第00話 ……と思ったら強制的に退場させられた……。
さてそんな、圧倒的役立たずだった当時の俺なんだけど。
『どうにかして他のみんなについていかなければ!!』
などと、今ではどうしてそうなったと言いたくなるような『焦燥感』に駆られてしまい……頑張った。とても頑張った。ビックリするほど頑張った。
異世界という非日常で、転生者ハイになっていたのは否めないだろう。
俺が居なくなった日本では、間違いなく両親が交通事故で亡くなったっていう現実だってあったし。
投げやりで。それでいて限りなく純粋で。
「はははっ、役に立つスキルが無い? なら物理で殴れば良いかろうなのだ!!」
などと、意味の分からない戯言を叫びながら、最前線で刃物を振り回す俺。
もうここまで来ると一本二本、ネジが抜けてるとかそういう話じゃないなだ。
まさしく本物の『◯◯◯◯に刃物』、ただの狂戦士である。
……もちろん、そんな勢いだけの蛮勇がいつまでも続くハズもなく。
半月もすれば気持ちも落ち着き、自然と我に返る――前に、大怪我を負ってしまい。そのまま生死の境を彷徨うことに。
でもほら、たとえそれが前のめりに暴れまわっていただけの役立たずだろうと、『召喚された希望の勇者が死んだ』なんて噂が広がるのは人聞きが良くない。
所属していたのが、結成されたばかりの『魔王討伐軍』だったしな。
俺と一緒に呼び出された他の『地球人』の士気にまで大きな影響が出てしまう――いや、連中は連中でそこそこ覚めた人間ばっかりだったから気にする人間が何人くらい居たか、甚だ疑問ではあるけど。
どちらかと言えば、内地で応援してくれている平民層がパニックを起こしちゃう可能性のほうが高かっただろうな。
そのおかげ……ということもないだろうが、勝手に騒ぎ回ってた迷惑な人間にしては、ありえない高待遇で治療をしてもらえたこともあり。
後遺症もなく一命を取り留めることが出来た――んだけれどさ。
ほら、これ以上俺みたいなのが最前線にいても……邪魔になるだけじゃん?
怪我が治り、一応の現隊復帰はかなったんだけど。
「これまであなたは率先して先頭に立ち、我々の心を鼓舞してくださいました。
魔族を恐れ、怯えるしかなかった私達の心を震い立たせてくださいました。
そんな、あれほど頑張ってくださった貴方に対し、このような残酷な宣言をせねばならない事は非常に心苦しいのですが……。
戦場で効果を発揮する祝福も、一撃必殺のスキルも、範囲攻撃スペルも持たない貴方では……この先の戦いに付いてはこれないでしょう」
……いや、どう考えても気づくの遅すぎだろ!
そんなこと、俺がこっちに召喚されたその日のうちに思い当たれと!
祝福が『商人』の時点で、良くて後方支援しか出来ない人材だろうと!
自分が死にかけたことで、両親の死の悲しみというドーピングすらスッポリと抜けてしまい。
残されたのは冷静に損得勘定の出来る、思考能力が回復したクリアな頭脳だけ。
もちろんその提案を喜んで受け入れたりしたら、これからも戦い続けるだろう、一緒に召喚されたみんなが気を悪くしちゃうだろうし?
まるで、この世の終わりみたいな苦い顔でグッと奥歯を噛み締め……うっすらと涙まで浮かべながら、しぶしぶ引退の話を了承した俺。
共に戦った戦友たちとの盛大な送別会。
涙の分かれとみんなからの感謝の気持ち。
途中退場となってしまったが、自分なりに精一杯頑張った戦いの終わり。
これからこの世界で生活するための幾ばくかの支度金をもらい、次の日には手足を失ってしまった負傷兵と共に最前線から馬車で後方に移送されてゆく……とは言え。
俺の祝福、戦闘で役に立たなかったからといって、他のことで役に立つのかと言えば……そういうわけでもなく。
だってほら、何か買おうとすれば、必要なのは『日本円』だからな?
