サクラサク 第19話 ポーションと神聖魔法~サクラギダンジョン支部長を添えて
「ローション以外の品物を納品ですか? えっと、それは具体的には?」
「ポーションですね」
「ダジャレですか?」
などというやり取りの後、机の上に教会で購入した聖水、下級体力回復役、下級万能薬を並べた俺。
いつも買い取りをしてもらう時と同じように胸ポケットから眼鏡を取り出し一本ずつチェックしてゆく受付嬢。
「これは……確かに、間違いなくポーションですね。
しかし、残念なことにこれらの品は私の一存でお値段を付けることも買い取ることも出来ません」
「そうなんですか? もしかして薬事法的なモノに引っかかるとか?
一応ネットで迷宮事務所でポーションを取り扱っているという確認はしてきたんですけど……」
そう、俺だって馬鹿じゃないからな?
地球に無いものを出したりしたら大騒ぎになるだろうと、ちゃんと先に存在を確認しているのだ!
もし存在して無くとも『ダンジョンで拾いました』とでも言えばどうにかなりそうだけど。
「おっしゃる通り迷宮事務所でも、このサクラギダンジョンの販売所でもポーションは取り扱っております。
……ええと、真紅璃さんはそれらをご覧になったことはありますでしょうか?」
「いえ、スライム相手に必要な物とも思いませんので見たことはありませんね」
「でしょうね。現物を持ってまいりますのでこちらで少々お待ち下さいね?」
ということで受付嬢が持ってきたポーションなのだが。
俺が持ってきたポーション、聖水は『透明』で下級体力回復薬は『透き通ったピンク色』で下級万能薬は『透き通った水色』。
一方販売されているポーションも色味は似ているが甘酒のような感じにモロモロしたものが浮いている上に濁っている。
「……それ、腐ってます?」
「腐敗した品物を販売などしたら大問題じゃないですか……
日本全国、いえ、全世界で販売されている下級ポーションは全てこのようなモノです」
「おおう……
えっと、ちょっと色々と考え直してきますからポーションは見なかったことにしてローションの取引量を増やす方向に話をシフトすることは」
「可能ではありますが……あまりオススメは出来ませんね。
ぶっちゃけますけど真紅璃さんって私のことをそれほど信用していらっしゃいませんよね?
かと言って私に好意を寄せていたりもしませんよね?
あなた、そんな相手になんてものを見せてくれてるんですか……」
「えー、多少見た目は違ったとしても同じ下級のポーションですよね?
そりゃエリクシールレベルの薬を出したとかならまだしも……
別に手足の欠損が生えてくるでもない怪我を治せるだけのただの回復薬と病気と毒に効く程度の万能薬ですよ?
そもそも回復役がパーティメンバーにいれば下級のポーションなんて保険的な意味合いでしかない代物ですし」
「真紅璃さんって……本当に迷宮科の学生さんなんですよね?」
「あー……それ担任にも良く言われます」
目を見開いてマジかこいつ……みたいな目でこっちを見つめる受付嬢。
「ちょっと頭痛がしてきました……
ええと、真紅璃さん。もしかしてもしかしますけど……あなた、回復魔法が使えたりとかしませんよね?」
「そうですね、回復魔法といいますか神聖魔法自体まだ使えませんね」
「何ですかその神聖魔法というのは!?
あと、『まだ』使えないということは将来的には使えるようになるんですか!?」
将来的というか規定数の魔石が入手出来次第?
「さすが魔力適性持ちと言うことでしょうか……
有能そうな探索者にちょっとつばを付けておくくらいの心持ちでしたが、想像していた以上に大事に巻き込まれそうなので上に振ってもよろしいです?」
「出来ればこのままお姉さんと二人だけで秘密の共有を」
「それは私と結婚を前提としたお付き合いを」
「上の方をご紹介ください」
「なにげに酷いですね!?
サクラギ小町と呼ばれる私に何の不満があるんですか!?
とりあえず上に……支部長に話を通してまいりますので逃げずにここでお待ち下さいね?」
「逃げずにってなんだよ……
いや、ちょっと早めにダンジョンを上がったと言っても帰りのバスの時間がですね。
さすがにこれからのんびりと話すほど時間が無いんですけど」
「大丈夫です、確か……桜凛学園でしたよね?
学校にはこちらから連絡を入れておきますし帰りは私の車でお送りいたしますので」
至れり尽くせりっすね……。
閑話・ ~左遷された女~
場所は変わってサクラギダンジョン迷宮事務所施設の奥。
室長室とプレートの掛かった部屋の扉をノック、『どうぞ』と許可を貰い部屋に入るのはユウギリから受付嬢と呼ばれる女性――増田純子。
「六条支部長、失礼いたします。
先ほど内線でご連絡させて頂きましたが……少々私だけでは対処できなさそうな内容でして」
「あら? サクラギの受付総括のあなたが対応できないなんて。
……もちろんそれは魔力適性持ちの彼のことなのよね?
もしかして、何らかの手段を持ってレアリティの詐称でもしていたのかしら?」
「いえ、そのようなことは……彼ならあるかもしれませんが。
とりあえずこちらをご覧いただけますでしょうか?」
ユウギリより預かったポーションの小瓶を支部長――六条の目の前に三本並べる。
「綺麗な瓶……もしかして香水かしら?」
「いえ、そちら右から聖水、下級回復薬、下級万能薬……つまりポーションです」
「えっ? ポーション?
私が知っているモノとはずいぶん掛け離れた見た目をしているのだけど。
例の彼って第一階層でスライムを狩っているのよね?
……もしかしてスライムからローション以外のドロップアイテムが見つかったの!?」
「彼――真紅璃さんは毎回ローションを持ち込んでらっしゃいますので一階層で活動しているのは間違い有りませんが……少なくとも新たに三種類もの、それも新種のポーションがドロップしたなどということは有り得ないと思われます。
もっとも、納品数を考えますと毎回一人で数百匹のスライムを狩っているようですので完全に否定することは出来ませんが。ローションに関しましても今以上の数を納品可能なようですし。
それに、彼が私に持ちかけてきたのは新アイテム発見の報告ではなく、ポーションの取引きの話です」
「一日だけならまだしも毎回スライム数百匹を狩るってどんなメンタルをしてるのよ。
……つまり、一階層までしか潜っていないハズの彼はその階層で湧く魔物、スライムからは『ドロップしない』この現在流通している下級ポーションとはまったく違うアイテムを定期的に供給できる可能性があると?
……いえ、軽く聞き流していたけれど……そもそも『万能薬』って一体何なのよ!?」
「真紅璃さんの説明によると病気や毒を治療できると」
「確かにこれまでも『毒消し(アンチドーテ)』は見つかっているけれど!
病気を治せるようなポーションなんて聞いたこともないわよ!?
えっ、もしもその効果が本物で、それが定期的に入手できるなら……」
「ああ後、こちらはまだ未確認なのですが……もしかすると真紅璃さんは回復魔法が使える可能性が」
「……増田さんあなた、世界中に『攻撃魔法』が使える探索者はそれなりに存在するけど回復魔法が使える人間は見つかって居ないのは知っているわよね?」
「もちろん存じております。
そんなわけで、私には少々手に余りますので支部長に対応して頂けないかと」
「もしもあなたの話が事実であれば私でも手に余るのだけど……
ふふっ、でもこれは大きなチャンスかもしれないわね」