第00話 異世界『勇者(しょうにん)』送り返される。 その1
ネトコン落ちた……くっ、こうなれば全話リニューアルだ!!
ゴツゴツとした石造りの、狭く古びた建物の中。
使い込まれた安っぽい木製カウンターの上で、大きさも材質も違う硬貨――鋳造の荒い銅貨や銀貨を数える俺。
「苦節十年、誰に褒められる事もなく、よく頑張ったよな。
戦闘に役立つスキルも持ってない、下級の魔物にすら苦戦する。
そんな俺がこうして、店まで構えることが出来たなんてさ」
もちろん、店の場所は国都ではなく地方都市。
なおかつ店舗も中古物件なんだけどな?
なんたってここ、竜や悪魔にとどまらず、魔王なんていう化け物がいる世界だからさ。
安全面を考え、地方ではあれど城塞都市で暮らそうと思えば、中古でもなかなかのお値段になってしまうのだ。
どうせなら中古じゃなくて新築が良い?
……そりゃ俺だってピッカピカの新店舗の方が良かったよ!
でも、繰り返すけどここは城塞都市だからな?
壁に囲まれた、安全ではあるが狭い土地で新築物件とかとてもとても……。
今ある建物を取り壊すのに税金。
解体したゴミを処理してもらうのに税金。
木材や石材を買うのに税金。
新築した建物にも、もちろん税金!
そんなもの、国で一番とは言わないまでも、十指に入るくらいの大店。
大貴族様お抱えの御用商人でもなければ、店舗の建て替えなんてそうそう出来るこっちゃないんだよ……。
だ・か・ら、中古物件と言えど!
俺くらいの若さで、自分で店を持つというのは十分に凄いことなのだ!
いや、一体誰に自慢してるんだ俺は。
さて、少し話は戻るが。
そんな俺がこのイスカリアと呼ばれる異世界に呼び出されたのは今から十年ほど前のこと。
期待の大型新人ならぬ希望の異世界勇者現る!
などと派手な鳴り物入りで、勇者の一人として地球から拉致……ではなかったか。
一応ではあるが、ちゃんと転移される前に、本人の意思確認もされたし。
でもな? 現実世界――日本では両親と家族旅行の中。
居眠りから目覚めれば目の前に迫る大型トラックのバンパー!
頭真も白大パニック、茫然自失の状況でいきなり、
『幸運にも貴方は大いなる存在に認められました。
これより我々の世界で勇者として輝かしい活躍をして頂けませんか?』
だからな?
その状況で、
「あっ、自分そういうの宗教的に無理なんで。
申し訳ないですけど今回はご縁がなかったってことで」
とか言える奴……おる?
だって、召喚を拒否しちゃえば、そのまま事故現場に取り残される、事故死が確定しちゃうような状況でだよ?
というか俺、あの時は何の返事もしてなかったんだよなぁ。
いきなりのことに驚いて、心のなかで呟いた、
「お、おう……」
と言う呟きは肯定の言葉ではなく。
日本人特有の、疑問を含んだ曖昧な表現なんだよ。
つまりちょっとした心の機微だったんだよ!
それを勝手に了承したと勘違いされた挙句、いきなり知らない場所――綺羅びやかなステンドグラスの光差し込む、荘厳な石造りの大きな教会の中に送り出された俺の心境ときたらもうね。
転生モノならとりあえず「……知らない天井だ」と言わせる余裕を見せろと。
てかさ、その教会の中には俺以外にも大量の少年少女がいたんだ。
そう、召喚されたのって俺だけじゃなかったんだよ。
数は力だし? 他にも大勢いるのは悪いことじゃないんだけどさ。
でもさ。わざわざ来るかどうかの確認までされて、勇者としてこの世界に召喚されたハズなのにその他大勢ってなんだよ。
あまつさえ俺が授けられた『祝福』なんて『商人』だからな?
いやそれ、祝福じゃなくて『職業』だろ!
ステイタスの鑑定に回ってた、優しそうな顔の司祭のオバサンに、二度見したうえで困惑顔されたわ!!
もっとも、それでも召喚された勇者だからと、商人にも物凄い秘めたる力的なモノがあると信じきっていた当時の俺。
戦闘向きじゃない祝福一つで、最前線で暴れまわ――ろうとするも、他のみんなが使えるような『技能』も『魔法』も覚えることはなく……。
もちろん、商人にも固有スキルはあったんだけどな?
例えば『空間収納』。
勝ち組決定スキルの代表キタ!
……と思ったら、勇者なら全員使えるスキルだった。
というか、現地の人間でもそれなりに持ってる人がいるという。
続いては『鑑定』。
これこそ勝ち組スキルだろ!
……と思ったら、勇者(ry
というか、現地の(ry
いや、固有スキルの意味ぃ!!
……もちろん、俺だけしか使えない『商店』ってスキルもあったんだけどな?
なんというか、これがまぁ使い勝手の悪い、悪すぎるスキルでさ。
内容的には、『暮らしていた世界の商品を自由に取引できる』っていう、いわゆるネットショップみたいな?
最初に他の連中が知った時には、あまりの有用性にその場が大きくどよめいたんだけど。
その取り引きの対価が『日本円』というね……。
いやそれ、異世界でどうやって入手しろっていうんだよ!?
その場にいる全員の財布の中身を掻き集めても大したものなんて買えんわ!!
……それでも、後々商売を始めるための資金は稼げたんだから文句は言うまい。




