてのおつかい。 その1
取り上げられたはずなのに、なぜかそのまま使える『異空間収納』と『鑑定』スキル。
しかも『自国』のはずの日本で『異世界人』扱い。
たしかに、入院してたときから「何かがおかしい」と感じることは多々あったけど。
だってさ、うちの両親……二人とも事故で亡くなってるんだよ?
なのにその車の助手席でトラックのバンパーの詳細を確認してた俺が、たったの十日やそこらで退院っておかしすぎるじゃん?
挙句の果てには、俺の怪我の治療方法!
最初は聞き間違い、それとも冗談かと思ってたけど――
「あなたのお爺さんに猛反対されたけど、斎藤先生の裁量で、ダンジョン産の二型ポーションを二本も使ったんですよ?」
などと、看護師さんが意味不明な供述を繰り返していたのだ。
無いわー、俺が暮らしてた日本にはダンジョンもポーションも無いわー……。
もうこれ、絶対にあいつが返送先を間違えてるよね?
もしかしたらあのトラックとの正面衝突で、二度目の異世界転移をさせられたってこともワンチャン?
何のチャンスなのかはまったくわからないけど。
いや、それならそれで事故に遭わなかった世界線とかに飛ばせと。
おとんもおかんも生きてる世界に送り込んでくれと。
……まぁそんな、タラレバカニニラの話をしたってどうにもならないんだけどさ。
「それにしてもダンジョンねぇ」
なんとなく死にかけた人間が視た妄想じゃないかと思わなくない異世界。
ここにあった、俺の知ってるダンジョンといえば、自然洞や遺跡の類い。
魔物が勝手に住みついただけの、ただの危険地帯だったんだよ。
それなのに、この世界のダンジョン。
看護師さんの話ぶりからすると、コンスタントにアイテム――最低でもポーションが持ち出されるような場所らしいじゃん?
「自称異世界帰りの俺が言えたこっちゃないけど、何だそのゲームみたいなダンジョンは」
……とはいえ。
そんなモノが本当にあるなら、一攫千金とまではいかずとも、食い扶持くらいにはなるかもしれない。
活動期間はド短期だったけど、俺だって異世界じゃ勇者やってたわけだし?
そこらの中高生より修羅場はくぐってきた人間なのだ。
スライムとか、無手のコボルト、ギリギリゴブリンくらいまでならどうにかできる……よね?
「……いやまぁ、そんな取らぬ狸の『明日の小銭』より、今大切なのは『今日の晩飯』なんだけどさ」
チッ、もしも俺がヨネ○ケならしゃもじを持ってお呼ばれに行くのに!!
なんてったって今の俺はノージョブ、さらにノーマネー。
どうにかしてカロリーを取らなきゃ、二日もすれば動くことすらできなくなってしまうのだ。
「異世界では自分の店まで持てたってのにっ!」
開店間際で夢幻と消えるわ、大怪我はするわ、挙句に多額の借金まで背負うわの大惨事。
「いや、借金に関しては「義母さんが勝手にやったことだからユウくんは何も気にしないでね?」とか言われたんだけどさ」
……命の恩人に言うことじゃないけど、もしかして斎藤先生ってちょっとヤバ……思い込みの激しいタイプの人なのかな?
ステータスのこと。
スキルのこと。
祝福のこと。
さらにはダンジョンのこと。
気になる点は山ほどあるが、今すぐ調べる手段もなく。
「いったい何から手を付けるか……」
やらなければいけないことは部屋の片付け。
このままだと今晩寝るところも無いからな。
必要なものは現金。
昼飯は我慢できるとしても晩飯抜きはさすがにきつい……。
「うん、まずは金策だな」
とは言え。あいつが俺に気を使って生活費を置いていってるなどとは思えず。
スキルがあるんだからそれを使った商売?
確かに、『鑑定』があるんだからフリマや骨董市で値打ちのありそうなものを探すなんてのは基本だろうけど……そもそも見つけたものを買えるお金が無いという話で。
「インベントリなんて密輸とか窃盗とかヤベェ使い道しか思いつかないしなぁ」
なんかもう、いろいろと詰んでる状況ではあるが、最悪リサイクルショップに古着でも持ち込めば一食分、二食分にはなるだろうと荷物の整理を始めることに。
まぁ、そこでいきなり役に立つことになったのがインベントリなんだけど。
……さっきは犯罪にしか使えないとか罵倒してごめんね?
ゴミ袋に手に添えて――「収納」。
ゴミ袋に手に添えて――「収納」。
あれだけあった荷物も、所要時間五分たらずで綺麗さっぱり。
「ていうかこれ、インベントリの中でゴミ袋からの取り出しや整頓、分類までできるようになってるんだけど?」
何その神アップデート!
イスカリアではそんなこと出来なかったんだけど?
さっそく一袋ずつ中身を確認。
そのたびに収納リストに並んでゆく下着や衣類、バスタオルに布団。
「俺の部屋にあったモノにからすればやたら多いと思ったら……おとんとおかんの荷物まで入ってるじゃねぇか!!」
それもご丁寧に仕分けまでしてくれたようで、多少は値の付きそうなおかんの着物やブランド物などはいっさい入っていない。
「チッ、買ったばっかりの俺のパソコン……」
当然のように五百円玉貯金の缶や預金通帳などは無く。
タブレット端末やゲーム機とソフトなど、売れそうなモノはすべて盗まれているようだ。
「爺……マジあのクソ爺……」
こめかみの血管がピキピキするのが自分で分かるほどの苛立ち。
思わず床ドンしそうになる怒りをグッと抑え――
「……いや待て。通帳は無くても、キャッシュカードは財布に入ってたよな?」
異世界から唯一持ち帰れた、数年単位で中身を確認すらしてなかった財布を取り出す。
「よし! 『四井銀行』のカード発見!!」
さすがに『まだ生きてる人間』の預金を勝手に解約までは出来ていないはず。
玄関で靴をつっかけ、急いでATM――コンビニへ向かおうと表に飛び出すも、
「……土地勘がないからどこに何の店があるかまったくわからねぇ!」
二度目の『ここ、どこだよ!?』を発動してしまう俺だった。




