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1話

初めまして。

魚津ダイチと申します。

特殊能力が急に目覚めて現代に生きれたらどうなるかなぁ〜

という妄想してたら浮かんできたので、書いてみました。

よかったら、一緒に心の旅をしましょう。

 日曜日の夜だからなのか、音の存在を忘れるほどの静けさだった。幹線道路から少し中に入った路地の住宅街。二人が立ち寄った自販機は、まるで暗闇を切り裂いたワームホールのように神秘的な光だった。僕はモコモコのダウンジャケットのジッパーを顎の部分まで締めた。冷え切ったジッパーの金具のチャリって音がよく聞こえる。隣にいる大隈リサ子から吐息や鼓動も聞こえてくるような、本当に音の少ない世界だった。僕は財布から五百円玉を煌々と光る自販機に入れた。

 

「あ、あたしブラックコーヒー」

 

 大隈リサ子は物怖じしない態度でプライベートな空間に侵入し、白いダウンからちょこんと出ている細い指でボタンを押した。

 女の子がこんなに近づいたのはいつぶりだろう…… と、僕は少したじろいだ。彼女はその反応を楽しんでいるように微笑む。

「中学生のくせに生意気な〜」

 僕はその緊張をごまかすように茶化しながら、黒い缶コーヒーを自販機から取り出しリコに渡す。

「リコんちは、貧乏だから砂糖ないんですよ」

 大隈リサ子は自分のことを、”リコ”という。友達からもそう呼ばれているので私もそう呼んでいる。

「え? リコんち貧乏って……」

 返答に困る。いつもそうだ。リコはいつも僕を困らせるんだよ。僕は彼女よりも5歳も上だけど、人間としての格は劣ってる気がして仕方ない。対等に付き合う為にはその差はあまりないほうがいい。

「そうやって、面白いこと言おうとして〜」

「へへへ」

 ガシャン。

 僕がそのワームホールの下部にある四角いブラックホールに手を伸ばす。

「えー、先生は子どもですかっ」

 出てきたのは、350mlのミルクコーヒー。

「えーえーそうですよ。子どもですよ」

 フーフーと息を吹きかけミルクコーヒーちょっとずつ飲んだ。口に広がったコーヒーの香りは好きだ。極寒の中で、暖かくて甘いものを胃に流し込むと、一瞬幸せな気分にさせてくれる。極寒の最中、過酷な状況をなんとか生き残ろうと絶望を希望に自動的に変換してくれるのだろう。

 「う〜 さむ……」と唸ったリコは、肩をすぼめて僕のつま先に自分のつま先をくっつけてきた。僕の心臓は強く鼓動を打った。150センチそこそこの彼女はうつむいたままブラックコーヒーを見つめている。僕はリコの表情を見下ろす形となった。コーヒーの香りが白い息とともに伝わってくる。

 人間の記憶は甘美なものより辛酸なものの方が強く残る。脳は悲しい未来にならないため対策を練り続け、人類は生存競争に勝ち抜いてきたからなのだろうか。

 

(この記憶もいつか忘れてしまうんだ……)

 

 僕はミルクコーヒーよりも甘美な今の状況に動揺した。もし、リコが僕の顔を見上げてくれたりして、僕がしゃっくりでもしたらキスでもしてしまいそうな距離。とうとう真っ白な肌で薄ピンクに頬を染めたリコはゆっくり僕を見上げる。黒目の輪郭の白と黒は美しくいっさい濁りが無い。そして、瞳孔への黒から薄茶色へのグラデーションはまるで夕日のように美しかった。

 キスをしないといけない状況なのだろうか? 僕はリコの美しさに見とれながら、焦った挙句、後退りしてしまった。

「もーー、先生なんでぇ? 意気地なし」

 リコは唇をつぐんだ。少し鼻にかかったかのような細い声。彼女は薄くてナチュラルに生えそろう眉尻を下げ恥ずかしがる。一方、僕は混乱していた。女の子にそんなセリフを吐かせた自分を責めたが。

「な、なんだよ、意気地はいつも無いもんだよ。男なんて」

 リコはイラッとした表情で、小さくため息をつく。

「もう、因数分解の解き方もう忘れちゃった」

「うそだ、さっきはスラスラ出来てたじゃん」

「……もう、忘れた。忘れたよ」

「……」

「もう一回ちゃんと教えてよね」

「……もちろんだよ」

 ブィーン。空気が存在する音だけ響く静寂に自販機のモーターがうなる音が僕たちを包みこむ。なぜか安心する人工的な音。

 僕は意気地なしだ。彼女が「キスして」と言っていたらできたかもしれない。自分からアクションを起こす事ができない。ただ見つめていることしか出来なかった。そんな僕を見かねた彼女は「行こ」とつぶやき歩き始めた。

 僕は一息にミルクコーヒーを飲んだ。冷たくなったミルクコーヒーは、僕になにも与えてくれない。リコの方はブラックコーヒーをもう飲み干していて、指でそっと飲み口を拭い、ダウンの大きなポケットに空いた缶を突っ込む。

 白く闇に浮かび上がる自販機が僕たちの後方で少しずつ小さくなっていく。僕はそろりとリコの顔色をうかがう。両手をダウンに突っ込んで歩いている彼女のふっくらした唇の隙間から、ゆっくりと白い吐息が漏れ出ている。そして、ゆっくりと白い息が漂い消えて、また漂う。

