第13話 久しぶりの休日――「それに……今はこんな近くに、こんなに素敵な中務さんがいてくれますから」 その1
ウメダから場所は変わって、こちらいつものセンニチダンジョン。
いつものように暇そうに、ぽやっとしている中務さんに休憩時間を聞こうと早足で近寄る――って、彼女の後ろにサキュバス並の色香を全身にまとわせてるお姉さんが立ってるんだけど?
歳は中務さんよりちょっとだけ上だろうか?
もしかして施設の偉い人なのかな?
もちろん、俺とは無関係なので話しかけたりはしないんだけどさ。
「こんにちは中務さん。
次の休み時間って何時頃ですかね?
よかったらその時一緒にワッフりませんか?」
「いらっしゃいませ、柏木さん。
あなたのためなら今すぐ休憩でも退勤でもいたしますが……『一緒にワッフる』とはいったいなんの隠語なのでしょうか?
お言葉のニュアンスから想像すると、間違いなく『いかがわしい行為』であるとはおもうのですが……合ってますよね?」
「まったく合ってませんけどね?
ほら。中務さんにも、この両手いっぱいにぶら下げてるノマケン袋が見えてますよね?」
両手に下げた袋を少し持ち上げ、アピールするかのように揺する。
「柏木さん。女にはそれが分かっていても、一縷の望みにすがりたい時だってあるんですよ? ではこれから一緒に相談室でお茶を──」
そう言いながら窓口から出ようとしたところで、色気ムンムンお姉さんが口を挟んできた。
「中務。いくら手が空いているとはいえ、上司の目の前で勝手に持ち場を離れるのはどうかと思いますよ?
それに、まずはそちらの『専属探索者』さんに私を紹介するくらいの気を回しなさい」
「……チッ。
柏木さん。覚える必要はございませんが、あのおば……お局様にしか見えない」
「中務、あなた今、小さく舌打ちしませんでしたか?
だいたい人を紹介するのに覚えなくて良いとはどういうことですか……。
そもそも私はおばさんやお局と呼ばれるような年齢ではありませんからね?
……柏木さん。こちら、センニチダンジョンの管理を任されています六条綾香です」
……お姉さん、偉いさんどころかここのトップだったらしい。
失礼のないよう、深めに会釈しながら挨拶を返す俺。
「これは丁寧にどうも。
自分は柏木夕霧、探索者として登録したばかりの初心者ですが、よろしくお願いいたします」
「ふふっ、初心者だなんてそんな。
今ではトップ探索者である鷹司葛さん以来の、久々に確認された期待の魔力適性持ちだと伺っておりますよ?」
ニッコリと、嫌味のない笑顔で微笑む六条さん。
ていうか、そもそも魔力適性ってのが何なのか、イマイチよく分からないんだよなぁ。
「そちらの中務にはあなたの専属として、十二分に配慮するよう伝えてありますので。何事にも遠慮なくこき使ってやってくださいね?」
「いえいえ、中務さんにはすでに返しきれないほど世話になってますので!
ああ、もしお時間があれば六条さんもご一緒にお茶でもどうでしょう?
見て頂いた通り、おやつをいっぱい買ってきたので!」
「ちょっ、柏木さん!?
どうして支部長なんて誘うんですか!
あれですよ? 若作りしてますけど、その人すでに三十路越えてますからね!?」
いや、ただの社交辞令に過剰反応がすぎるだろ。
「柏木さんから見れば、あなたも私も大して歳は変わらないでしょうが!
お誘いありがとうございます。
ご一緒したいのですが、この後も仕事が立て込んでおりまして……。
近いうちに時間を取りますので、その時はぜひ食事でも」
そう言われたので、せめてこれだけでもとワッフルの箱をひとつ渡す。
ペコリと頭を下げ合ってから、中務さんと一緒に二階へ。
「……柏木さんって、年上通り越して熟女好きなんですか?」
「いや、三十代は熟女では無いと思いますが……」
自販機でペットボトルのお茶を購入。
いつの部屋で中務さんと二人、のんびりティータイムナウ。
「といいますか、今日の柏木さんはお休みだったはずですよね?
それなのに、どうしてわざわざこちらへ見えられたのですか?」
「そうですね。休みで出かけたまではよかったんですけど……そこで色々とありまして。
お土産を理由に、あなたの顔を見て沈んだ気持ちを明るくしたかったからですかね?」
「何それ愛おしい……。
あっ! 今! 私の心の柔らかいところをぎゅって!
あなたにぎゅって掴まれてしまいました!
……今すぐここで抱いて?」
いや、支部長さんからこうしているのが『サボりではない』ところまではお墨付きを貰えたけど、さすがにオフィス・ラブ飛び越えてオフィス・セッ○スとか言い訳出来ないからね?




