第04話 情報収集と初めてのダンジョン! その1
ヒデヨシ書店からキタに向かって歩くこと三十分。
ようやく辿り着いたのは、ナンバの『拾玖堂』。
五階建てのデカい本屋ビルである。
家にしても、街並みにしても、そこに暮らす人間の雰囲気にしても。
俺の記憶にあるものと、細かいところはまったく違うのに、ところどころで見覚えのある店がある不思議。
地下鉄ナンバ駅を上がった交差点には、『高鳥屋』も『○×○×(マルカケ)』も普通に建ってるし……。
俺の知らないこの世界の常識――歴史、法律、風俗あたりが気になって仕方ないが、まずは予定通り、ダンジョンについて調べることから始める。
「ダンジョン……ダンジョン……あっ、あれか!」
それだけで普通の書店と同じくらいの広さのある店舗一階一番奥。
かなり広いスペースを取った『迷宮関連』コーナーを発見!
うん、たしかにあったんだけど……俺が想像してたのとぜんぜん違う。
「なんていうかさ。もっとこう、学術書的な? お硬い本が並んでると思ってたんだけど。
なんだこの『これであなたも迷わない! 関西オススメ迷宮案内』とかいう、頭の悪そうな雑誌は……」
あれ? ダンジョンって魔物が徘徊する魔窟だよね?
そんな、『週末だし、ちょっと潜りに行こっか?』みたいなノリで遊びに出かける場所じゃないよね?
週末というか終末、むしろ世紀末みたいなところだよね?
頭の上にクエスチョンマークを並べつつも、棚から一冊の本を手に取る。
「ふふっ、これはいい腹筋」
……違う、そうじゃない。
今は『お嫁さんにしたい探索者・三年連続ナンバーワン! かかかずのすべて』とかいうオビの付いた、いかがわしい写真集の話をしてる場合じゃないんだ。
……いや、それにしてもけしからん。実にけしからん。
これは家でじっくり『熟読』が必要ですねぇ。
でもお高いんでしょう? と、写真集を裏返し確認。
その値段、なんと5,800円! 本当に高かったでゴザル。
……お金が貯まったら、ちゃんと迎えに来てやるからな! いい子で待ってろよ!!
名残惜しさを我慢しつつそれを棚に戻し、都道府県別に並べられた迷宮案内の棚から『大阪版』を手にする。
「表紙が完全に旅行雑誌(る○ぶ)なんだよなぁ」
ページをめくって目次を確認。
どうやら大阪には、
『大阪城迷宮』
『戦日迷宮』
『大神山迷宮』
の、三つのダンジョンがあるらしく。
ダンジョンの難易度、そして現地までの交通情報から始まり――って、センニチ迷宮ってすぐそこじゃん! 徒歩五分もかからないじゃん!
ダンジョンってもっと郊外というか僻地にあるものだと思ってたんだけど。
異世界とは違い、地域密着型な立地に驚きながらそのさきを読み進め――
『彼と二人で! ドキドキ☆初めての魔物討伐』
『迷宮からすぐ! ランチの美味しいお店』
『がんばったあなたに! ご褒美ディナー』
『今日はお泊り! 夜景の綺麗なファッションホテル』
「なにこれ、内容が無いよう……」
得られた情報、『ダンジョンの場所』と『魔物がいるらしい』という二点だけ。
ダンジョンの情報を求めてる人間に飯屋情報とか必要ねぇんだよ!
冒険者なら寝る時もダンジョンの中で雑魚寝しろや!
手にした本を、思わず床に叩きつけ――てしまうと、さすがに買わされそうなのでグッと我慢。いや、それにしても内容がヒデェな……。
うん、きっとこれは現役探索者? 向けの本なんだろう。
しらんけど。
さすがにこれだけの情報じゃ一時間ちかく歩いてきたかいが無い。
あれやこれやととっかえひっかえ、最後に手に取ったのが『迷宮の歩き方』。
「なんだよ! ちゃんと初心者向けっぽいハウツー本もあるんじゃん!」
そうだよ! 俺が知りたかったのはこういうことなんだよ!
ペラペラと読み飛ばしながらも、必要そうな情報を読み込んでいく。
・探索者登録の方法
各地ダンジョンに併設されている『迷宮管理局』の支部で行う。
対象は十五歳以上の日本国籍を持つ健康な人間で、登録には簡単な“適性検査”を受ける必要がある。
※身分証の提示が必須。
「……迷宮管理局って、要するに国家運営の冒険者ギルドみたいなもんか?
それにしても、(グラビア含めて)どの本でも『冒険者』じゃなくて『探索者』って呼ばれてるんだな」
・探索者ランク
登録後に発行される磁気カード、及び探索者タグに刻まれた星(☆)の数でおおよその個人の強さを確認するためのシステム。
登録直後の『無星』から始まり、十階・二十階と、十層ごとに配置された『強敵』を初回討伐するたび星が一つずつ追加される。
ちなみに無星と星一は鉄製タグで『アイアン級』。
星二・星三が銅製で『ブロンズ級』。
星四・星五が銀製で『シルバー級』と呼ばれるらしい。
・迷宮ランク
全国に点在する迷宮それぞれの危険度を示す区分。
ダンジョンの第一階層に出現する『魔物の強さ』を基準にする。
現状では『無星・星一・星二・星三』の四段階に分類されている。
探索者ランクが『迷宮ランクと同等か上』でなければ入場出来ない。
「いやそれ、近くに無星のダンジョンが無かったら詰んじゃう――ああ、センニチ迷宮が無星なのか」
他の二つ、オオカミヤマ迷宮は星一、オオサカジョウ迷宮は星二に分類されてるみたいだ。
「てことでセンニチダンジョンナウ!」
うん? 本屋?
いやほら、立ち読みしながらブツブツと独り言を呟いてたら大人しそうなお姉さんに怯えた顔で、
「ほ、ほかのおきゃくしゃまのご迷惑になり申すので……」
って注意されてさ。
回りを確認したらそこそこいたたまれない空気になってたから、太陽のような笑顔を彼女に返して、そのまま退散してきちゃった☆
もちろん本は一冊も買ってはこなかったんだけどな!




