サクラサク 第14話 ちょっとこの学校と俺の間で性格の不一致が露見いたしましたので……
担任の一言で無駄に凹まされたり、異世界で手に入れたギフトがそのまま――むしろバージョンアップして使えることが発覚したり、美少女の手作り弁当を貰ったりと色々とあったダンジョン探索初日。
そんな俺の目下の問題は『倉庫』を圧迫してる大量在庫の『スライムローションの小瓶』なわけだが……。
このまま『倉庫』に入れたままにしておくと間違いなく明日、スライムローションで満杯になってしまうのでとりあえず小瓶を倉庫から全部取り出して段ボールに詰めて押し入れに押し込んでおくことに。
「……いや、ちょっと待て。
倉庫の拡張って【マス目の拡張】と【1マスの保存重量(容量)の拡張】の二つがあったよな?
これってもし……例えば『五キロの重さの物』を倉庫に入れようとしたらどうなるんだろう?」
ものは試しと、目の前にある小さなテーブルを倉庫に入れてみることに。
「……入ったな」
重量はおおよそ3500グラムらしく、四マスの消費で倉庫に保管できた。
「これ……箱に詰めた物はどういう認識になるんだろう?」
続いて段ボールに持ち帰った魔石(113個)をポイポイと放り込み蓋をして倉庫に入れてみる。
「おお! 箱の重量込みで重さは1500グラムで二マスの消費!」
箱に詰めれば消費マスを圧縮できる裏技(?)発見!
魔石一つの重量は10グラムくらいか。
「ローションも同じように段ボールに詰め込んで……
綺麗に並べれば一箱三百本くらいは入りそうだな」
こちらは一本の重さが50グラムぐらいあるらしく131本で八マスの消費。
それでも一品一マスの消費から比べれば物凄い圧縮率である!
これで明日からも無駄に袋を持ち歩かなくとも……いや、ローションを売るならその分は持ち運び出来る入れ物は必要だけれども!
木曜に引き続き金曜土曜も探索者実習は続く。
もっとも俺以外はまだ入口付近で屯して出たり入ったりを繰り返しているだけだったが。
他の人間が居ないだだっ広い洞窟の中を走り回りスライム退治、むしろスライム殲滅を繰り返したおかげで両日共に討伐数500匹オーバーを達成!
もっとも成長したのは『マス目の拡張 200マス→500マス』と『重量の拡張 1キロ→5キロ』の二つだけ。各魔石の消費が『500容量』だったから仕方ない……。
ああ、レベルは5まで上がったよ! というか、スライムでは5以上には上げられないみたいだ。
まぁ雑魚敵だからね? スライム倒してウン百年で最強に至るとか無理らしい。
スライムローションの小瓶はしばらく二十本ずつの売却で固定することに。
日給一万六千円はそれなりの高給取りではあるんだけど毎日百本以上が倉庫の肥やしになっている現状を早めに改善したいよな……。
ちなみに買い取られたローションの行き先だが中身は叡智なお店で使用される……などということはなく。
だって50ミリリットルの小瓶で買取額が800円だからね? 普通のローションと比べると高すぎる。
なら一体何に使うのか? と言うと美容関連。
スライム成分がなんやかやで美肌&アンチエイジング効果を発揮するらしい。
瓶は瓶で魔道具の素材に使えるらしいんだけど……詳しく知りたければ『スライム 瓶』でCCって欲しい。
うん、売ったものの使い道とかどうでもいい話だな。
そんな感じで、わりと順風満帆なスタートを切れた学園生活。
帰ってきた直ぐなんて食うにも困りそうな大惨事だったからな?
探索者実習は週末、木金土の三日間だけ。日曜休日で月火水は通常授業に出ないといけないわけなのだが。
もちろん学生なんだからあたりまえの話なんだけど……中身二十五歳の俺からすると非常に無駄に感じてしまう。
というか、もっと魔石が稼ぎてぇんだよ! 異世界商店に大量に貢ぎたいんだよ!
だから週明けの月曜日、朝のホームルームの後に女教師二十四歳を捕まえて
「担任! ちょっと相談があるんですけど!」
「どうしてあなたはいつまでも先生じゃなく担任と呼ぶのかな……あっ! もしかして特別感を出したいとか?
それで真紅璃くん、朝から真剣な顔をしてどうかしたのかな?」
「実はですね、ちょっとこの学校と俺の間で性格の不一致が露見いたしましたので……
そろそろ距離を置きたいなと思ってるんですけど」
「色々と先生のトラウマを呼び起こしますので距離を置くとか、他に気になる人ができたとか、一緒に居すぎて女として見れないとか言うの止めてもらっていいかな?
あー……毎年何人かいるんだよねぇ……ダンジョンカードを手に入れたらそのまま探索者になろうとする子が。
ちなみにですけど、もしもこの学校……迷宮科を長期間の休学及び退学した際にはカードを持っていてもダンジョンに入れなくなるからね?
そしてその後来る警告を無視すると『十年間の探索者活動停止』っていうペナルティまでオマケに付きます」
なん……だと?
