第06話 ダンジョンモールと大迷宮時代! その2
ダンジョンの成り立ちというか、その発生の触り部分くらいはどうにか理解したものの、そこから先の話は俺の習った物とはまったく違う歴史の始まりで。
一時間や二時間、流し読みしたくらいではとても覚えられるような内容じゃないし、歴史学者になる気もないので本をソッ閉じ。
ああ、どうして中務さんというか、外国人(っぽい見た目の人)に対して、排他的なのかも知ることが出来た。
その理由は単純で『珍しいから』なんだと。
別に鎖国が続いてるってわけでもないらしんだけど……必要な資源はダンジョンから得ることが出来るからな。
交易、貿易が盛んに行われていない現状で、国外に出る人なんてほとんどいないらしい。
そんな中でも日本と関係が深い国家は『大英帝国』と『独逸帝国』。
どちらとも良好な関係であるらしいけど……どっちも距離が離れてるしな。
米国? あそこはいまだに分裂中で、まだ一つにまとまってすらいないという。
いや分裂しているといえば、米国だけじゃなく広大な領土を持っていた大国のほとんど。
ロシア、中国、オスマン帝国あたりも似たような状態らしく、
かつての列強の植民地も早い段階で『独立(という名の放置)』を迎えているんだとか。
「まぁそんな外国の情勢より、今の俺は明日の食い物の心配をしないといけないんだけどさ」
(異世界で)働けど働けど我が暮らし楽にならず。
そんなことをぼんやり考えながら、手のひらを眺めていたそのとき――
『ミナミの方からお越しのカシワギ様~。
ミナミの方からお越しのカシワギ様~』
「なんだよその、消化器の訪問販売詐欺みたいなざっくりとした所在地」
館内放送が響いた。
集合場所は、さっきも使った相談室とのこと。
急いで向かうも、部屋の前にはすでに中務さんが立っていて。
手で促されながら中に入り、席に腰を下ろした。
* * *
「お待たせいたしました。
こちらが新規発行された探索者証と探索者タグ、それからご案内のしおりになります」
「えっ? 本当に審査に通ったんですか!?」
自分で言うのもなんだけど、俺って身分証すら持ってきていない、現住所ですら不明の、怪しさ満開の兄ちゃんだよ!?
「ていうか先程『筆記試験』的なものを受ける必要があるっておっしゃってましたよね?」
「ふふっ。そんなもの管理局職員が本気を出せば有って無いようなものですので。
私が代わりに記入しておきました」
「もうそれ完全に不正の告白ですよね!?」
意味ありげに微笑む中務さん。
大丈夫かこの人!?
将来的に質の悪い男に引っかかって逮捕される未来しか見えない――いや、その質の悪い男が今の俺なわけだが。
「……あまり無茶なこと、警察沙汰になりそうなことは絶対にしないでくださいね?
ありがとうございます、これでどうにか食いつなげそうです」
「あら、衣食住から下のお世話まで、私を頼ってくださってもよろしいんですよ?
ああ、それから学校の件なのですが」
これと言って問題はないというように、さらっと話題を切り替える中務さん。
それにしてもいまさら学校かぁ……。
それでなくとも歴史が変わってるのに、十年も前に習った内容が何かの役に立つとも思えないんだけど……どうしよう?
「中学については、ちょうど受験シーズンでもありますし、通常授業もほとんどありませんので。
自由登校扱いにして、卒業式だけ参加すれば大丈夫と話をつけておきました」
「義務教育なのに、そんな裁量が効くんですか!?」
「ふふっ、これでも貴族の端くれですので」
「そうだったんですか!?」
華族制度なんて、俺には何の関わりのない話だと思っていたら、まさかこんな身近に現役のお貴族様がいたとは。
「お姫様みたいだと思ったら、まさか本物のお姫様だったとは……」
「いえいえ、本家の従姉妹ならともかく。
男爵家の娘なんて家を出てしまえば、ほとんど一般人と変わりませんからね?
話がそれてしまいましたが学校のお話の続き、高校入試の件なのですが」
本家……そういえばお金に困ったら従姉妹に寄生する的なことを言ってた――いや、さらっと聞き流したけど、その時『貴族』だとも言ってたよな。
「こちらは柏木さんが願書を出されていた桜凛学園にそのまま手続きしておきました。
本来は商業科だったようですが、私の方から手を回せるのが『迷宮科』しかございませんでしたので。
そちらの特待生として押し込んで……コホン、従姉妹の名前で推薦しておきました」
「ですからさらっと『詐称』の告白をしないでくださいと……。
いや、お手数をおかけしておいてアレですけど、さすがに今の経済力で高校に通うのは……って、『迷宮科』ですか?」
聞き覚えのない学科に、思わず首を傾げてしまう。
「ええ、特待生でしたら授業料などもかかりませんし。
迷宮科でしたら学校行事に参加する必要もありませんので。
学校行事以外は月に数回の登校だけですから、どうにかなると思いますよ?」
「それもう学校の意味がないんじゃ……」
「もっとも、その代わりと言ってはなんですが。
週に三日以上は私に会いに来る……ではなくて、『実習用ダンジョン』に通う必要がありますが。
ご存じの通り、大阪ではここ、センニチ・ダンジョンになりますので」
……なんだろうこの、外堀を着実に埋められていってるような感覚は。
「そうですね、それならどうにかなりそう――いえ、それもこれも、一度ダンジョンに入ってみてからの話になりますけど」
そう、許可証が発行されたからと言って、俺が倒せる魔物がいなければ何の意味もないのだ。