去りゆく俺のことを不憫に思い、財布ごとカンパしてくれた気の良い奴らの顔。
こうして今でも全員……思い出せるのは有栖川さんっていう金髪のあの子のことだけだけど、他のみんなにもちゃんと感謝はしてるんだぜ?
てことで。
そんなある意味、異世界転移者としては最高に恵まれた『FIRE(早期リタイア)』で戦線を離脱することが出来た俺なんだけど、頼れるものは戦いには向かない自分の体一つ。
遊んで暮らせるような金もなく。
元勇者なのに貴族の後ろ盾すら持たない。
ぶっちゃけ不安しかない行商人生活がそこから始まる。
それでも、悪い遊びで身を持ち崩す事もなく。
爪に火をともすような思いで小銭を貯めながら。
この十年間、働いて、働いて、働いて。
その結果、やっとの思いで!
自分の城と呼べるこの店を手に入れることが出来たってわけだ!
……今日は飲んでもないハズなのに、少し感情が昂ぶって長々とした昔話になっちゃったな。
まぁあれだ、俺が何が言いたかったのかというと。
「ふっ、ふふっ、ふはははははは! そう、俺の戦いはこれからなのだ!
ここからいよいよ第二ラウンド! 元勇者の快進撃が始まるのだ!」
今日から俺は一国一城の主!
テンションカチアゲの心機一転!
新しい生活を楽しむ――
『はずだったのに』
「えっ? はっ? なっ、何だよこれ?
いやいやいや! 体が、体が消えてる!?
指先から少しずつ溶けていってるんだけど!?
えっ? えっ? えっ?」
人間、あまりにも意味の分からない状況に陥ると逆に冷静になるとか聞くけど、半分は当りで半分はウソだと思ったね。
確かに大きく騒ぎはしないけど、ただただ唖然とすることしか出来なかったもん。
そんな俺の頭の中に突然響いてきたのは。
俺が『こちらの世界』に呼び出された時に聞いた、懐かしい……と感じるほど接触した覚えもないな。
男とも女とも分からない中性的な『神様(仮)』の声だった。
『異世界よりの勇者たちよ。これまでありがとうございました。
貴方達の活躍のおかげで、この世界は滅亡を免れました。
今から、倒された魔神がこれまで溜め込んでいた魔力を開放いたします。
最初の約束通り、あなた達を元の世界、元の場所、元の時間へと送り返してさしあげましょう』
……どうやら俺じゃない誰か。
十年前一緒に拉致された、あの場にいた勇者の誰かが頑張って魔神を討伐したらしい。
『なお、この世界でのこれまでの経験。
そしてこの世界で手に入れた品物などはすべて回収、持ち出しは出来ませんのであしからず』
何だよその『スパイ映画で指令を伝え終わったテープレコーダーが燃えだす』みたいなシステムは!?
てか、待って?
俺、帰りたいとか一言も言った覚えはないんだけど?
今日まで一度たりとも考えたことすらないんだけど?
そもそも、魔神を倒したら帰らされるとか誰からも聞いてないし!
これまで一生懸命がんばって!!
やっと自分の店を手に入れたところなんだぞ!?
……魔神退治に呼び出された勇者が地道に商売してた時点で色々とおかしいというのは置いといて。
でも! やっと生活基盤も整ったことだし!
これから夜の街に繰り出そうとしてた、そんなタイミングでこの仕打ちはあまりにもあまりだろうが!?
あれだぞ!? 今晩はお祝いに、
獣人のお姉さん(ワイルド系)。
ダークエルフのお姉さん(淫靡系)。
ホビットのお姉さん(合法○リ)。
そんな彼女たちが『ゴニョゴニョ』してくれる大人のお店のハシゴをしょうと思ってたのに!
婚活だっていっぱい頑張って!
あわよくば十代前半の素朴そうな金髪娘をお嫁さんに貰おうとか考えてたのに!
「いーやーだー!! 帰りたくないーーー!!
何があろうとも俺はこの世界に残……るん……」
そんな俺のわがままが、何処かの誰かに通じることはなく。
この異世界に突然送り込まれてしまったあの時と同じように。
体も意識も、手に入れたばかりの店の中から綺麗さっぱり消え去ったのだった。




