第09話 と、とりあえず二人だけの秘密ということで……。 その1
「フッ、当たらなければどうということはない」
「結構な回数スライムにぶつかられてましたよね!?
といいますか、お顔に大きなあざができていますよ!?」
宿敵の体当たりを受け続けること数十分。
なんとかかんとか奴との距離感を取り戻し、戦闘勘も蘇ってきた。
「ははっ、ここからはずっと俺のターン!!」
「そもそも最初から他に誰もいないのですが」
「せっかく無理やり上げてるテンション下げに来るのやめて?」
飛びかかってくるスライムを待ち受けて、プスッ。
飛びかかってくるスライムを待ち受けて、プスッ。
これ、前腕部全体が固定されてて、力を入れて握りしめることが出来るパタの剣先が広いから何とかなってるけど、中古の細剣だったら十匹くらいで手首が壊れてたかもしれないな。
やってることも飛びかかってくるスライムが落ちてくるところを待ち受けて突き刺すだけの、画像映えしない地味過ぎる作業だし……。
そんな、どれだけ頑張っところで割愛されてしまうような戦闘も、ダンジョンに入ったのが遅かったこともあり三時間ほどで終了。
中務さんとドームから外に出て、無事にダンジョンモールへと帰還する。
ていうか、ゲートを出てそのまま解散だと思ってたのに。なぜか朝と昼に通された『相談室』またに連行されることに。
「柏木さん、本日はお疲れ様でした。
まさか探索者登録当日に魔物を討伐されるとは……。
それに、あれほど効率的なスライム狩りを見たのは初めてです」
「中務さんの方こそ。今日は一日中付き合わせることになってしまい申し訳ありませんでした。
それにしても、他の探索者が誰もいなかったおかげで入れ食い状態でしたね!」
「そうですね。でもあれだけの数のスライムを討伐したのに、魔石の一つもドロップしなかったのは少々予想外ではありましたが……」
「いや、ドロップは普通に……って、確かに中務さんからすれば、そう見えてましたよね! 実はあれ、俺の補助スキルのひとつでして。
スライムが落とした魔石もローションも、全部自動で回収してたんですよ?」
途中でレベルもひとつ上がったし、『スライムは実入りが悪い』という話は一体何だったのか?
「ええと、さすがにそれは……冗談ですよね?」
「あー、まぁ確かに。
収納スキルが自動でドロップアイテムを回収するとか、非常識ですもんね」
「そういう意味ではなくてですね。
といいますか、収納スキルとはいったい……。
柏木さん、物凄くいまさらの質問で申し訳ないのですが。
あなたが本日何度も口にされていた『スキル』とは一体どのようなモノなのでしょうか?」
……あれ?
「えっ? スキルはスキルですけど……。
中務さんだって『乱舞』っていう戦闘スキルが使える――」
「あれはそう呼ばれているだけで。
実際はただ力任せに薙刀を振り回しているだけの技なんですよ。
それに、『ジョブ』というのも……直訳するなら『職業』でしょうか?
そちらもさっぱりわからないのですが」
……おや?
「な、中務さんは腰元というジョブに就いてるんじゃ――」
「周りから従姉妹の『腰元みたいだ』と言われていただけですが」
……確かに、彼女のステータスのジョブ欄には『無し』って書いてあったけれども!
「ぼく、ショウコおねえちゃんがなにをいってるのかわからないや」
「そんな可愛い、とぼけ方しても愛らしい、騙されませんから愛おしい」
「うう……ひどいや……。
あんなに信用してたのに……愛してたのに……。
まさか手のひらの上で泳がされてただけなんて……!」
「愛しっ……!? といいますかとても人聞きが悪いです!!
私はただ、柏木さんの言うことにちょっと口裏を合わせて、不信感を出さないようにしただけですから!
……そのうえで、色々と情報を聞ければいいな? とは思ってはおりましたが!」
それを世間では泳がせてたって言うんだよなぁ……。
「というかですね。
柏木さんは鑑定がどういうものかご存知ですか?」
「そりゃもちろん。
アイテムの性能とか、個人の能力を視るスキルですよね?
たしか、ダンジョンモールでも買い取り屋に鑑定施設が併設されてたと思いますけど」
「……どうやらそこから大きくズレていたみたいですね。
一般的に言う鑑定とは、ダンジョンで見つかる『単眼鏡』のような道具を使って、『持ち込まれたアイテムがどういうものなのか?』を調べる行為のことを指すのです。
先ほど私が見ていただいたような、『人物の能力を調べる』行為。
それができるアイテムも、スキルというのも今まで存在しませんでした」
「……マジで?」
「……マジです」
いや、そう言われてみれば確かに?
ステータスが確認できるなら、探索者登録の時に鑑定しないのはおかしいもんな。
「そのうえ、標識板――いえ、ポータル・システムでしたか。
アレの詳しい仕組みを解明できるとなれば、良くて拉致監禁。
最悪、暗殺されかねませんからね?」
「そこまでの大事なんだ!?」
なにその、稀によくある追放モノラノベの鑑定スキル持ちみたいな扱い……。
「さらにさらに、あなたは収納スキルというものまでお持ちなんですよね?
それがどこまで有用なのか、私には分かりませんが……。
うちの従姉妹に知られでもしたら、今日中にでもダンジョン最前線まで連行されますよ?」
ちょくちょく出てくるこの人の従姉妹さんがヤベェ奴すぎるんだけど?
「……ていうか中務さんだって祝福持ちですよね?
なら間違いなく、何らかのスキルは使えるはずなんですけど」
「そういえば、そんなお話もありましたね。
柏木さん、もしも私や、私以外の人が特別な力を持っていたとして。
人物を鑑定できる人間がいなければ、それを知る術がありませんからね?」
「たしかに知らない力を使いこなせる人間なんていませんね」
あれ? もしかして、異世界商人のおまけくらいに思ってた鑑定スキル。
実はとんでもないチート能力だった?