「いつですか?」

「え?」

「先生の家でまた勉強を教えてよ」

「あ、うん。いつでもいいよ」

「先生は忙しくないんですか?」

「俺、いま塾のバイトしかしてないからね」

「そうか、明日は会えるのか」

「そうだね、塾でね。……なんか、遅い時間になっちゃったね」

「いいのいいの、親は私に無関心だし、お姉ちゃんにはあんまり会いたくないし。あ、ここ曲がったらで大丈夫ですよ」

「え?」

「すぐそこが家なんです」

「そうか、わかった」

「うふふ、お姉ちゃんに見られたらどうしよ」

 いま、彼女にからかわれたはずなのに、僕はつられて苦笑いをするのが精一杯だった。そして、僕とリコはスポットライトのように照らす街頭の曲がり角を曲がった。


 今日はしょうがない。また会えるんだから。


「じゃあ、明日な」

「バイバイ」

 今日のリコの笑顔は下手くそだ。後味が悪い。目を細め頬を無理やり上げたような、作った笑顔のように見える。キスしていたら状況は変わっていたのだろうか。心に細い針を刺されたような感覚が苦しい。その時、僕は寂しいという感情だったことには気づけなかった。(後味の悪い笑顔しないでよ)とだけ思った。

 ぽつんぽつんと明かりが灯る住宅街に向かっていく小さな後ろ姿をしばらく見ていると、まるでカオスの中から生まれた1つの光のように見えてきた。無関心な親、会いたくない姉。僕はリコを包み込む混沌の王になってあげたいと思った。彼女を救えるんなら悪役になっても構わない、なんて思った。


 その瞬間。


ビィーーっっっっっーーーー!!

頭の中を切り裂くように大きな耳鳴り。今まで感じたことのない感覚だった。耳鳴りが大きくなるにつれ、視界も淡く白茶けてくる。光と闇の境界線が急にぼやけてくるのだった。


「え? なんだ?」


 希望のように光っていたリコの後ろ姿もどんどん闇に飲まれてゆき、まるであのカオスへと戻ってしまうようだった。大きく深呼吸して自分を落ち着かせようと努力するが、視界は黒くうごめいているモノしか見えなくなった。ああ、そうだ目を閉じたんだと認識した僕はすべてが途切れてしまった。


 


 どのくらい時間が経ったのだろう。僕は病気かなんかで倒れたのだろうか? ゆっくりと意識が戻ってきた。すると急に、闇の中心に炎のような赤い発光体。もやもやと漂っている。人の輪郭のようにも見えてきた瞬間。バチっ! 一瞬ではじけ、一気に現実の風景が見えるようになっていた。

 

 僕の目の前には1人の少女がいた。なんだか怒りに震えているようだった。周りを見渡すとさっきまでのツンとした寒い夜の景色ではない。自分の姿を目視すると夏のような軽装で、頬を伝う汗の感覚もある。蝉の声とともに音も聞こえてきた。

「勝手に行動しないでって言ってるでしょ!」

 少女はいきなり僕に言葉をぶつけてくる。あれ? 誰だこの子は? 知っている気もするが、全く思い出せない。というか、なんで僕は少女に怒られているんだ? 戸惑う僕は何も言えずに佇んでいる。少女は仏頂面で僕の手を引いて歩き出した。どうなっていんだ? リコを送りに彼女の家の近くで、ミルクコーヒーを飲んでいて……今はミルクコーヒーを持っていたはずの手は、少女のちょっと冷たい小さな手に握られている。上品な緑色のカットソーの背中の部分になびく少女の髪の毛は、光が当たるとナチュラルな茶色で美しかった。

 僕は彼女に引っ張られながら歩き続ける。そこは沢山の人が歩いていて、どの人たちも僕たちに対し無関心。少し遠くを見ると大きなビルが並んでいて、さっきまでいた夜の住宅街とは全く違う場所だった。

「ここはどこ……です?」

 僕の手を引く少女はこっちを振り向きもせず。

「……日本です」

 彼女の手が強く握り締められる。

「君は誰、です?」

「私はあなたの保護者よ」

 予想外の答えに絶句してしまった。僕はこの少女のことを知らないし自分がなでこんな場所にいるのかもわからない。なんとか状況を把握することに努めようとしたが。

 「あー違う違う! あなたが私の保護者!」

 意味がわからない。結婚もしてないし子作りもしたことないしおれはこんなに大きい子供を持つほど歳をとっていない。まったく冷静になれなかった。

 

 すると大きな不協和音のような音が脳に直接伝わってきた。実際にはそんな音はしていないのだが、とても強い違和感が襲ってきた。ビルのショーウィンドウだ。そこに大きな違和感が写っている。ガラスをこするひどい音が脳に響いてくる。僕は立ち止まり少女の手を離す。すごい剣幕で僕を引っ張って歩いて行こうとするが、僕はそれどころじゃなかった。

 ショーウィンドウには、頭に包帯が巻かれ腕や胸板は強靭な筋肉で覆われいる男が写っている。そいつはじっと僕を見つめている。その男は僕だ。どうあがいても僕だった。顔は……顔は僕であるのだが、知っている僕じゃなかった。まるで違う人間が僕の仮面をかぶっている様な……


「私は……」


 次第に呼吸が浅くなってゆく。自分の見えている姿とショーウィンドウに映る姿を何度も何度も見返す。不協和音がどんどん鋭くなり脳みそに突き刺さってくるようだった。とうとう自我を保つことができなくなり卒倒しそうになった瞬間、一片の記憶の扉が開いた。


 私は今村荘介。19歳からの20年間の記憶を喪失した39歳である。



読んでいただいてありがとうございます。

誤字脱字が得意すぎて、、、何度も見直ししてますが、お見苦しいところあったらすみません。

もし、見つけたら報告いただけると幸いです。


それでは次のお話でお会いしましょう。

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