第04話 「さすがに今の動画は提出出来ないんじゃ」
少しだけ時間は戻って『30層の階層主』に初挑戦した時のお話。
29層からの転移ゲートを潜った俺達の目の前に広がったのは――
「おお! 絶景かな絶景かな!」
「カズラさんってたまにおっさ……おばさん臭いですよね」
「お兄ちゃん、そこを言い直しても悪口は悪口だからね?」
地面はひび割れた乾いた地面。
削り取られたようにむき出しの岩肌をさらす小高い山。
遠くにはさらに高く、幾重にも重なる断崖が続いている。
「荒れ地というか、グランドキャニオンというか、エアーズロックというか」
足元でコロコロと転がる、枯れ草の塊はタンブルウイードって言うんだっけか?
「グランドキャニオンは米国、エアーズロックは豪国だったかな?
タンブルなんとかは知らないけど」
小首をかしげながらそう答えたのはアテナ。
「お兄ちゃんって非常識なくせに、そういう外国の話だけは妙に詳しいよね?」
「失礼な! 誰が非常識か!」
「えっ? 君って自分が非常識だって自覚なかったの?」
クッ、すぐにでも否定したいところだけど。
さすがに自分が『異世界帰りでパラレルワールド出身です!』とも言えないからなぁ……。
それでも少し濁した形で言い返す。
「いいかアテナ。
俺は非常識なんじゃない。
(こっちの世界の)常識を知らないだけなんだ」
「それって一体どう違うのさ?」
他人から見たら大差ないけれども!
「それにしても、見た目通り空気がえらく乾燥してるわね」
少し嫌そうな表情になったのはシズカさん。
彼女の言う通り吹き付けるその風は、照りつけるような日差しも相まって肌を刺すようで、呼吸をするだけで喉の奥がひりつく感覚すらあった。
「たしかに、一時間もすれば髪はゴワゴワになって日焼けしてそうだな」
「……夕霧くん。
帰ったらいつもより念入りに、お風呂でケアをしてもらってもいいかしら?」
「それじゃあ久しぶりに美容整形入浴剤を使おうか。
あっ、ショウコさんも今日は一緒に入りますよね?
もちろんお風呂上がりはマッサージも付けますよ?」
「ふふっ、それは楽しみですね」
湯船に広がる黒髪と金髪。
それらが俺の体に絡みつくさまを妄想して思わず顔が緩む――
「お兄ちゃんはどうしてそこでカズのことを誘わないのかな? かな?」
「の○太。
残念ながらうちの風呂は家族専用なんだ」
「カズも婚約者なんだけど!?
家族なんだけど!?
ていうか、の○太って誰なのよ!」
プクッと頬を膨らませるカズラさん。
「いいもん!!
そんな意地悪するならお姉様に、
『私たち二人、仲間外れにされてるのよ……よよよ』
って言いつけてやるんだから!」
「アヤカさんの家には週二くらいでマッサージに通ってるんですけどね?」
「なにそれ聞いてない」
絶句するカズラさんと、
「仲間外れって意味では僕が一番なんじゃ……」
ぽつりと呟くアテナ。
そもそもお前は乳首を摘んだだけの関係しかないからね?
いやそれどんな関係
「……ていうか飛んで来てるな」
「そりゃあ翼があるんだから飛ぶでしょう?」
視線の先、連なる山の向こうからこちらに向かってくる小な影。
そうだね。
ここは海外の景勝地じゃなくて30層のボス部屋だもんね?
「たしかに階層主がワイバーンだってのは聞いてましたけれども!
でもほら、そういう奴って最初は巣でうずくまってたりしてさ!
ある程度のダメージを受けたら飛ぶのがお約束じゃん!」
「そんなお約束初めて聞いたのだけれど……」
「いや、明石さんも柏木くんも何を呑気にしてるのさ!?
ワイバーンがこっちに向かってきてるんだよ!?
しかも三匹もいるし!!」
呑気も何も、最初から相手が何なのかは最初から分かってたし。
……もっとも。
「カズラ。ボスが複数体で出現するなんて聞いたことがありますか?」
「見たことも聞いたこともないわね」
その数はイレギュラーなモノだったらしいが。
あたふたと一人でパニクるアテナと、各々の武器を握り直して迎撃体制を取る他の面々。
まっすぐこちらに向かってくるかと思われた三匹のワイバーンは、こちらを囲むように大きく旋回している。
「あれ? 思ったより賢い?」
……ていうかこの場所。
それなりに広くはあるんだけど、四方が小高い崖に囲まれてるんだよ。
言い換えるならすり鉢状って感じかな?
そこに、まるで配置されたかのようにあちらこちらと転がる倒木。
パッと見では不毛の大地にしか見えないのに、そこかしこに生えている枯れ草。
トドメには地面を上を強風に煽られ、ころころと転がってるタンブルウイード。
「まるで(周瑜と孔明がお互いの手に『火』って書いて見せ合いそうな)将棋(地形)だな」
「君は一体何を言ってるのかな!?」
いや、なんとなく。
「まぁ相手はドラゴンじゃなくてワイバーンだし、火を吐いたりとかはしない――」
「夕霧さん、ワイバーンは口から火の玉を飛ばしてきますよ?」
「くるんだ!?」
とりあえず火傷をしたり、コントみたいに髪をチリチリにされるのは嫌なので全員で、全力で魔法で撃ち落とした。
「ていうか、何気にまともに魔法で魔物を倒したのって今回が初めてじゃね?」
「言われてみればそうね」
「いやいやいや!!
おかしいおかしい!
二人してその感想はおかしいから!!
30層のボスって探索者の鬼門って言われてるんだけど!?
それなのにこんな簡単に!!
上を向いて魔法を撃つだけで倒すとかおかしすぎるよね!?」
「原西さん、そもそもそれを言うなら『魔法が使える』事自体がおかしいのだけれど」
「ていうかお兄ちゃん。
さすがに今の戦闘の動画は管理局に提出出来ないんじゃないかな?」
「……確かに」
後日ドヴォ親方に『デカい弩弓』を作ってもらい、それで撃ち落とした動画を提出した。
「ワイバーン、今回は一匹しか出てきませんでしたね?」
「そんなことよりワイバーンを一撃で撃ち落としちゃう武器って何なのさ!?」
「それこそ飛んでる奴なんだからさ。
翼さえ破れば落下してくるのは当たり前だろ?」
* * *
「……まぁその動画に関しましても『あの武器は一体何だ!?』と大騒ぎになっているみたいですが」
「カズのフランベルジュと同じで、当たった矢が爆発(落雷)したもんね?」
ケラケラと笑うカズラさんと困り顔のアヤカさん。
「葛、笑い事ではありませんからね?
あの討伐動画が本物かどうか、本部からの委託で確認した探索者から話が広がって六条の装備品販売部門が大変なことになってるんですからね?
……柏木さん。
ちなみに、あちらはうちで扱わせていただけたりとかは」
「んー、廉価版ならそのうち?」
「そ、そのうちですか。
……葛もおりますので何も無いと思いますが。
いえ、むしろ葛がいるからこそとも言えるのですが。
関東の大手ギルド――『草薙』や『建御名方』がどうにかして接触しようと動いているみたいなので十分にご注意くださいね?」