「……それは担任が俺と一緒に居たい、あわよくば(性的に)食ってやろうと思って口からでまかせを言っているのではなく?」
「そういう事は先生の名前を覚えてから言おうね?」
「はぁ……わかりました。
もう少しこのまま学園生活を満喫してみようと思います」
「はい、頑張ってください。
後、もしも本気で先生とお付き合いしたくて我慢できなくなった場合は学校内で伝えるのではなく先生個人の連絡先にお願いするわね?」
マジかー、退学するとペナルティまであるのかー……。トボトボとした足取りで席に戻る俺。
ま、まぁ物は考えようだし? 右を向いても女子高生、左を向いても女子高生、制服姿の女子高生。
それがなんと……今なら無料で! それもお巡りさんに注意されることもなく眺め放題だもんな?
つまり、『学校に通ってる』じゃなく『制服の女の子がいるんだからここはコンカフェ、それも無料で隣に女の子が座ってくれる大盤振る舞いのお店!』だと思えば……。
「いや、無いな。だってムラムラさせるだけさせておいてお触りは厳禁だし……ルールの厳しいセクキャバかよ!」
うん? どうして隣で鞄から机に教科書を移してる……名も知らぬ女子は俺の事をそんな蔑んだ瞳で見つめてるのかな?
まさか、俺の心を覗き見してたとか!?
「この女子……さては思考を読み取ることが出来る能力者だな!?」
「違うわよっ! 普通にあんたの声が聞こえてきただけよっ!」
なるほど。……なんかこう、隣がこんな気持ち悪いおっさんでごめんね?
結構心にくるからギギギっと机を離すのは勘弁してもらえないかな?
チッ、担任のせいで隣の女子に物理的に距離を置かれちゃったじゃねぇか!
「はぁ……隣の席がネコ耳とかイヌ耳の心優しい美少女だったらよかったのに」
「何なのこいつ……ため息をつきたいのはコッチなんだけど!?」
どうやらまた俺のほとばしる熱い情熱が口から出てしまったようだ。
「うるさくしてごめんよ、知らない隣の人」
「先週末三日間も同じグループで行動してたわよね!?
私たちが苦しんでる間、あんたは一人楽しそうに自由行動してたけど!」
「えっ!? マジでっ!?
……まぁ冗談はこれくらいにして、そろそろ一時間目だししずかにしよ?」
「冗談だって言うなら私の名前を言ってみなさいよ!」
何なのこの子? 世紀末の弟より優れていない兄なの?
閑話・ ~昼休みの一コマ~
さて、そんなハートフルで心ヒエヒエなイベントもあった週初め。
友達の居ない俺なのに朝だけではなく昼休みにまでイベントが発生する。
「……いや、明石さんは何となく期待してたけれども!
どうしてお前まで俺の机に来るんだよ!
あまつさえ二つ持った包の一つを差し出すとかどういう了見なんだよ!」
そう、木曜日に余計な家庭事情を明石さんに話してしまった俺。
翌金曜、そして土曜にも「……お昼十二時になったら休憩室に集合、良いわね?」と彼女からの命令。手作りのお弁当を再度頂くことになったわけだが。
もちろん「そこまで明石さんに施してもらう謂れは無いんだけど……もしかして俺の体が目的か!?」と丁寧にお断りはしたんだけどね? 俺が親戚連中を見るような目(つまり台所の排水口のヌメリを見るような目で)睨まれたので遠慮なく頂いた。
だから今日ももしかしたら持ってきてくれるかも? と、淡い期待をして……もちろん無かった時の為にレトルトカレーを鞄に忍ばせてきたのだが。
「だってほら、君ってここ最近明石さんとお昼ご飯食べてたじゃない?
でもそれは違うと思うんだよ? だって君の友人は僕じゃないか?」
「まず久堂と俺は友人ではない……
いや、なかんずく友人だったとしてもはにかんだ顔で弁当らしきモノを差し出される意味がわからない」
「だってほら、明石さんのお弁当って色味が茶色メインで女子っぽくないじゃない? 見た感じ全部冷凍食品だったし。
だからここは料理……男子を自認する僕が本当の手作り弁当ってものを見せてあげようと思ってさ」
「冷静になれ久堂。普通の男子高校生はそんな気持ちは絶対に浮かんでこないんだ。
それにもしも逆の立場だったとして、お前なら学校一の美少女の弁当といけ好かないイケメンの弁当……どっちを選ぶ?」
「もちろん美味しい方だけど?」
「……一理あるな」
本人が言うだけのことはあり、久堂の弁当――チャーハン、エビマヨ、春巻き、ハムスイコーなどが入った中華弁当は店で出されても納得の旨さだった。
「……いや、確かに旨いけれども!
お前の弁当もたいがい茶色いじゃねぇか!
あと、やっぱり気持ち的に明石さんの弁当のほうが気持ちがこもってる気がして嬉しいわ!」
「……べっ、別に気持ちなんて何も込めては居ないのだけれど!?」
相変わらずツンデレに見えて本音を言っているだけの明石さんだった。