第11話 なんちゃってお姫様な美女と、やんごとないお姫様な従姉妹と、遠い親戚筋のお姫様な支部長。(と、鉄仮面さん)
朝から中務さんに3種のポーション盛り合わせを預けたあと。
今日も元気いっぱいにダンジョン内を駆け回り、スライム討伐に勤しんだ俺。
安全第一だし? そのことに文句はない。そう、文句はないんだけどさ。
さすがに三日目ともなると……ねぇ?
『刺し身の上にタンポポを乗せるだけの仕事』みたいな流れ作業にどうしても飽きがきちゃうと言うか。
冒険者ってもっとこう、刹那に生きるヤクザな商売のはずだよね?
それじゃあ命がけで『強敵』と戦いたいのかと言われれば……もちろんそんなのはお断りだけどさ。
うん! スライム大好き!
俺はこのまま二年でも三年でも、末永くスライムとお付き合いしていく所存である!
てことで昨日と同じく、今日も奴らを600匹ほど狩ったところでダンジョンから脱出。
南館に戻り、窓口業務をこなしているであろう中務さんを探してそのまま合流――あれ? 中務さんが知らないお姉さんと一緒にいるんだけど?
当然初対面のはずなのに、なんとなく見たことあるような、ないような……。
「中務さん、今日も一日お疲れ様です!
そちらのお姉さんはお知り合いの方なんです?
お忙しいようでした明日にしますけど」
「本日もお怪我なく戻られたようで何よりです。
いえ、彼女は久々の魔力適正持ちであるあなたのことを見たいと無理やり着いてきちゃっただけでして。
……といいますか、柏木さんは『葛』のことをご存じないのですか?」
「はい、残念ながら」
ていうか、確か中務さんの従姉妹さんの名前がカズラさんだったような?
「もしかしてアイドルさん……卒業前のグループアイドルさんとかなんです?」
中務さんの横に並んでもひけをとらないほどの美人さん。
笑顔ではあるんだけど……俺のことを見つめる目がね?
海千山千の大貴族様っぽいっていうかさ。
この人、絶対に俺のこと値踏みしてるよね?
「ええと、あなたはどうして『アイドル』にわざわざ『卒業前』なんてつけたのかな? かな?
新人さんみたいだけど、あなたも探索者なんだよね?
それなのにカカカズを知らないのはさすがにおかしいんじゃないかな? かな?」
こちらにズイッと一歩乗り出し、野生の虎のようなプレッシャーを掛けてくる従姉妹さん。
「おかしいとか言われましても……ていうかカカカズ?
あれ? 最近どっかで聞いた……いや、見たような?
まぁそんなことはどうでもいいとして」
「そ、そ、そ、そんなことっ!?
お嫁さんにしたい探索者、三年連続ナンバーワンの!
この私を目の前にした男の子の反応とは思えないんだけど!?」
「なんかめんどくさい人だなー……。
って、ああ! それ知ってます!
昨日そこの本屋で写真集、立ち読みしましたから!」
「……へぇ……柏木さんはそういうご本を読まれるのですね?」
なんだろう、今度は中務さんから手負いの狼のような威圧が……。
「そこは立ち読みするんじゃなくてちゃんと買って欲しいんだけど!?
ふふん、なんだかんだとすました顔しちゃって、やっぱりカズの魅力に夢中だった」
「へぇ……本物ってこんな感じなんですね?
太ももからお尻のライン、あと腹筋くらいしか記憶に残ってなかったんで、まったく気づきませんでした」
「この子ちょっと性癖がマニアック過ぎないかな!? かな!?
普通の男の子はみんな、この美少女フェイスに一目惚れ! 虜になっちゃうと思うんだけど?」
「えっ? いや、カズラさんのお顔は別に……ていうか、スタイルも性格も全部ひっくるめて中務さんの圧勝ですし」
「もう、柏木さんはまたそんなことを……」
「ふっ……ふふふふっ……あなた、年下だからって私が手を上げないと思っえるなら大きな間違いだからね?
ここは一度可愛がり――コホン、新人教育の一環として私が鍛えて……どうして硝子はそんな『まんざらでもない』って顔でクネクネしてるのかな? かな?」
* * *
ということで、いきなり絡んできた従姉妹さんのことはスルーして中務さんと小部屋に移動。
ローションを買い取ってもらおうとしたところで、
「柏木さん、こちら朝からお預かりしたポーションの代金となります」
と封筒を渡される。
中身を確認してみると一万円札の束が一つ入っていた。
「……店売りしているモノと比べるとさすがに高すぎでは?」
「これからの性能試験の結果いかんいよって買取額は変わってくると思いますが、一型ポーションの三倍程度というのは、高いというほどの金額では無いと思いますよ?」
……もちろん高額で売れるに越したことは無いんだけどさ。
「では、アレを用意するのに掛かったお金と手数料が1本につき10万円。
ひぃふぅみぃ……30枚抜きとって、残りの70万円を二人で折半ってことでいいです?」
「えっ? いえ、さすがに何もしていない私がそのようなお金をいただくわけには」
「中務さん、これは正当な商売の報酬ですので」
「……わかりました。では結婚資金として貯金しておきますね?」
「あっ、はい」
いきなり大金も入ったので、「今日は俺が出しますので晩御飯に行きませんか?」と、中務さんを誘ったんだけど、「申し訳ございません、今日はアレに付き合わないといけませんので……」と、心の底から残念そうな返事。ひとり寂しく帰路につく。
電車に乗れば10分も掛からない距離なのに、なんとなくそれでも悲しく……結局は何も食べずに帰ってきちゃったという、ビックリするほど弱メンタルな俺だったり。
カン、カン、カンと一段とばしでアパートの階段を駆け上がり、部屋の鍵を開けて『ガチャ……ギィィィ……』いる途中でお隣さん――鉄仮面の彼女が顔をのぞかせ、ジッとこちらを見つめる。
いや、何だこのホラー!?
「ど、どうも、ただいまです……」
不審者にはこちらから声掛けするのが効果的だとどこかで見た気がするので、実践してみるも。
「……」
「……」
どうして無言なんだよ!!
そのまま顔を引っ込め――たかと思えば、何やら手に持って部屋から出てきた鉄仮面。
ヤバいヤバいヤバい! 殺されるやつ! これ、絶対に殺される――
「……昨日はごめんなさい。あれくいらいの時間はいつも気が立っていて……」
綺麗な所作でペコリと頭を下げ、謝罪する鉄仮面さん。
……昨日? 何かあった……もしかして壁ドンのことだろうか?
「お詫びと言うわけではないのだけれどこれ……良かったら食べて頂戴」
差し出されたのはタッパーに入った、
「肉じゃが?」
「ビーフシチューよ」
「東郷平八郎か!」
「??? それは誰なのかしら?」
キョトンとした感じで小首を傾げる鉄仮面さん。
いろいろと振り切りすぎたゆるキャラのようなその動きに吹き出してしまいそうになるが、相手を怒らせれば間違いなくヤラれるので気を抜いてはいけない。
「えっと、良かったら一緒に」
「嫌よ」
ご飯は作ってくれたけどそれは駄目なんだ……。
30エピソード目~♪
ということで!(?) ブクマまだの方は、そろそろブクマをですね……(笑)
あと、ご評価などいただければとても喜んびます!(※なお作者は銀髪のじゃロリとする)




