第13話 久しぶりの休日――これもお礼参りになるのかな?
時間は少し流れて一月の終わり。
なんとかかんとかディールの雑貨屋に売っていた袋と背負子を揃え終わり。
これで毎月『50個』までmアイテムの購入が可能になったよ!
追加で30本のポーションを買って中務さんに渡し、その分の入金があったのが昨日の夜のこと。
いや、入金っていうかさ。
先に渡した17本で850万円、後の分が30本で1500万円。
中務さんが無造作に手に提げていた、『黒いビニール製のカバン』から札束が無造作に出てくるその光景にドン引きだったんだけど?
「もうこれ完全に薬の裏取り引きですよね!?」
「そうですね、取り扱ってる商品がポーションですので。
その認識で間違いは無いかと思いますよ?」
何をいまさら……というような顔で小首を傾げる彼女。
いや、そこはちゃんと『後ろ暗いお金ではないですから』って否定して?
てことで、そんなこんなで今回のポーションの売り上げ。
2350万円からポーションの購入費用と手数料で470万円。
残りの1880万円を中務さんと折半で940万円。
最初の三本分も足せば、今月だけで1500万円近い儲けという……。
ほんの数週間前、こちらに投げ出された時は無一文だった人間からしたらまったく実感のない金額になった。
「さすがにこれだけあったら、いくらなんでも足りるだろう」
まぁ最初のお金の使い道はすでに決まってるんだけどな!
* * *
そんな、郊外の家なら現金で買えそうな現金を紙袋に詰め込んで俺が向かった先は――『オウジ病院』。
言うまでもないが、異世界から送り返された俺が最初に目を覚ました場所だな。
……ほら、そのときの入院費用。
斎藤先生に建て替えてもらったままだからさ。
朝イチの、暇な爺さん婆さんがたくさんいる総合病院の受付け。
担当の職員さんに名前を名乗り――退院の時、あれだけクソ爺が大騒ぎしてたからか『ああ……あの時の……』って感じで、ものすごく微妙な表情で出迎えられ。
「それで、本日はどのようなご要件でしょう?」
「はい、ええっと、それがですね」
……さて、どうしよう?
さすがに他の人もたくさんいる病院の受付で、『担当医の先生に建て替えてもらったお金を返しに来ました!』なんて元気に言うほど非常識じゃない(つもりの)俺。
「とりあえず詳しいお話はどこか個室……談話室のような場所がありましたら、そちらでさせていただきたいのですが?
あと、こちらでお世話になっていた斎藤先生がいらっしゃったら面会させていただきたいのですが」
……なんでだろう?
受付の隣、会計担当らしきお姉さんにむっちゃ睨まれてる気がするんだけど。
「斎藤に連絡を入れますのであちらでおかけになってお待ち下さい」
と、ソファを進められ待つこと20分。
受付のお姉さんと、なぜか付いてきた会計のお姉さんに先導されて通されたのは『面談室』。
部屋の中、先に椅子に腰をおろしていたのは目の下にクッキリと隈を作った、ボサボサ頭の斎藤先生。
たぶん夜勤明けだとは思うけど……この人、素材はいいのに身だしなみ気にしなさすぎだろ。
「ええと、こちらを退院してからバタバタとしておりまして。
本当なら電話の一本も入れておくべきだったのですが、不義理にも今まで放置するような形になってしまい――」
「大丈夫! 大丈夫だから! ママ、全部わかってるから!」
「……はい?」
「よかった……よかったよぉ……。
ユウくん、やっとママといっしょに暮らす決心が付いたのね!?」
えっと、もしかしてこの先生は治療用のモル○ネでもヤッてるのかな……?
その場で机に突っ伏し、ワンワンと泣き出す斎藤先生。
どういう意味なのか「やっぱりそのつもりで……」と、小さく呟く会計のお姉さん、肩を震わせ笑いを耐える――堪えきなかったようで、そのまま呼吸困難をおこしそうな勢いで笑い出す受付のお姉さん。
「何このカオス……」
「……はい、みなさんが落ち着くまで15分かかりました」
「ユウくんの部屋はもう用意してるんだけど、ベッドとおふとんは新しい方がいいよね?」
「と思ったらまだ落ち着いてない人がいました」
うん、この人のことは放っておいてこっちで話を進めよう。
てなわけで、退院してからこれまでのこと。
住む家が無くなり、風呂無しアパートに放り込まれたことから探索者として活動するようになったこと。
「寂しかったよね、寒かったよね、ひもじかったよね」
「いえ、毎日ちゃんと食事は取れてましたので……」
毎日朝から晩までダンジョンにもぐっていたため、そうせなら支払えるお金がたまるまでと、連絡が遅れてしまったこと。
「ダンジョン……そんな危険なことをするの、ママは許しませんからね!?」
「いえ、国からの許可証があるますので斎藤先生の同意はいらないです……」
少しは成功して入院費用をお返ししにきたことまで一気に伝えると、何故か謝罪を始めた――
「……そうなんですか。
ごめんなさい、私……あなたはあのお爺さんと同じで、都合よく先生のことを利用してそのままドロンしたものだと」
「忍者か! いや、そのあたりはあれだけお世話になっておきながら、まったく連絡を入れもしなかった俺の落ち度ですので」
会計のお姉さん。
「今日だって行き場に困ったあなたがまた先生を利用しようと、もしかしたら看護師、それとも私の事をその毒牙に掛け……家に転がり込もうとしているのかと」
「そんなことしませんけどね!?」
中務さんにも最初はそんな反応されたけれども!
ていうかそれ、謝る気無いよね?
「……もしかして俺って、初対面の人から見ると結婚詐欺師とかヒモ男に見えるんですかね?」
「そうですね。そこまでカッコいいとか男前とかではないんですけど」
「その前置きは必要なのかな?」
どうやら『放っておけない男の子』みたいな空気を醸し出してるらしい。
……いや、そんなもの出した覚えもねぇよ!
ていうか、そんなモノがあれば異世界で結婚出来てたわ!!
その後、出してもらったお金を返す返さないでまた斎藤先生が、
「いやあああああぁぁぁぁ!!
このお金はママとゆうくんをつなぐへその緒みたいなものだからぁぁぁぁぁ!!」
「違いますけどね?」
と、泣き出し。
なだめるのに昼までかかってしまったが、どうにかこうにか受け取ってもらえたので良しとしておこう。
……まぁ帰りに『斎藤先生』の個人的な連絡先を受け取ってしまったわけだが。




