第06話 ダンジョンモールと大迷宮時代! その1
「では、こちらの手続きが終わり次第、館内アナウンスにてお呼び出しいたしますので。それまでは施設の見学など、自由にしていてくださいね?」
軽く会釈を残して部屋を出ていく中務さん。
厄介事を押し付けたうえ、自分だけ遊んでるようで少し気が引けるが……せっかくなので、モール内をぶらぶらしてみることにした。
もっとも、館内の店舗はどれもダンジョン関連に偏っているのから、時間を潰せるような場所は限られていそうだけど。
――というわけで、ここからは『センニチ・ダンジョンモール』のご案内!
まず中央に『ドン!』と鎮座しているのが、この施設のメインである『ダンジョンドーム』。
ダンジョンの入り口を取り囲む、いわば最前線にして最終防衛ラインとなる防御施設――らしい。
説明が曖昧すぎる?
だって、パンフレットにも「防衛上の理由により詳細非公開」って書いてあるんだもん……。
俺だって気にはなってるんだよ?
ダンジョンドームをぐるりと囲むように広がっているのが、『迷宮管理局』が運営する『ダンジョンモール』の本体。
俺の入ってきた南側の入り口が『メインゲート』で、各種窓口や案内所が並ぶ『お役所』っぽいゾーンだな。
人の出入りが最も多く、登録や申請といった事務的手続き関連はすべてここだけで完了出来る。
もちろん、窓口や受付に限らず、この施設全体が年中無休の二十四時間営だ。
変わって西側は『歓楽街』のようなエリア。
飲食店やホテル、フードコートにイベントスペースなどなどが集まっている。
探索者以外の一般人も利用できるらしいが……異世界で言うところの『冒険者ギルドの酒場』みたいな雰囲気だし、わざわざ荒くれ者の隣で飯食う物好きもそう多くはないだろう。
施設の中には無料のトレーニングスペースや資料室なんかもあるので、うちの近所にあれば、毎日通いたいくらいの場所なんだけどねぇ。
一方、東側は探索者専用エリア。
迷宮から持ち出されたアイテムの買い取り所や、装備品の販売・レンタルショップが軒を連ねている。
基本的に『武器・防具のモール外持ち出し』は禁止されているため、装備品の預かり所やロッカールームもこの区画だな。
そして最後に北側。
ここは迷宮管理局のオフィスや倉庫が集まる区画で、一般人どころか、普通の探索者だって立ち入ることだってまずないらしい。
よほどのトラブルや特別な用件で呼び出されない限りは縁のない場所みたいなので、俺もお世話にならないように気をつけないと……。
そんなこんなで、俺が訪れたのは西側エリア。
食い物屋に関してはどこもここも結構なお値段がするのでとても入れない、トレーニングルームで運動すると腹が減りそうなので今日はパス。
つまり、消去法で資料室一択なわけだが。
いったい何がどうなってダンジョンなんてものが地球上に存在するのかも気になるし。……まぁ最初に読むのは中務さんに貰った資料なんだけどな!
てことでいきなり始まるこの世界の歴史の授業。
事の起こり――地球上で初めて『ダンジョン』が確認されたのは十九世紀前半、1825年のこと。
アメリカなら南北戦争の少し前。
ヨーロッパならナポレオンが島流しにあった少し後。
日本なら……なんだろう? 天保の大飢饉のころかな?
始まりの場所は諸説あるらしいが、一般的にはイギリスのソールズベリー地方となっている。
いや、どこだよそれ……どうやらストーンヘンジで有名な場所らしい。
ちなみに起源に『諸説ある』理由は1990年代に某国が、
『我々の国こそダンジョンが一番最初に見つかった国である!
そもそも我が国にある三千年前の遺跡の壁画では――ウンタラカンタラ。
最近発見された歴史的に価値のあるこの資料では――ウンタラカンタラ』
などと意味のわからないことを言い張っているからだとか。
それ、仮に世界で認められて何か喜べることがあるのか?
下手したら管理責任を問われ、賠償金を支払えと言われかねない気がするけど……と、話が逸れたのでダンジョンの話に戻る。
そんな、いつの間に(前兆として各地で大きな地震が起こった記録があるみたいだが)あちらこちらと、世界中で発見されるようになったダンジョン。
穴があったら入れ――入りたい。
そう思う人間がそれなりの数いたみたいで。
早い国では発見数日後に、調査のための軍隊を派遣。
ダンジョン内部で未確認の生物を発見。
今の時代なら対応も変わってくるだろうが、そこは白人至上主義の1800年代の欧米諸国。
『醜い汚物は消毒だ!!』
と言わんばかりに、戦闘を開始するも……銃器による攻撃がほとんど効かず、逆に軍人に大量の戦死者が出たとか。
ていうか魔物に鉄砲の弾って効果無いの?
異世界では弓矢ですら普通に刺さったのに?
ああ、こっちでも弓矢は有効なのか。
さらに外に出てきた魔物には銃も大砲も効くと。
……いったいどういう理屈だよそれ!?
どうやら魔力がウンタラカンタラらしい。
その他にもなんやかやあったみたいだけど、今の俺には関係無さそうなので割愛する。
だって自分が産まれてない時代の、他国で起こった戦争の話とか知ったこっちゃ無いし……。
てことで1800年代前半の日本。
幕末に近くはあるが、まだペリーも来航(1853年)していないころ。
運が良いのか悪いのか。
先進諸国ではフリントロックだ、マスケットだ、パーカッションだと銃が進化する中で、刃物を振り回すことに長けたヤベェ連中が大量にいた時代である。
他所の国では、
『ふえぇぇぇ……鉄砲が効かないよぅ……』
となってる中で、
『キエェェェェエェェッ!!』(有無を言わさず斬りかかる)
……偶然にも効率的に魔物を狩る正解にたどり着いていた。
まぁそれでも『俺は強敵に会いにゆく!』と、後先考えずに深く深くダンジョンを潜っていくような連中もそれなりにいたので、死亡率はそこそこ高かったらしいが。
それでも、無茶をしない人たちは他国の数倍は効率の良いダンジョン探索が出来ていたとのこと。
「偶然というか、タイミングが良かったと言うか」
もちろん、そこから始まるのは世界的な『大迷宮時代』!
ダンジョンから持ち帰られる魔物の素材、や奇跡の薬。
ダンジョンを採掘することで得られる鉄や銅などの資源。
そして、見たこともない鉱物の数々……。
それらの品々の研究もどんどん進んでいき――とくに魔石からエネルギーを取り出す方法の発見で列強諸国の戦略が大きく変化していくことになるのだが……小難しい話になるので割愛する。




