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サクラサク 第10話 「おめでとう!」

「もちろん今日お姉さんに初めて手ほどきしてもらっている『ダンジョン初心者チェリーボーイ』ですけど何か問題でも?

 というよりさっきから一体何の話なんです?

 もしかして会話を長引かせて『ダンジョン探索プレイ』時間の短縮とか狙ってます?

 とっととシャワーに行きたいんですけど?」


「もしかしてこの子、私のことデリバリー的な人だと思ってるのかな!?

 数十万、数百万人に一人の割合で魔力耐性のある人がいると話には聞いたことがあるけど。

 まさか担当の学生さんで見ることが出来るなんて……

 じゃなくてさ! ちょこっと回りのお友達のことを見てごらん?」


「それはアレですかね?

 一人余ってたからこのグループに参加させてもらってるだけのおまけ、むしろお邪魔虫的存在。

 友人なんて一人も居ないこの俺のことをディスってる感じのアレですかね?

 いいでしょう、その安い挑発に乗って差し上げましょう。

 僕は! 友達が! 居ない!」


「うわぁ、面倒くさい子だなー……

 友達じゃなくてもいいから! 同じ班の子を見回してみようね?」


「班員ですか? そうですね……

 明石さんがちょっと苦しそうな顔をしてるのが心配です。

 男前が辛そうな顔をしてるのでこころもちいい気味です。

 狼ヤンキーはいつもどおりの無表情……いや、体が小刻みに震えてるような?

 あと隣の人の苦しみ方が独特でちょっとエロいと思いました」


「友達ではなくともクラスメイトではあるのよね? 何なのその冷静なレビューは……

 きみは感じていないみたいだけど、初めてダンジョンに入った人は魔力に当てられて頭の中がグワングワンなっちゃうの! だからあれが正しい反応なの!

 というかバスを下りた後先生が説明してたと思うんだけど……その時みんなにエチケット袋を大量に配ってたよね?

 あと、苦しそうにしてる女の子をエロいと感じてるきみにお姉さんドン引きだよ!」


「あー……俺、その時トイレで一人リバースしてましたので。

 その説明は聞いてないです……」


 わ、わざと聞かなかったんじゃなくて事故みたいなものなんだからねっ!

 ということで、本当にこのままここにいると貰いゲ○待ったなしなので『某氏』改め『嬢』に許可を貰って上の休憩室で待たせてもらう事に。

 その空間全体から視覚、嗅覚、聴覚に刺激を与えてくるんだから仕方ない……もちろん本当に苦しいのは魔力酔いしてる学生さんたちだから申し訳ない気持ちはあるんだけどさ。


 そして、そんな俺が向かった休憩室(広さで言えば部屋ではなくエントランスとかホールと呼べるほどの広さがあるが)ではうちの担任含め大勢の大人、他所の学校も含めた教師が歓談中。

 そんな中、ジャージ姿に腰に剣を差した学生が入っていったら当然注目を集めるわけで。


「あれ? 真紅璃くん、えらく早くダンジョンから出てきた……ああ、そう言えばダンジョンに入る前から乗り物酔いでダウンしてたもんね。

 でも、それにしては顔色も悪く無さそうだし……何か連絡事項でもあったのかな?」


「いえ、別に不都合とか不具合があったわけじゃなくて、と言いますか適合しちゃったと言いますか。

 魔力酔いしない体質と判明しましたので担当探索者の方の許可を貰って戻ってきました」


 担任にそう伝えるとともに大きくザワつく休憩室。


「えっ? それは……本当に? 気合を入れて我慢したとか見栄を張っているとかじゃなく?

 既にダンジョンに入ったことがあって体を慣らしているとかでもなく? 本当に魔力酔いの症状が出なかったの?」


「自分には無駄な見栄を張って悪目立ちするメリットが無いですからそんなことしませんけど……

 というか、探索者の方も言ってましたけど勝手に入れるダンジョンとかあるんです?」


 もしもあるのなら是非教えて欲しいんだけど?


「少なくとも日本国内にあるダンジョンは全て国が厳重に管理してるからこっそりと入る事なんて出来ないんだけどね?

 ほら、一応の確認と言うか……ってそうじゃなくて!

 真紅璃くん! 凄いじゃない! それが本当ならうちの学校始まって以来の快挙なんだけど!?」


 なんだろう……この担任というか回りの大人と俺の間の温度差。

 たまたま魔力酔いしない体質だったというか、俺の場合は異世界で魔力に慣れたってだけの話だよね?

 他の人も時間さえかければ改善される程度のモノみたいだし。

 そこまで興奮する要素が一体どこにあるんだろう?


「戻ってきたすぐで申し訳ないけど!

 先生と一緒にもう一度ダンジョンに入ってもらってもいいかな? かな?」


「はぁ、もちろんかまいませんけど」


 やたらとハイテンションな担任と二人……ではなく、顔も知らない推定教師、そしてこの施設の職員らしき大人まで引き連れて再びダンジョンのスロープをくぐる事に。


「うっ……さっきよりも酸っぱい臭いが増してる」


「うっ……この季節の風物詩とはいえ……キツイわよね。

 それはそうと、真紅璃くん! どう?

 頭を鷲掴みにされて、そのままシェイクされるような感覚は感じない?」


「えっ? ここにいるみんなそんな状態なんですか!?

 外因による不快感以外の体調変化はこれと言って感じないですね」


 そりゃみんな青い顔を通り越して紫色した顔にもなるわ……。


「外因……確かに惨憺たる状況だものね。

 とりあえず少し奥に移動してみましょうか?」


「そうですね、出来ればお願いしたいです」


 ぞろぞろと大人を従えダンジョンの中を進む俺御一行。

 学生は全員グロッキー状態でこちらを気にするような気力も無さそうだが、指導員たる探索者の面々から集まる視線が突き刺さるぜ……。

 頻繁に数十人の人間が出入りしているダンジョン入口から少し離れるとそこはまるで別世界――などと言うことはなく。


「ダンジョン……これ、本当にダンジョンなんですよね?

 不自然な自然洞って言うか規模のやたらと大きな防空壕と言うか」


 横幅も広いし天井も高いトンネル。


「確かに見た目はそんな感じよね。

 光源が無いのにある程度先まで見渡せる不思議空間じゃなければ放置された人工物だとしか思えないもの」


 そう言えば確かに、天井が光ってるわけでも壁が光ってるわけでもないのに明るいな。

 真っ直ぐに伸びる広い道をゆっくりとした足取りで進んでゆく俺達。


「……いや、これじゃただの散歩じゃないですか!

 ここはダンジョンなんですよね? 第一階層名物のスライムはどうなってるんですか?」


「スライム? この本道には出ないわよ?

 そもそも今は真紅璃くんが本当に魔力酔いしないのかの確認をしていただけだし。

 もっとも、それに関してはもう終わったみたいなモノだけどね!

 おめでとう! あなたはダンジョン適合者(仮)です!」


 回りの人間から贈られる惜しみない拍手。

 それがダンジョンの壁に反射してこだまする。

 もちろん拍手を向けられている俺歓喜! ……ではなく、ただただ困惑。


 ただ歩いただけで褒められるとか赤ちゃんかよ!

 魔力耐性が最初からある人間は少ないと言うのは嬢から聞いたけれども!

 それの何がめでたいのかの説明をしてくれよ!

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― 新着の感想 ―
独白部分は共感できるところも多かったが、他人と喋り出すとちょっと気持ち悪いなこの主人公
担任と冒険者のお姉さんの喋り方が一緒でキャラの区別がつきにくい
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