第11話 なんちゃってお姫様な美女と、やんごとないお姫様な従姉妹と、遠い親戚筋のお姫様な支部長。(全員未婚)
「昨日あれだけ『明日は驚かないぞ!』と気合を入れておりましたのに。
あなたはまた、とんでもないものを持ち込んでくださいましたね……」
まずは仕入れたポーションの内容を報告しておこうと、朝イチから中務さんと『二階』で商談中の俺。
商品説明の後の彼女の反応は『大きなため息』だったわけだが。
「もう一度確認しますが――こちらの【下級HP回復ポーション】。
その回復量が……いえ、そもそもこれまでポーションに回復量という概念自体がなかったのですが。
それがダンジョン産のものと比べて二倍もあると?」
「正確には『10』と『20』ですね。メーカー製造品が『3~5』でしたので、それと比べればかなりの『売り』になるんじゃないでしょうか?
といいますかメーカー製造品。
同じ名前の商品内でもあれだけ回復量に差があるのによく苦情がこないですね?」
「ああ……数値として見えるとそのように細かいことまで分かるのですね。
いえ、もちろん苦情はそれなりに出ているんですよ?
でもほら、それを説明する方法が今までありませんでしたので、これまでは『効果には個人差があります』で押し通していました」
個人によってHP――生命力に差があるのは当たり前なんだからその説明自体は正しいんだけどねぇ。
「でも、あなたにそれが証明できるとしたら……薬品メーカーにとっては社会的な大問題、管理局にも影響が及びかねません?
……えっと、もしかしてあなたは暗殺されたい願望があるのですか?」
「さすがにそこまでイカれた奴じゃないんですけど……」
そもそも俺に望みがあるとすれば、中務さんのような金髪美女――つまりエルフさんをお嫁さんにして、あくせく働くこともなく、不自由ない生活を送りたいという大願だけである。
……まぁイスカリアでは『金髪エルフさん』だけじゃなく、『銀髪ダークエルフさん』もウエルカム、どしどし応募を待ってたんだけどハガキは一枚も届かなかったんだけどな!
「それにしても、回復量の違いもそうですが……問題は『即時回復』の方ですね。
これが本当なら、今店頭に並んでいるポーションを買う人なんて誰もいなくなってしまいますよ?」
「さすがにそのあたりは口で説明しても埒が明きませんので。
どこかで臨床試験でもしてもらうしか方法はないかと」
そもそも俺の中ではポーションってそういうモノだと思ってたからなぁ。
あと、飲めばすぐ分かる嘘なんてついても何の意味もないしねぇ?
「そしてこちら、見たことのない緑色の液体なのですが。
……これってメロンソーダの原液ではないのですよね?」
「ははっ、もしそれを高額で買い取ってもらえるなら、仕入れてきますが?」
「……もちろん冗談ですからね?
それにしても、この【下級状態異常回復ポーション】。
効果は『ある程度の病の即時治癒と、重度の病の進行停止』ですか。
……これ、その効果が実証されれば、魔石、HPポーション以来の衝撃の大発見になりますよ?」
「いやいや、さすがにそこまでの万能薬じゃないですからね?
即時に治せるのなんて、せいぜい肺炎くらいまでですし」
ソースはもちろん異世界で何度か世話になってる俺である。
「柏木さん。肺炎って……死人が出る病気ですからね?」
そんなこと言い出したら、どんな病気でも死人は出ると思うんだけど……。
「さて、最後になりましたがこの透明な液体。
【聖水】とはいったい何でしょうか?」
「『聖別された液体』のことじゃないですかね?
呪いを退ける、またアンデッドに振りかけると嫌がる効果があるらしいですよ?」
もちろん『注釈部分』は伝えていない。
「もう! 私だって聖別くらいはわかっております!
あいにく呪いというはよくわかりませんが。
アンデッド、不死系統の魔物が嫌がる品であると。
……先のふたつと比べると、物凄く地味ですね?」
「……確かに」
* * *
柏木さんから持ち込まれた3本のポーション。
いえ、聖水をポーションと言って良いのかは定かではないですが。
「さて……どうしましょうこれ?」
彼の説明が確かならば――もちろんいまさらあの人を疑う気持ちなどありませんが、間違いなく出どころはダンジョンではないのでしょうね……。
「さすがに普通のポーションとして取り扱うことも出来ませんし」
こうやって頼っていただけるのはもちろん嬉しいのですが、物が物ですし、さすがに男爵家の、それも家族とは疎遠になっている娘に扱いきれる品ではなさそうです。
「はぁ……とりあえずは葛に電話を入れておきましょう。
時間がかかる、それで興味を持たないようでしたら支部長――六条に話を持っていきましょうか」
出来るなら追加でもう少し用意して欲しいと彼には伝えてある。
いっそ両方に渡してしまい、引く手の強い方と取引するというのも良いかもしれないわね。
「はぁ……でも葛とは、なんだかんだで喧嘩別れみたいになっちゃったからちょっと気が重いわね」
もちろん彼女のアドレスを消したわけでもなく。
携帯端末に表示された『鷹司葛』の名前をタップすれば流れる呼び出し音。
『あら、硝子から電話が掛かってくるなんて、今日は雪が降るかもしれないね?』
……何なのこの子!?
1コール鳴る間もなく電話にでたんだけど?
探索者のトップランカーって、もしかして物凄く暇なのかしら?




