サクラサク 第13話 探索者、思ってたより儲かりそう?
スライムを三匹退治して走って移動……。
スライムを四匹退治して走って移動……。
スライムを三匹退治して走って移動……。
一昔前のMMOをプレイしているように延々と続くスライム狩り。
こういう頭を使わない単純作業って案外嫌いじゃない俺。
何よりもドロップアイテムっていう目に見える成果があるのがとても良い。
昼飯も忘れ、ダンジョン内を東奔西走することおおよそ六時間。
そろそろ担任に言われている本日の活動限界時間(十六時)なので今日の所は素直に切り上げることに。
ちなみに本日のリザルト(戦果)は『魔石(十位) ×413個』と『スライムローションの小瓶 ×141本』である。
もっとも魔石の方は倉庫の『一段階目の拡張(50枠→100枠)に100個』、『二段階目の拡張(100枠→200枠)に200個』の合計300個を使ったので残りは113個なのだが。
てかさ、必要な魔石の数が倉庫の容量よりも多い上に追加ドロップである小瓶まであるもんだから途中から常時倉庫がパンパンと言う……仕方なく魔石だけジャージのポケットというポケットに詰め込むようにしてたんだけど走りにくいのなんの……。
次からはリュックサックとかナップザックとかバックパックは必須だな。
そんな、問題点が多少はあったが得る物も多かった俺にとっての初ダンジョン。
スロープの下ではまだ土気色の顔をした頑張り屋な学生さんが……数人見知った顔が居るな。
「久堂と明石さんじゃん。
こんな時間ギリギリまで頑張ってるとか精が出るな」
「……」「……」
ちらりとこちらに目を向けた二人。……いや、何も無いのかよ! どうやら軽口を返す気力もないらしい。
疲れている所を構われるとか殺意しか感じないだろうと思うのでそのまま放置して外に出る。
とりあえず喉が渇いた……しかし、売店で飲み物を買うような余裕はないので朝とは違い、大人――教師その他はまばらにしか居なくなった休憩室に設置されているウォーターサーバーでタダ水をがぶ飲みする俺。
「……そう言えば、施設内にドロップアイテムの買い取り所があったよな。
一階層の、誰でも倒せるスライムから大量に拾えるものだし二束三文にしかならないだろうけど邪魔になるだけだしスライムローションだけ引き取ってもらうか」
魔石は売らないのか? そっちはほら、異世界商店での買い物とか強化に使うって言った……いや、言ってなかったな。
倉庫がすぐに一杯になるから拡張のボタンを押したら『魔石が――容量必要です』って出てさ。
ちなみに『魔石十位』は一個で一容量らしい。
もう一つの目標である【取引先の開拓】に必要な魔石容量は最低でも『1000』だからしばらくはお預けだな。
それはさておき、今はローションの売却である。
もちろん今日は入れ物なんて何も持ってないので手で持てる数……十本だけトイレで『カバン』から取り出す。
通路にホログラムのように浮かび上がっている案内に従いやってきたのは
「買い取り所って言うか役所の受付って感じだな」
一番から十番までナンバーの付いた、スペースを広く取られたカウンター。
もっとも、その向こうに立っている受付嬢? 全員かなりのルックスレベルのお姉さんばかりなのだが。
とりあえずどこに並んでも同じだろうし? 一番おっぱいの大きいお姉さんの前に進んでいく俺。どこからか『チッ』と舌打ちの音が聞こえたが……生理現象のようなものだから仕方ないね?
「いらっしゃいませ。本日はドロップアイテムのお引き取りでよろしいでしょうか?」
笑顔のまま綺麗に三十度ほど腰を曲げてお辞儀してくれるお姉さん。
「おおう……ジャージ姿の学生相手ですのにずいぶんと丁寧な対応ですね?」
「ふふっ、お客様は神様ではございませんがアイテムの出てくる宝箱ですから。
それにお客様はこちらに初めて訪れる方……つまり迷宮課の新入生。
その新入生がまさかの初日にアイテムをこちらに持ち込む……もうこれは宝箱通り越して金の卵を生むガチョウではないでしょうか?」
「ぶっちゃけたなこの人!?
