第17話 『蠱毒』
被っていた仮面を外しその素顔を見せてくれた明石さん。
そんな彼女の突き放すような、それでいて気遣うようないじらしさに思わず抱きしててしまった俺。
「……えっと、そろそろ明石さんの『現状を調べたり(かんてい)』とかしたいから離れてもらってもいいかな?」
「嫌よ」
嫌なんだ!?
「さっきは『出会わなければよかった』とか言ってたくせに」
「そ、それはだって……あなたが私の顔を知れば離れていくと思ったから……」
あー……そのへんはたぶん、異世界帰りだから色々とズレてるからかな。
向こうでは異人とか亜人って呼ばれてる種族もいっぱいいたし、外見だけで言うなら昆虫系の……余計なことを思い出すのは止めておこう。
「でもほら、いつまでもそのままってのは辛いでしょ?
こんなこと言っても信じられないと思うし、今すぐの完治は無理だけど。
たぶんその症状の緩和くらいはどうにか出来ると思うんだよね」
「信じない……わけではないけど、そんなことは無理よ。
それこそダンジョンの奥深く、桜花爛漫が到達した最下層よりさらに先の先までもぐれるくらいにならないと、新しい治療薬なんてみつからないもの」
たしかに、今ダンジョンから持ち帰られてるらしいポーション――確か『三型』とか呼ばれてるHPポーションが最上級なんだっけ?
それを使っても状態異常の回復は出来ないんだから、もっともっと先に進まないとどうしようもないっていう明石産の考え方は正しいんだけど……。
俺、異世界帰りの勇者だからね?
「そうだな、じゃあこうしよう。
もしも俺がそれを少しでも前向きに処置出来なかった時は、一晩中明石さんの隣で抱き寄せる」
「むしろ二度とあなたをこの部屋から出すつもりはないのだけれど?」
「ヤンデレとかメンヘラ通り越して最速でサイコパスんの止めて?」
ぐずる彼女をなだめすかし、どうにかこうにか最初と同じ距離まで戻る。
「ええと、これから明石さんの全部を見せてもらうことになるんだけど……このことを誰かに話すのとかは禁止だからね?」
「最初から何かを話す相手などいないのだけれど?
……いいわ、あなたが望むなら私の全てを見せてあげる。
あっ、でも……この身体だからしばらくお風呂に入ってなくって……。
も、もちろん毎日、全身綺麗に拭いてはいるのよ!?」
「うん、俺の言い方がちょっとわるかったかな。
見たいっていうのは服を脱いで欲しいって意味じゃなくて」
「……そうよね、顔も頭もこんな状態だし、身体だってグジュグジュになってると思われてるわよね。
大丈夫よ? 胸から下は普通の女の子だから。
でも……それでも顔は気になるわよね……ああ、ならこうしましょう!
台所に黒いゴミ袋があるから、それを頭から被せて後ろから――」
「そんな、『壁尻』の発展型である『巾着縛り』みたいな特殊プレイはしないけどね!?」
いや、『歴史(エ◯マンガ)的』には壁穴より巾着のほうがたぶん先発……凄まじくどうでもいいな。
彼女の中で俺はいったいどこまでの性的挑戦者だと思われているのか問い詰めたくはあるが、さすがにらちがあかないので妄想の世界に入っている明石さんは放置して鑑定を掛ける。
【明石静】
年齢:15歳 性別:♀
所属:日本人
レベル:00/50 クラス:無し
総合戦闘力:66 装備補正:皆無
祝福:輝夜姫
→ スキル一覧を見るには【ここ】をタップ
備考:状態異常あり。【ここ】をタップ
明石さんの戦闘力、俺の初期値より一割以上高いんだけど?
ていうか、中務さんに続いて明石さんまで祝福持ちなんだけど?
もしかしてこの世界って全員が祝福されてる感じなの?
俺の異世界帰りのアドバンテージ薄すぎじゃない?
あと、て、てるや姫? ってどう読めばいいの?
……などという大量のクエスチョンは置いておいて。
彼女が悩まされている症状の原因であろう備考欄。
『状態異常あり』の【ここ】をタップ。
画面が切り替わり表示されたそこに書かれていたのは――
「……精密検査? の結果なんだけど。
明石さんが患ってるそれは『病気』じゃなくて『呪い』だったみたい」
「えっ……これまでどんな病院でどんな検査をしても『病状は不明』としか言われなかったこれが何だかわかったの!?
あなた、これといって何もしてないわよね!?」
驚いて目を見開くアカシさん。
「そのへんは勇者の企業秘密ってことで。
で、呪いの詳細なんだけど……明石さんも『蠱毒』って存在くらいは聞いたことがあるんじゃないかな?」
「そうね、古くからある呪いの一つで、毒のある生き物をたくさん集めて壺の中で争わせる――くらいのことは知っているわ」
そう、彼女に掛けられていたのは蠱毒の呪い。
どうやらそれの『蝦蟇』が生き残ったモノらしく。
呪いと毒が複合で体を蝕む、かなり面倒な代物のようだ。
んー、呪いと毒……とりあえず聖水をぶっかけ……いや、かけるより飲むほうが良いか。
そのあと状態異常回復薬で毒を抑えて、最後にHPポーションでジクジクしている傷口……皮膚の治療で行けないかな?
幸いにも今は商品購入枠50も増えたところなのだ。
もし効かなければその時はまた他の方法を考えるだけ――ってことで、
「ちょっと部屋に薬を取りに行ってくるから待っててね?」
と、『どこにも行かないでっ!』と言いながら足にすがりつく小芝居をする彼女を振り切り、異世界商店を呼び出すために一旦部屋に戻る。
……マジでこの呼び出しシステム、どうにかしてくんねぇかな……。
3種類のポーションを手に持ち、再度彼女の部屋を訪れる。
「何なのよもう……というか机の上に並べられたそれって、もしかしなくともポーションよね?」
「おっ! よくわかったね?
……なんかこう、いきなり部屋に押し入ってきた男が出した薬とか完全にヤベェ物にしか見えないと思うけど、騙されたと思ってこの透明の」
そこまで説明したところで、躊躇なくそれ――聖水の瓶の蓋あけて口をつける明石さん。
「いやまだ説明の途中っ!?
進めた俺が言うのもお門違いだけど、それが危ない薬だったらどうするつもりなのさ!」




