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召喚された異世界で『(知らない奴が)魔神』を退治したら日本に送り返されたんだけど!? ~『帰還勇者(しょうにん)』はダンジョン大国日本で成り上がれるか?~  作者: あかむらさき
異世界勇者(しょうにん)日本に送り返される。

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第00話 異世界『勇者(しょうにん)』送り返される。 その2

 そんな、圧倒的役立たずだった当時の俺。

 どうにかして他の連中についていかなければならないと、意味のわからない焦燥感に駆られ頑張った。それこそ死ぬ思いで頑張った。

 いや、あの頃の自分、マジでどうにかしてたよな……。


 異世界という非日常で、転生者ハイになっていたのは否めない。

 日本では間違いなく、両親が事故で死んだだろうという現実もあったし。

 どうせ死ぬときは死ぬんだと投げやりになったあげく、


「はははっ、スキルが無いなら物理で殴れば良いかろうなのだ!!」


 などと、意味の分からない戯言を叫びながら、最前線で刃物を振り回してたんだからさ。

 一本二本、ネジが抜けてるとかそういう話じゃない。

 まさしく本物の『◯◯◯◯に刃物』状態。


 勿論のこと、そんな勢いだけの蛮勇がいつまでも続くハズもなく。

 半月ほどで、思わず我に返る――前に大怪我を負ってしまい、そのまま生死の境を彷徨うことに。


 でもほら、たとえそれが役立たずであろうとも、『召喚された希望の勇者が死んだ』なんて噂が広がってしまえば。

 結成されたばかりの『魔王討伐軍』、そして俺と一緒に呼び出された他の『地球人てんいしゃ』の士気にまで影響が出る。


 内地で応援してくれている平民層だって、パニックで暴動とか起こしちゃうかもしれないからな?

 そのおかげ(?)もあり、ありえない高待遇で治療してもらえて、運良く一命を取り留めることになった――んだけれど。


 たしかに?

 なんとかかんとか怪我は回復はしたけど、どう考えても戦闘で役に立ちそうにもない人間。

 そんな俺にくだされた決断は、


「これまであなたは率先して先頭に立ち、我々の心を鼓舞してくださいました。

 魔族を恐れ、怯えるしかなかった私達の心を震い立たせてくださいました。

 そんな、あれほど頑張ってくださった貴方にこのような残酷な宣言をせねばならない事は非常に心苦しいのですが……。

 役立つスキルも、戦場で効果を発揮する祝福も持たない貴方では……この先の戦いに付いてはこれないでしょう」


 ……いや、気づくの遅すぎだわ!

 そんなこと俺がこっちに召喚された瞬間に思い当たれや!

 スキルとか祝福を確認した時から分かってたことだろうがよ!


 自分が死にかけたことで、両親の死の悲しみという感情のドーピングも頭からスッポリと抜けてしまい、残されたのは冷静に損得勘定の出来る、思考能力が回復したクリアな頭脳。


 もちろんその提案を喜ぶ……と、これからも戦い続けるであろう他の勇者たちに失礼し。

 まるで、この世の終わりのような表情で奥歯を噛み締め、うっすらと涙まで浮かべながらも、しぶしぶ引退の話を了承。

 本心では戦場を離れることを残念に思う気持ちなんて一欠片すら無かったのは言うまでもない。


 共に戦った戦友たちとの盛大な送別会。

 涙の分かれとみんなからの感謝の気持ち。

 途中退場となってしまったが、自分なりに精一杯頑張った戦いも終わり。

 これからこの世界で生活するための、幾ばくかの支度金をもらい、戦場から後方に移送されることになった。


 ……とは言え。


 俺の祝福、戦闘で役に立たなかったから他のことで役に立つのかと言えばそうでもなく。

 だって、何か買おうと思えば日本円おかねが必要だからな?

 去りゆく俺のことを不憫に思い、財布ごとカンパしてくれた気の良い奴らの顔、こうして今でも全員……思い出せないけれども、感謝はしてるんだよ?



 さて、そんなある意味、異世界転移者としては恵まれたFIRE(早期リタイア)で戦線を離脱することが出来た俺なのだが。

 先立つものも心もとなければ大きな後ろ盾もない、不安しかない生活が始まることに。


 悪い遊びで身を持ち崩す事もなく。

 爪に火をともすような思いで小銭を貯め。

 この十年間、働いて、働いて。

 やっとの思いで、自分の城と呼べる店舗を購入出来たってわけだ。



 ……少し感情が昂ぶってしまい、長々とした昔話になったが、何が言いたかったのかというと。


「ふっ、ふふっ、これからだ!

 ここからいよいよ俺の快進撃が始まるのだ!」


 そう、今日から俺は一国一城の主!


「ふふふ、ふふ……ふははははははっ!

 そうだな! まずは……若い嫁でも探すか!」


 テンションカチアゲの心機一転!

 新しい生活を楽しむ――はずだったのに。


「えっ? はっ? なっ、何だよこれ?

 いやいやいや! 体が、体が消えてる!?

 指先から少しずつ溶けていってるんだけど!?

 えっ? えっ? えっ?」


 人間、あまりにも意味の分からない状況に陥ると逆に冷静になるとか聞くけど、半分は当りで半分はウソだった。

 大きく騒ぎはしないけど、ただただ唖然とすることしか出来ない俺の頭の中に響いたのは。


 俺が『こちらの世界』に呼び出された時に聞いた、懐かしい……と感じるほど接触した覚えもないな。

 男とも女とも分からない中性的な神様(仮)の声。


『異世界よりの勇者たちよ……ありがとうございました。

 貴方達の活躍のおかげでこの世界は滅亡を免れました。

 倒された魔神がこれまで溜め込んでいた魔力を開放……。

 最初の約束通り、あなた達を元の世界、元の場所、元の時間へと送り返しましょう」


 ……どうやら俺じゃない誰か。

 十年前一緒に拉致された、あの場にいた誰かが頑張って魔神を討伐したらしい。


『なお、この世界でのこれまでの経験。

 そしてこの世界で手に入れた品物などはすべてリセット――回収されますのであしからず』


 何だよその、スパイ映画のテープレコーダーが燃えちゃうみたいなシステム……。

 てか、待って?

 俺、帰りたいとか一言も言った覚えはないし、考えたこともないんだけど?


 そもそも、魔神を倒したら帰されるとか誰からも聞いてなかったんだけど?

 これまで一生懸命、働いて働いて働いて……やっと、自分の店を手に入れたんだよ?


 ……魔神退治に呼び出された勇者が地道に商売してた時点で色々とおかしいというのは今は置いといてさ。

 でも、やっと生活基盤も整ったし、これから夜の街に繰り出そうとしてた、そんなタイミングなんだよ?


 今晩はお祝いに、


 獣人のお姉さん(ワイルド系)。

 ダークエルフのお姉さん(淫靡系)。

 ホビットのお姉さん(合法○リ)。


 そんな彼女たちが『ゴニョゴニョ』してくれる大人のお店のハシゴをしょうと思ってたのに!

 婚活だっていっぱい頑張って!

 あわよくば十代前半の素朴そうな娘をお嫁さんに貰おうとか考えてたのに!


「いーやーだー!! 帰りたくないーーー!!

 何があろうとも俺はこの世界に残……るん……」


 そんな俺のわがままが何処かの誰かに通じるハズもなく。

 この異世界に突然送り込まれたあの時と同じように。

 俺の体も意識も、その場から綺麗さっぱりと消え去ったのだった。

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