ていうか受付の人って学生の顔を全員覚えてるんですか?」
「いえ、ジャージの色で判断しております」
ちょっと尊敬の眼差しを向けてしまった俺に謝れ。
「それで、本日のお引き取りはそちらのスライムローションの小瓶でよろしいでしょうか?」
「あっはい、お願いします」
「確認作業がございますので少々お待ち下さい」と、メガネ掛けて一本ずつチェックしていくお姉さん。
「……無開封のスライムローションで間違いございません。
こちらお引き取り金額が現在固定されているアイテムとなっており買い取り単価が一本八百円、十本で八千円。
なお、お渡しの現金はダンジョン税が引かれた無課税の収入となります」
一本八百円? えっ? そんなに高く売れるの?
「ちなみにですけど、スライムがドロップするちっさい魔石はいかほどでしょう?」
「スライムですと『十位魔石』となりますのでお引き取りはお一つ200円となります」
「なん……だと……?」
つまり、俺は今日一日スライムをチクチク倒してただけで二十万円くらい稼いだってこと!?
「あー……確かに入手する苦労を考えますとかなりお安く感じてしまいますよね?
確か、スライムですと魔石のドロップ率は二十%ほど、スライムローションに関しましては五%……
えっ? ちょっと待って!? スライムローションが十本!?
学生さん、今日一日で一体何匹スライムを倒したんですか!?」
「い、いっぱい頑張りました!」
少なくともそのドロップ率でも問題が無い程度のスライムを倒したのは事実だし?
いや、そんなことよりも魔石のドロップ率二十%ってどういうことだよ? 百%じゃないのかよ?
異世界商店、もしかしたらドロップ率の操作とかしてるヤベェやつかもしれない件。
こちらの世界のダンジョンに関して一般常識が欠落している俺。
これ以上話しているとボロを出してしまう未来しか見えないので色々と話したそうな、こちらをロックオンした受付嬢から八千円を受取りそそくさとその場を後にする。
てか、十本で騒ぎになるとか……スライムローションの残りどうしよう?
閑話 ~帰りのバスの中~
一日中ダンジョンの中を走り回っていた俺、そんなお疲れマックスで座席にもたれかかる俺の隣に座るのは
「真紅璃くん、バスの中が物凄くカレー臭いのだけれど?」
「だってほら、今日は昼飯食ってる時間がなくてさ」
往時と同じ女の子、つまり明石さんである。
「つまりあなたは一人だけ魔力酔いもせず自由を満喫するのに忙しかったのでお昼ご飯を抜いたので今食べて……飲んでいると?
その具材など一切入っていない○○スーパーのレトルトカレーにストローを差したものがお昼ご飯だと?
他所様の食事に口を出すのはどうかと思うのだけれど、さすがに食事は固形物にしなさいよ……」
「あー、悪い悪い。確かに隣でカレーの匂いがしてたら自分も食いたくなるもんな?
ほら、俺って十五歳の春に両親ともに交通事故で亡くなったから今って一人暮らしじゃん?
その上遺産やなんやかやは親戚を名乗るゴミムシにむしり取られてギリギリの生活してるじゃん?
だからほら、ゼリー飲料よりも量があってそれなりに栄養もありそうで手間がかからず安い食べ物が思いつかなくてさ」
「真紅璃くん、それはバスでたまたま隣に座った相手にするような話ではないわ?
年頃の男子のアレを拗らせて奇行に走った変人を注意しただけの私が困ってしまうような重い話は……
と言うか、十五歳の春ってこのひと月くらいの話ではないのかしら!?
さすがにご両親が亡くなったばかりなのにその態度は達観し過ぎではないかしら?」
まぁ時間軸的にはそうなんだけど……時間自体は十年くらい経ってるからなぁ。
そしてバスを下りた後明石さんに
「べ、別にあなたのために用意したのではなく、お昼に体調が悪かったから食べられなかった残り物なんだからね?」
と、綺麗な巾着に入れられた弁当を差し出されたのだが。
何なんだよそのツンデレに見せかけた事実を並べただけは……。