第01話 あいつ……絶対に神様じゃなくて悪魔だろ!! その2
そんな俺の混乱状態を見て鼻で笑っているのはもちろんクソ爺。
ていうかさ。この爺さん、勝手に俺の身内ヅラしてるけど。
「……そもそもあんた、親父に縁切りされてたよな?」
そう、この爺。……というか、父方の親戚全員。
あまり素行のよろしくない人間の集団——平たく言えば半グレみたいな連中ばっかりで。
俺の記憶がたしかならば、親父が生きている間は一切の付き合いがなかったハズなんだけど。
「はっ、親が親なら子も子だな。
忙しい中、わざわざお前みたいな死にぞこないを迎えに行ってやったんだぞ!?
まずは額を地面に擦り付けて『ありがとうございました』と礼を言うのが筋ってもんだろうが!!」
誰もそんなことは頼んでねぇんだよ!
そもそもお前が来たせいで病院を強制退院させられることになったんだろうが!!
一気に血圧が上がり、そのまま意識がブラックアウトしそうになる俺。
その場で深呼吸を二回、三回。少しだけ冷静になる。
「……それで、ここは一体どこなんだ?
あんたの返答によっちゃ未成年者略取で訴えるぞクソ爺」
「まったく、あいかわらず口の減らねぇガキだな!
わざわざ住む家まで用意してやったのにその態度はなんだ!?」
……ダメだ、こいつとは会話が成立する気がしない。
「聞きたいのはそういうことじゃねぇんだよ!
そもそもテメェの世話になんてならなくとも、俺には親父が建ててくれた家があるんだよ!!」
「はっ、そんなもんお前が呑気に死にかけてる間に処分したに決まってるだろうが!
あの医者、勝手に余計なことしやがって、こちとら余計な病院代まで払わされたんだぞ!?」
「……なん……だと?」
あまりに意味不明な答えが帰ってきたせいで、口をポカンと開けるしかない俺。
爺に車から引きずり降ろされたそのままに、小さな鍵と入院中の荷物を放り投げられ、そのまま立ち尽くすこと五分。
意識せずクソジジイの車を見送る形になってしまい、なんとなく悔しい気持ちを持て余し中。
……というところで冒頭に戻るわけだが。
えっと……これ、いったいどうすればいいんだよ?
俺、無一文なんだけど?
病院で朝飯は食ったけど、すでに腹も減ってきてるんだけど?
「……てか、普通に寒いな」
それでなくとも病み上がり、さらにそこそこの薄着だからな。
さすがに一月真冬にこんなところで、いつまでも突っ立ってたら変な目で見られる……というかすでに、近所の性格の悪そうなオバサンにガン見されてるし。
まぁ、到着早々に爺と大声でやり合ってたら、そりゃ悪目立ちもするわな。
とりあえず一旦部屋に……いや、そもそも何階の何号室なのかわからねぇ……あっ、鍵にプラッチックのタグがついてたわ。
「それにしてもあの爺。
この令和の時代に、よくこんなボロアパート探し出せたな」
『戦前から建ってました!』って言われても納得してしまいそうなレトロ感を醸し出す木造アパート。
一度も塗り直されてない、サッビサビの外階段をきしませながら上り、『202号室』という数字が貼られていた形跡のある扉に鍵を差し込む。
「うっ……ドアを開けただけなのにすでにクセェ……」
古畳の臭い、そしてこもった湿気の臭い。
鼻をつくアンモニア臭はたぶん眼の前にある小さな扉の中からだろう。
入口の右隣には二畳ほどの、油汚れでどす黒く変色した小さな台所。
最初はガラス戸か障子が嵌めてあったと思われる敷居に今は跡形もなく、奥の四畳半が丸見えで。
「って、なんだよあのゴミ袋の山は……」
そんな奥の部屋には黒いゴミ袋が山積みとなっていた。
臭いはしないから生ゴミではないっぽいけど……。
「いや、俺の引っ越し荷物じゃねぇか!!」
一番手前に転がっていた袋を開いてみれば、しわくちゃになったシャツやズボンが溢れ出してくる。
余計な金を掛ける気がなかったんだろう、引っ越し屋すら使わず爺どもがそのまま放り込んだみたいだ。
下着、靴下、普段着、その他。
当然のように仕分けするつもりは一切なし。
「最低限本とかノートは段ボールに入れとけや……」
ぐちゃぐちゃになった中学時代の教科書を見てため息一つ。
別に、教科書にこれといった思い入れなんてないけどさ。それでも……なぁ?
せめて狭い部屋の中に、陰気に漂う空気だけでも入れ替えしようと窓を開けたら——強烈な漬物臭が漂ってきたので慌てて閉じる。
「異世界から帰還したら現代日本の方がよっぽどハードモードとかいったいどうなってるんだよ!!
クソッ、せめて『インベントリ』が――」
と、口に出したそのとたん。
俺の目の前に、見慣れた四角い小窓がふわりと浮かんだ。
「えっ? ……ええええっ!?
スキル、こっちに帰ってくる時全部なくなったはずだよな?
それなのに、どうしてインベントリが開くんだ?」
まさかの結果に、またしてもアホ面をさらす俺。
「……まぁ中身はあいつが言った通り空っぽになって……いっこだけ小物が入ってるな」
何かと思えば古い財布だった。
もっとも、残金十数円じゃチ○ルチョコすら買えないんだけどさ。
「てかもしかして『鑑定』も使えたりとか……おお、マジで出たじゃん!」
もちろん鑑定したのは自分自身。
浮かび上がったウインドウに表示されていたのは、
「なんていうか、向こうよりかなり簡素化されてるな」
イスカリアでは『STR』や『DEX』など、細かい数値で見れたはずなんだけど……。
こちらでは『総合戦闘力』とひとまとめになっているようだ。
「いや、そんなことより!
俺のステータス、いろいろとおかしいんだけど?」
ちなみに俺が今見ているステータスがこちら。
【柏木夕霧】
年齢:15歳 性別:♂
所属:異世界日本人(転移者)
レベル:00/50 クラス:無し
総合戦闘力:58 装備補正:皆無
祝福:異世界商人
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まずは名前。これはそのままだから問題ない。
年齢も、本来なら25歳のはずなんだけど……こっちも強制送還されたとき『元に戻る』って言われたから問題はないことにしておく。
でもその次の所属っ!
何だよ異世界日本人って!
あと祝福! 『商人』だったのが『異世界商人』に変わってるんだけど?
さらに『読み方』が『メルクリウス』ってもうね。
困惑……圧倒的困惑……。
えっ? もしかして俺、ここでは地球人扱いすらされてないってことなの!?
祝福は能力じゃなくて神様だったの!?
ちょっと、誰か詳しく説明して!!




