第12話 真・第一層――驚愕のイエロー(スライム)!
俺がダンジョンに潜るようになってそろそろ一週間。
「もっとも、一月もまだ十日ほど残ってるっていうのに、もう今月分の異世界アイテム購入枠を使い果たしちゃってるんだよな」
中務さんの話だと、下級状態異常回復薬はまだまだ必要らしいし?
早めに枠の追加をどうにかしたいところなんだけど……。
――てことで。
『やってきた(タップした)』のはディーレの片隅のとある雑貨屋さん。
「……あいかわらず、店に入っただけじゃ商品は並ばないんだな」
『仕様ですので』
いや、そこはほら。
付き合いも長いんだし、もうちょい忖度してくれてもいいんじゃないかな?
『仕 様 ですので』
……このまま愚痴ってもメルちゃんが頑なになるだけなので、仕方なく雑貨屋の店員さんに声をかける。
「じゃまするでー」
『じゃますんねやったら帰ってー』
「異世界でそんな返しするやつ絶対おらんやろ!?」
『今のは店員ではなくおちゃめなメルちゃんですが何か?』
それでなくとも文字だけでややこしいのに、そういうボケはいらねぇんだよっ!
そもそもマップ内の登場人物、実は全部メルクリウスの一人芝居説まであるのに!
……それに付き合わせれてる俺って一体……。
「ええと、荷運び用の道具が欲しいんだけど。
どんなのがあるか見せてもらえるかな?」
『あら、いらっしゃいませ。
そうね。運ぶ物にもよるけど……あなたが使えそうなのは、このあたりかしら?』
【手提げ袋】
魔石容量:1000 購入可能:2
毎月の商品購入量『+5』
【背負子】
魔石容量:5000 購入可能:1
毎月の商品購入量『+20』
……結構いいお値段するな!?
てか、『魔石1000個分(10万円)』の袋って、どこの高級ブランドだよ……。
「これ、俺が全部買ったらはまた補充されるんですかね?」
『あなた……常識で考えなさいな?
お店なんだから在庫くらい奥にあるに決まってるじゃない。
あくまでも『あなたが持てる数』がそれだけ。
両手で袋二つ、背中に背負子一つってことよ』
素朴な疑問を口にしただけなのに、ロジハラで返してくるのやめろや。
ていうか、なんで俺は『非常識の塊(異世界商店のNPC)』に常識を説かれてるんだろう……。
『もし、それでも足りないほどの荷物があるなら、車屋で大八車でも買いなさいな。
ただし馬がいなければ、それだって一台しか曵けないけれど』
「なるほど、荷車を買うっていう手もあるか」
ここで「荷車を両手で曳こうとしたら手提げ袋が持てないだろ!」などとツッコんではいけない。
何故なら『持ち手に引っ掛けるなりなんなりしさいよ』って返されるだけだから。
もちろん、今は車を買えるような『魔石』は無いので、ここで買い物をするんだけどさ。
ちなみに俺の財布の中身。
これまで稼いだ魔石がだいたい3600個。
そこからポーション代の2000を引いて、残りは1600。
手提げ袋を一つだけ買って、「また来ますね!」と挨拶してから店を出る。
「しばらくは金策というか、魔石集めを頑張るしかないな」
幸い、討伐対象が青スラから緑スラに変わったおかげで、一日で千個以上の稼ぎがあるのだ。
このまま一週間それを続ければ、残りの袋と背負子も買える――
「って、メルちゃんメルちゃん!」
『なんですか?
私はあなたの都合のいい時だけ呼び出されるような安い女じゃないんですけど?』
「さっき話した時は何も言わなかったのにどうしていきなり拗ねてるんだよ……。
今ってさ、ダンジョンで拾った魔石でやりくりしてるじゃん?
これって買った魔石をインベントリに入れても、異世界商店の資産としてカウントされるのかな?」
『私、そういうズルっ子は罰せられるべきだと思うんですよ。
たとえば髪の毛全部むしられるとか、頭の生皮を剥がされるとか』
「ピンポイントで毛根ににダメージ入れようとするのやめろ!」
さすがにそこまで楽はさせてくれないらしい。
* * *
ブルー・スライムに続いてグリーン・スライム。
【裏・第一層】に狩り場を移して、早くも五日が経った。
「そろそろイベント……何らかの変化が欲しい……」
そもそも俺以外誰もいないこの空間で何かトラブルが起こったりしたら、それはもうイベントどころではなく命がけの大惨事になっちゃうんだけどさ。
「レベルだって『4』になってからピタッと止まったままだし?
もしかして『魔物のレベル+1』までしか上げられない感じなのかな?」
一応ね? 一回だけ他の狩り場――ノーマル第一層の『B区画』と『C区画』にも行ってみたんだよ。
「コボもワームも、許可証を貰ったばかりの素人でも倒せるくらいのザコではあったけど、やたらと人が多かったんだよな」
あのへんで狩ってる人たちって、パーティで『定点狩り(湧き待ち)』してる人たちばっかりで、俺みたいなソロで走り回る人間には時間効率が悪すぎてさ。
「あれだと一時間で20~30匹くらいしか狩れないよな? それも、4人~6人で」
絶対にスライムのほうがいいと思うんだけど。
「……これ、拾える魔石の数で考えるとしばらくはスライム。
下手したら、引退するまでスライムが最大効率なのでは?」
もっとも、そのスライム狩りをさらに効率化できそうな場所があるんだけどな!
「ていうか【裏・第一層】の次が【真・第一層】って何なんだよ」
いくらなんでも投げやりが過ぎるだろ!
そもそも第一層だけでいつくあるんだよ!
「……まあ、相手がどんな奴に変わるのかだけでも確認しておくか」
ポータルに手を当て、さっそくテレポート。
「それにしても、地形が何ひとつ変わらないってどうなんだ?」
これゲームだったら間違いなく手抜きで炎上してるだろうな。
そして、そこで出てきた『魔物』は。
【イエロー・スライム】
レベル:5 戦闘力:45
主な攻撃方法:飛びかかりによる体当たり。強酸による溶解。
「こいつ、普通にヤベェ奴だ!?」
戦闘力が上がったのはともかく、強酸はさすがにシャレにならん!
……いやでも、ダンジョンの魔物って倒したら消えるんだよな。
つまりこいつもこれまで通り、待ち受けからの突き刺し戦法に失敗さえしなければ問題ないのでは?
「試してみるか、それとも緑スラに戻るか……」
と考えつつも、足は勝手に黄スラの射程へ。
「一回だけ……あてがうだけ、かたちだけだから」
よく分からない言い訳を口にしながら、奴の飛んでくるスピードを予想して剣を構えるも、
「……いや、飛んでくる勢いが青スラレベルっ! 遅すぎて逆に外しかけたわ!」
どうやら『戦闘力45』は、強酸による下駄を履かされた結果だったようだ。
「武器の損傷もこれと言ってなさそうだし、まさかの期待外れ……いや、体に張り付かれたら大怪我待ったなしなんだから油断は禁物だな」
ちなみにドロップは魔石3個と『スライム・アシッド』。
またまた錬金用の素材だった。




