第12話 裏・第一層――戦慄のグリーン(スライム)!
お隣さんからおかずのお裾分けをもらったので『シャルウィ・ダンス?』みたいなノリで、「よければ一緒に食べませんか?」と誘ってみるも、「嫌よ」の一言で断られてしまい、心に受ける必要のなかったダメージを負ってしまった俺。
いや、もし了承されても、それはそれで困ることになったと思うけどさ。
次の日の朝。鉄仮面さんにお礼を言おうと、彼女の通学時間に合わせるように俺もダンジョンに向かうことに。
建付けの悪い扉から出てきた彼女に、
「おはようございます。昨日のシチュー、美味しかったです!
でも、うちはシチューにジャガイモ入れない派なんで、次からは抜いてもらえたら嬉しいかも?」
などと、朝っぱらからなかなかに図々しいお願いをする。
「……おはよう。
そうなの? わかったわ、次からは気をつけ……いえ、そうではなくて!
こちらから差し入れておいて、このようなことを言うのもおかしいのだけれど。
あなた、こんな怪しい姿の女が作ったものを、よくも平気で口にできたわね……?」
いや、本当に自分で言うなだけどな!
「ほら、昨日はちょっとノスタルジックな気分でさ。
帰りに何も食べてこなかったから、普通にお腹もすいてたし。
それに、せっかくシチューなんて手間のかかる料理を作ってくれたんだから、ありがたくいただくに決まってるじゃん」
「……アレはあくまであまりものであって。
別にあなたのために作ったわけではないのだけれど……まぁ、いいわ」
この鉄仮面さん、どうやらツンデレ属性持ちだったらしい。
* * *
さて、そんなふうにお隣さん――『明石静』さんというらしい――と朝の挨拶を交わすようになって三日が経った。
もちろん数日くらいで、スライム退治から抜け出せるほど強くなるはずもなく。
これと言って変化のない毎日――いや、多少の変化はあったんだけどな?
ほら、許可証を貰った初日。
ダンジョンで触った『標識板』ってあったじゃん?
そこに浮かび上がる文字は、二百年経った今でも解読されていないっていう例のアレ。
俺が見た時は、【ポータル間転移】とか【パーティ編成】とか、いかにも攻略に役立ちそうな機能が並んでたんだけど、ソロでスライムスレイヤーやってるだけの俺には、当分関係ないことだと思って、これまでスルーしてたんだよね。
でもさ、さすがにスライムとの付き合いも三日目ともなると……さすがにマンネリ気味になっちゃうよね?
だから刺激を求めてってわけでもないんだけど、休憩中の暇つぶしくらいにはなるかと、またまた触ってみたんだよ。
そしたら、新しく【裏・第一層転移】っていう項目が増えててさ。
……裏?
「いや、裏のスライムとか、それもうどう考えてもエッチなやつじゃん!!」
人型スライムとヌルヌルプレイ的な!?
などとワクワクしながら、何も考えないで突撃しようとしたら、
『警告・転移先では現階層で遭遇する魔物の上位種が登場します』
って出てきた。
どうやら俺が今お付き合いというか、突き○してるブルースライムの上位種――グリーンスライムが徘徊する別空間に飛べるようになったみだけみたい。
もっとも、洞窟の通路は『A区画』の外にも繋がってるみたいだから、一層にいた魔物全般、スライム以外のコボルトとかワームの上位種も出てきそうなんだけどな?
「ブルーからグリーン……異世界だと強さにそこまでの違いは無かったと思うんだけど」
わざわざ『上位種』などと、警告までしてもらってるんだから、そのまま何も考えず吶喊! なんてことをするはずもなく。
十分に距離を取りながらこっそりと鑑定してみる。
【グリーン・スライム】
レベル:3 戦闘力:32
主な攻撃方法:飛びかかりによる体当たり。
「いや、マジで上位種じゃん!?」
【ブルー・スライム】
レベル:0 戦闘力:20
主な攻撃方法:飛びかかりによる体当たり。
と比べても1.5倍の強化である! ……とはいえ。
「攻撃パターン自体は青スラとまったく同じだし?」
俺にとってはこいつも、あっち(イスカリア)で戦ったことのあるライバルの一体であるのだ!
多少動きが速くなろうとも!
奴が突き刺さる瞬間に腕、そして武器にもかかる衝撃がデカくなろうとも!
「……いやこれ、変な体勢で受け止めたら普通に腰をいわしちゃいそうだな」
っすがに青スラほど脳天気な戦闘はしてられなくなったが、基本の立ち回りが変わるわけでもないので、問題無く狩り続けられるだろう。
――てことでこの三日間のリザルトなのだが。
「スライムとはいえ、さすがはレベル3の強敵」
まず俺のレベルが『4』まで上がった。
おかげで、戦闘力も最初期の『58』から『81』に急上昇!
「……とはいえ、まだ中務さんの三分の一しかないんだけどな」
一番の収穫は、青スラとは違い入手できる魔石の数が『1匹につき2個』に増えたことだろうか?
「問題は、ドロップアイテムが『スライム・ウォーター』とかいう、現状まったく使い道のない素材なことか」
スライム・ウオーター。
なにその名前からして飲もうとも思えない水。
鑑定結果には『錬金術の素材に使用可能』って書いてあったんだけど……。
「有名な錬金工房なんて『魔法都市』まで行かないと無いんだよなぁ」
しばらくのあいだ、ディールから出らそうもない俺にとって、『これ』が役立つのはずいぶん先のことになりそうだ。
もちろん、それならローションみたいに売ればいいだけだし?
中務さんにみてもらったんだけど……。
「……柏木さん。これってもしかして、グリーン・スライムがドロップする『スライム・ウオーター』ではないでしょうか?」
「さすが中務さん。ひと目見ただけでよく分かりましたね?」
「これでもそれなりに勉強しておりますので。
ええと、柏木さんはグリーン・スライムの生息域――魔物ですからもちろんダンジョンの中なのですが。
それが確認されているのが独逸のダンジョンだということをご存知……ではないですよね?」
「……それはつまり、日本では見かけない魔物だと?」
「そのとおりです。
ですのでこちらで買い取りをすると、当然上に報告されることになるますので……ちょっとした騒ぎになってしまうと思います。
聞くまでもありませんが、これをどこで見つけたかは……しばらく秘密にしておく必要がありますよね?」
「そうですね、せっかく誰もいない場所なのに混み合うのは嫌ですね」
「もうそれでどこなのかおおよその見当がついてしまいましたが。
お値段にしても、あちらでの買取価格に照らし合わせますと1個あたり50円とかになってしまいますし」
「想像以上に安いですね!?」
売り物としてはポーションだけでも生活には困らなさそうだし。
しばらくは倉庫の肥やしで確定だな……。




