第07話 中務先生のダンジョン講座と装備品レンタル。 その2
異世界の魔物とは、生態系そのものが違うらしいダンジョンの中の魔物。
中務さんが言ったように『倒すとアイテムを残して消える』って時点で、生き物じゃないもんな。
そのドロップも、ほとんどが魔石。
つまり、どの魔物を倒しても似たような結果になると思い、
『だったら確実に数をこなせそうなスライムでいいじゃん!』
ということで、最初の経験値稼ぎ討に選んだのにさ。
他の探索者がスルーするほど稼げないらしいんだよね⋯⋯。
クッ、こんなことなら、
『俺は他の無謀な連中とは違うんで!
まずは最弱の魔物から、コツコツと戦闘慣れして
先に進みます!』
なんて偉そうなことを言うんじゃなかった⋯⋯っ!
今さら「やっぱりコボルトでオナシャス!」とかゴネだしたらすげぇカッコ悪いじゃん!!
……まぁ、数日分くらいは食費に余裕もあるし? 質素倹約でどうにかするしかないか。
そんなわけで俺達がやってきたのは、迷宮管理局が初心者向けに運営している、ほとんどボランティアな施設である『装備品・無料レンタル所』。
懐が寂しい俺のような新米探索者の味方だな!
コンクリート打ちっぱなしの空間に、革製防具がずらりとハンガーに吊るされ、壁にはレプリカの武器がところ狭しと並ぶ。
もっとも、レンタル所なので防具にせよ武器にせよ壊れかけとまでは言わないが、そこかしこが傷ついているモノばかりだけど。
見た目だけならおしゃれな古着屋、あるいは大手衣料品量販店(ユニ○ロ)って感じだろうか?
でも、店の中はどこか剣道部の倉庫を思わせるような独特のスメルが漂っていて……・。
まさに、かび臭さと汗臭さのハイブリッド。
しぼった雑巾が乾いたときの、あの感じ。
つまり何が言いたいのかといえば――
「とても……臭いです」
「無料ですので我慢してください」
もちろん贅沢を言うつもりはないけどさ。
防具の類いは絶対に借りたくねぇな……。
できるだけ呼吸の回数を減らし、キョロキョロと武器コーナーを物色しながら中務さんに質問する。
「確認ですけど、活動区画の外に魔物が出てくることって、ほとんど無いんですよね?」
「そうですね。
第一層では『魔物を引き連れて逃げる(トレイン)』ような無様を晒す人もいませんので。
移動中の通路でも魔物に遭遇することはまずありませんね」
なるほど。それならスライム特化の武器だけで十分だろう。
目的の品、レイピアやエストックのような刺突用の武器を探していたところで――
「……ここってあんなマニアックな武器まで置いてるんです?」
「ええ、お恥ずかしい話ですが、最近赴任した職員の趣味でして。
世界中の珍しい装備を集めて……って、それ使うつもりなんですか!?」
壁に掛けられたラックから俺が手に取ったのは、拳から前腕までを覆う籠手に剣身が取り付けられた、『パタ』という武器。
確かインドかどこかで使われてた剣(?)だったはず。
「……なるほど。
柏木さんのやろうとしていることは理解できますし、カズラ――私の従姉妹も似たような戦い方をして成功もしていましたが。
たとえスライムでも真正面から体当たりを、それも顔に受けてしまえばかなり痛いですよ?」
「あれ? 中務さんは怒らないんですね?」
『どうしてそんな武器をえらぶんですか!?』ってたしなめられると思ったんだけど、『使いこなせるんですか?』と心配された。
「……もしかして中務さんって、探索者をやってたんですか?」
「はい。高校生のころから大学の途中までですが。少々嗜んでおりました」
えー……探索者って嗜むものじゃない気がするんだけど……。
* * *
装備も整え終わり、俺たち二人がやってきたのは施設中央にある『ダンジョンドーム』の入場ゲート前。
ていうか、俺だけじゃなく中務さんも武器――どこにでもありそうな普通の長剣を借りてたんだけど、もしかして一緒に来るつもりなのかな?
さすがに施設の職員さんがそこまでするのはおかしい気がするんだけど……。
もらったばかりの磁気カードを大型の自動改札機にかざし、扉をくぐりぬければそこに広がる――なんだろう? 芝生の敷かれた円形闘技場みたいな空間?
ドームのちょうど中央部分。高さも幅も三メートルほどはあるだろうか?
邪悪って感じでもないが、なかなか雰囲気のある漆黒の門が口を開け。
蜃気楼のようなもやが、ゆらゆらと揺らめいていた。
「……あれがゲートですか?」
「はい。『異界』とこの世界を繋ぐ入り口です」
それにしても……最初にあれを見つけた人。
よくあんな怪しい物体をくぐろうと思ったな。
ていうか、そのゲートの周りの芝生の上なんだけどさ。
移動や入場の邪魔にならない場所とはいえ、あちこちで人がごろ寝してるんだけど、もしかして休日の家族連れなの?
「えっと、ダンジョンに入るための手続きは、もうこれで終わってるんですよね?」
「そうですね。先ほどのゲートをくぐった時点で柏木さんの入場が登録されておりますので。
……ええと、先程のご説明でダンジョン内は魔力で満たされているという話をしたのは覚えてらっしゃいますか?」
「もちろん!」
もっともその『魔力が満ちている状態』にどういう意味があるのかを理解してるとは言えないんだけどさ。
「――まぁ最初は口頭で説明するより、実際に体験して頂いたほうが早いかもしれませんね。
大丈夫です!
魔力なんて、気合と慣れでどうにでもなりますから!」
両手をグッと握って励ましてくれる中務さん。
いや、怖ぇよ!
それは一体何の応援なんだよ!!




